製造物責任
2004(平成16年)1月5日
製造物責任とは、
製造物に関して何らかの欠陥があって、それにより消費者やその物の使用者が被害を受けた場合に、製造業者に損害賠償させる制度です。
第1 民法の仕組
- 1.民法の原則
自由な経済活動を保障するために以下の原則を採用しました。 - 1) 私有財産制
- 2)契約自由の原則
- 3)過失責任の原則
- 2.上記3の過失責任の原則は以下の条項に規定されています。
- 1)民法415条(債務不履行)
「債務者ガ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ」 - 2)民法709条(不法行為)
「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」 - 3.契約当事者でないと債務不履行責任を問えない。
契約当事者間でしか債務不履行責任を問えません。
契約関係にない者からの権利侵害による損害賠償は不法行為法で処理するしかありません。
製造業者から直接製造物を買い受けた人だけが製造業者に対し、債務不履行責任を問えますが、それ以外の態様で(卸商ないし小売商から買う場合)製造物を購入した人は製造業者に対しては不法行為責任しか問えなかったのです。 - 4.不法行為における過失の主張立証の困難性
民法709条(不法行為責任)は、「過失責任主義」をとっているので、製造者の「故意又は過失」が責任要件となるため、被害者は、その欠陥ある製造物が製造されるにあたって、製造業者にどのような過失(不注意)があったかを主張立証する必要があります。
しかし、被害者がその製品を製造した製造業者の工場内における製造工程を知ることは困難であり、また十分な技術知識を持たない被害者が、製造業者の「故意または過失」を証明することは、非常に困難な状況にあります。
第2 製造物責任法
- 1.製造物責任法(PL法)
平成7年7月1日から施行された製造物責任法(PL法)は、製造物の事故によって被害を被った者が、その製品の製造業者に損害賠償を請求する際には、これまでの「製造業者の故意または過失」に代えて、「製品の欠陥」を主張・立証すれば足りるとされました。(一種の無過失責任である。) - 2.製造物責任の要件
- 1)自らの意思によって引き渡した製造物の欠陥によって
- 2)人が死傷し、または財産に損害があった場合に
- 3)製造業者などが、被害者に対して負うべき損害賠償責任
- 3.目的、製造物、製造業者等
- 1)第1条(目的)
製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図る。 - 2)第2条(定義)
「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
「製造業者」とは、当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者やその他定義された者をいう。 - 4.欠陥とは
第2条
「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
製造物責任(PL)法の「欠陥」の分類(3種類) - a)設計上の欠陥
- b)製造上の欠陥
- c)警告または指示上の欠陥
- 5.製造物責任(PL)
第3条
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第3項第2号若しくは第3号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、製造物責任の問題ではなくなります。
製造物責任による損害賠償請求の責任要件 - 1)損害の発生
- 2)製造物に欠陥が存在すること
- 3)損害と欠陥の間に因果関係があること
- 6.開発危険の抗弁
第4条(免責事由)
当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。 - 7.部品・原材料製造業者の抗弁
第4条(免責事由)
当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。 - 8.期間の制限
第5条(期間の制限)
被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間行わないときは、時効によって消滅する。
その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したときも、同様とする。
ただし、この10年の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する。 - 9.民法の適用
第6条(民法の適用)
製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法の規定による。
以上
参考文献
1.購買・外注取引とPL 宮島敏夫著 社団法人商事法務研究会
2.逐条解説製造物責任法 経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編
社団法人商事法務研究会
3.PL対策ハンドブック 通商産業省産業政策局消費経済課編 通産資料調査会
4.注釈製造物責任法 山本庸幸著 ぎょうせい
5.製造物責任対策ハンドブック 朝見行弘編著 中央経済社
6.新版製造物責任法 小林秀之著 中央経済社