事業譲渡と会社分割
2015(平成27)年11月17日
●事業譲渡
「一定の事業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産」の譲渡。
- →譲渡により,当該財産によって営んでいた事業活動が承継され,
譲受人が営業者たる地位を承継し,
譲渡会社は法律上当然に競業避止義務を負う。 (最判S40.9.22) - ・株主総会特別決議を要する。
- ・反対株主の買取請求権あり。
但し,事業の「全部」譲渡,かつ承認決議と同時に解散決議もした場合は,
反対株主の株式買取請求権はない。(469-1①)
●事業の重要な一部譲渡
- ・譲渡する資産の帳簿価額が,譲渡会社の総資産額の5分の1以上を超えるとき
(※これを下回る割合を定款で定めた場合,その割合を超えるとき) - ・重要性の判断は難しいため,この割合で線引きをしている。
→「簡易事業譲渡」ができない場合,という理解でよい。 - ・株主総会特別決議を要する。
- ・反対株主の株式買取請求権あり。
●重要な財産の譲渡
- ・取締役会の決議事項であり,(代表)取締役への委任はできない。(362-4①)
- ・重要な財産の処分に該当するか否かは,
①当該財産の価額,②会社の総資産に占める割合,③当該財産の保有目的,
④処分行為の態様,⑤会社における従来の取扱い,
等の事情を総合考慮して決せられる。(最判H6.1.20)
●簡易事業譲渡
- ・譲渡する資産の帳簿価額が,譲渡会社の総資産額の5分の1を超えない場合
→467条の適用を受けないことから,株主総会決議が不要となる。
また,反対株主の買取請求権もない。
●会社分割と,簡易な会社分割
- ・株式会社が会社分割を行う場合,原則として株主総会の特別決議を経る必要あり。
反対株主には,株式買取請求権が認められる。 - ・しかし,吸収分割を行う場合で,吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が,吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない(これを下回る割合を定款で定めた場合,その割合を超えない)場合は,株主総会の特別決議が不要。これを,簡易な会社分割という。
- ・簡易な会社分割の場合,
分割会社には,株式買取請求権が認められない。(785-1①,784-2)
承継会社には,全株主に株式買取請求権が認められる。(797-1) - ・なお,以下の場合は,株主総会の特別決議を経る必要が生じる(簡易にできない)。
- ①承継会社において,
株主に対する株式買取請求に係る通知又は公告の日から2週間以内に、法務省令で定める数の株式を有する株主(特別決議で議案が否決される可能性のある数。すなわち,6分の1)が当該組織再編行為に反対する旨を当該会社に通知したとき(796-3)。
- ②合併差損が発生する場合(796-2,795-2)
- ③対価として譲渡制限株式を交付する場合で存続株式会社が公開会社でない場合(796-1但)
●事業譲渡と,会社分割の差異
事業譲渡 | 分割 |
労働契約承継法の適用がない 各種契約の相手方の同意を要する 債権者保護手続きが不要 譲渡の相手方は「会社」に限られない |
適用がある 個別の相手方同意不要 債権者保護手続きを要する 分割の相手方は,「会社」に限る |
※条文は,いずれも会社法
<事業譲渡>
事業譲渡 | 事業の重要な一部譲渡 | 重要な財産の譲渡 | 簡易事業譲渡 | |
決議要件 | 株主総会の特別決議 | 株主総会の特別決議 | 取締役会の決議事項 代表取締役への委任不可 |
総会決議不要 |
条文 | 467-1① | 467-1② | 362-4① | 468-2 |
<分割>
会社分割 | 簡易な会社分割 | |
決議要件 | 株主総会の特別決議 | 総会決議不要 |
条文 | 783-1,804-1,309-2⑫ | 784-2 |