債権差押における転付命令のメリット・デメリット
2015(平成27)年6月8日
- 1 債権差押命令は,債務者に対し,債権の取立その他の処分を禁止し,かつ,第三債務者に対して債務者への弁済を禁止します(民事執行法145条1項)。
債権差押命令の効力は,差押命令が第三債務者に送達された時に生じます(同法145条4項)。
そして,金銭債権を差し押さえた債権者は,債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときに,第三債務者に対してその債権を取り立てることができます(同法155条1項)。但し,債権者は差し押さえた債権について取立が出来るだけで,差し押さえた債権そのものは債務者にまだ帰属しています。 - 2 債権者が第三債務者からその債権を取り立てるまでの間に別の債権者がその債権を差し押さえた場合は,債権差押には弁済禁止の効力までしかないので先に差し押さえた債権者でも優先せず,差押の競合として債権額により按分配当されます。
- 3 このように差押の競合することを排除し,その差し押さえた債権から独占して満足を得ることが出来る手続が「転付命令」です。
これが「転付命令」のメリットです。 - 4 「転付命令」とは,債務者が第三債務者に対して有する金銭債権である被差押債権を,債務者の債権者に対する債務の支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令です(同法159条1項)。
- 5 転付命令は,確定しなければその効力を生じません(同法159条5項)。
- 6 そして,「債権差押命令」及び「転付命令」が確定した場合,差押債権者の債権及び執行費用は,転付命令にかかる金銭債権の券面額で,転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなされます(同法160条)。
すなわち,転付命令により債務者から弁済されたものとみなされますので,債権者が転付命令により取得した第三債務者に対する債権について第三債務者が無資力だったり何らかの抗弁がついていて債権者が満足を得られなかったとしても,債権者は債務者の財産についてもう一度差押等をして弁済を受けることが出来なくなってしまうのです。
これが「転付命令」のデメリットです。 - 7 このような危険性が「転付命令」にはありますので,安易に債権差押命令申立と同時又はその後に「転付命令」申立をすることはとても危険です。
- 8 なお,預金債権について転付命令がなされた後,金融機関がこの預金債権と銀行が債務者に対して有する債権とを相殺し,預金債権が転付命令前に遡って消滅したとき(銀行取引約定書によれば,ほぼ例外なく転付命令前に相殺適状となります。)は,転付命令の効力は生じないとした判例があります(最判昭和50年9月25日)。
- 9 この判例によればそのような場合転付命令がなかったことになりますので,債権者は債務者の転付命令を受けた以外の財産を別途差押えることが可能になります。