「通常共同訴訟」と「同時審判の申出」,並びに「訴えの主観的予備的併合」について
1 「共同訴訟」とは,複数の当事者が当初から原告または被告になっていることを言い,「訴えの主観的併合」ともいいます。
「通常共同訴訟」とは,各共同訴訟人と相手方との間で,一律に勝敗を決する必要性のない場合で,合一確定が要請され勝敗が一律に決まらなければならない「必要的共同訴訟」と,異なる訴訟類型です。
そういう意味で「通常共同訴訟」は,もともと別々の訴訟(別訴)で解決されても差し支えない性質の事件がたまたま1つの訴訟手続に併合されているにすぎないものです。
しかし,「通常共同訴訟」は,どのような場合にでも出来るわけでなく,各共同訴訟人の請求ないし各共同訴訟人に対する請求が相互に一定の共通性・関連性を有する必要があります。
これを「主観的併合要件」といいます。
「主観的併合要件」には,①訴訟の目的たる権利義務が共同訴訟人に共通であるとき,②訴訟の目的たる権利義務が同一の事実上および法律上の原因に基づくとき,③訴訟の目的たる権利義務が同種であって,事実上および法律上同種の原因に基づくとき,
が挙げられています。(民訴法38条)
2 「通常共同訴訟」の審判においては,上記のように,もともと別々の訴訟(別訴)で解決されても差し支えない性質の事件がたまたま一つの訴訟手続に併合されていることから,各共同訴訟人は他の共同訴訟人に制約されることなく,それぞれ独立に相手方に対する訴訟を追行することが出来,その内の1人について生じた事項は他の共同訴訟人に影響を及ぼさないという「共同訴訟人独立の原則」(民法39条)が適用されます。
また,裁判所は,ある共同訴訟人の訴訟についてだけ弁論を分離することが出来ます。(民訴法152条1項)
なお,「通常共同訴訟」には,共同訴訟人間の「主張共通・証拠共通の原則」もあるとされますが,それはあくまでそれぞれの共同訴訟人についての手続保障を害しない範囲のものであり,「通常共同訴訟」においては,裁判の統一の法律上の保障はなく,共同訴訟人にそれぞれ異なる判断が下されることがあり得ます。
3 「訴えの主観的予備的併合」とは,数人の,または数人に対する請求が,理論上両立し得ない関係にあって,いずれが認められるかがにわかに判定し難い場合に,共同訴訟の形態をとりつつ,それぞれの請求を順序づけて審判を申し立てる場合をいいます。
たとえば,本人でなく代理人と本人のためとして契約したが,代理人について無権代理の疑いがあるときに,第1次的に代理行為の効果が本人に帰属するとして本人に請求し,この請求が認められない場合に備えて,第2次的に代理人と契約したとして代理人に対する請求をするような場合です。
この「訴えの主観的予備的併合」については,①予備的被告の地位がすこぶる不利益・不安定であること,②前述した「共同訴訟人独立の原則」が「訴えの主観的予備的併合」においても適用される結果,いずれか一方に対し,またはいずれか一方が勝訴できるという意味での裁判の統一の保障は必ずしも得られないこと,を理由に不適法な併合形態であるとして許さない判例もあります。
他方,「訴えの主観的予備的併合」を適法とする判例もあります。
4 「同時審判共同訴訟」は,前記3項の「訴えの主観的予備的併合」で例示した本人と代理人との両方に対する請求のように,実体法上両立し得ない2人以上の被告に対する訴訟上の請求について,原告が「同時審判の申出」をすると,裁判所の弁論分離権限が否定され弁論及び裁判を分離しないで審理・判決される手続です。(民訴法41条)
同一手続で審理・判決がなされるので,事実上裁判の統一がはかられることが期待される手続です。
しかし,この審判形態は,弁論及び裁判を分離しないで併合して行うというだけであり,「通常共同訴訟」であることから,「共同訴訟人独立の原則」が適用され攻撃防御活動は各共同被告が独立に行えます。
5 「訴えの主観的予備的併合」と「同時審判共同訴訟」との関係
実体法上両立し得ない2人以上の被告に対する訴訟上の請求について,「同時審判共同訴訟」の審判形態が「訴えの主観的予備的併合」の審理需要の多くを満たすことは認められます。
しかし,原告として複数の被告に対する請求を順位づけたい場合は,「同時審判共同訴訟」では不十分であること,「同時審判共同訴訟」では,「通常共同訴訟」の「共同訴訟人独立の原則」が働くことから「訴えの主観的予備的併合」の審理形態と必ずしも同一ではないことの点で,「訴えの主観的予備的併合」の審理形態を認めるメリットがあるものと思われます。
なお,本稿は,中野貞一郎・松浦馨・鈴木正裕編「新民事訴訟法講義(第2版補訂版)」(有斐閣大学双書)と,伊藤眞著民事訴訟法第3版3訂版(有斐閣)を参考にさせていただきました。