「嫡出否認訴訟」と「親子関係不存在確認訴訟」と「父を定める訴訟」
2014(平成26)年1月25日
2014(平成26)年2月15日改訂
2024(令和6)年3月12日改訂
2014(平成26)年2月15日改訂
2024(令和6)年3月12日改訂
民法の一部を改正する法律が令和4年12月10日に成立し、嫡出推定規定及び嫡出否認制度が改正されました。
上記の改正された民法規定の施行日は、2024(令和6)年4月1日です。(附則1条)
以下、改正された民法規定を「改正民法」、改正前の民法規定を「改正前民法」と言います。
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第一 嫡出否認訴訟
- 1 夫の子として「推定される場合」と、「推定されない場合」、そして「推定が及ばない場合」ないし「推定を受けない場合」
- (1)「改正前民法」では、婚姻の成立後200日経過した後に出生した子、または、婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、夫の子と推定されていました。
- (2)「改正民法」では、妻が婚姻中に懐胎した子は当該婚姻における夫の子と推定され、婚姻前に懐胎した子であって婚姻成立後に生まれた子は当該婚姻における夫の子と推定されます。(改正民法772条1項)
- (3)そして、婚姻の成立日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定され、婚姻の成立の日から200日を経過した後、又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます。(改正民法772条2項)
- (4)前述の(2)の改正民法772条1項の場合に、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定されます。(改正民法772条3項)
- (5)上記(2)、(3)、及び(4)記載の子は「推定される嫡出子」となります。
- (6)但し、上記の嫡出子として推定される期間内に生まれた子であっても、夫婦間に通常の夫婦としての生活が存在せず、妻が夫によって子を懐胎することが明らかに不可能または著しく困難な事情がある場合には、所謂「推定が及ばない嫡出子」ないし「推定を受けない嫡出子」として、改正民法772条の推定は受けず、夫が自分の子でないと主張する方法は、嫡出否認訴訟、又は下記第二の親子関係不存在確認訴訟によることになると思われます。
- (7)そして、婚姻の解消もしくは取消しの日から300日を過ぎて生まれた子供は、「推定されない嫡出子」となります。
- 2 前項(2)、(3)、(4)に記載した「推定される嫡出子」を、父親の子供ではないと主張する訴訟が「嫡出否認訴訟」です。
- 3 「改正前民法」では、この嫡出否認訴訟の出訴権者は、夫だけであり、それ以外の者は嫡出否認訴訟を提起することができませんでした。
- 4 「改正民法」では、嫡出否認訴訟は父親だけでなく、子や子の親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人も子のために行うことができます。(改正民法774条1・2項)
- 5 更に、「改正民法」では、母親も嫡出否認訴訟を提起できます。(改正民法774条3項)
- 6 「改正民法」では、774条4項により前夫も嫡出否認訴訟を提起できます。
- 7 嫡出否認訴訟の被告は、
父の否認権については、子又は親権を行う母
子の否認権については、父
母の否認権については、父
前夫の否認権については、父及び子又は親権を行う母
です。(改正民法775条1項) - 8 嫡出否認訴訟の出訴期間は、
父の否認権は、父が子の出生を知った時から、
子の否認権は、子の出生の時から、
母の否認権は、子の出生の時から、
前夫の否認権は、前夫が子の出生を知った時から
それぞれ3年以内に提起しなければなりません。(改正民法777条) - 9 人事訴訟は調停前置主義をとっていますが、調停前置は訴訟要件にはなっていないので、調停申立をしないで直接嫡出否認訴訟を提起しても不適法却下されることはなく、原則として家事調停に付されるに止まります。
嫡出否認訴訟は、出訴期間が3年と制限されていますので、3年の出訴期限が間近になっている場合は実務的には調停をしないで嫡出否認訴訟を提起する方が安全だと思います。 - 10 経過措置
改正民法施行日(2024(令和6)年4月1日)より前に生まれた子に関しては、父親以外の嫡出否認訴訟の出訴権者である子や母は、改正民法施行日(2024(令和6)年4月1日)から1年を経過するまでの間嫡出否認の訴えを提起できます。(附則4条2項)
なお、親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任しなければなりません。(改正民法775条2項)
但し、改正民法778条で、1年の出訴期間の場合があります。
なお、「改正前民法」の出訴期間は、夫が子供の出生を知ったときから1年です。
これは、無戸籍の人を少なくするための救済規定です。
第二 親子関係不存在確認訴訟
- 1 前記第一の嫡出否認訴訟の1項の(6)及び(7)記載の「推定が及ばない嫡出子」ないし「推定を受けない嫡出子」、そして、「推定されない嫡出子」については、親子関係不存在確認訴訟で子供の父親でないことの確認を求めることができると思われます。
- 2 なお、親子関係不存在確認訴訟には、嫡出否認訴訟のような出訴期間の制限はありません。
いつでも提訴できます。 - 3 親子関係不存在確認訴訟の原告は、自分の身分法上の地位について当該親子関係の存否を確定する利益(訴えの利益)がある者であれば、誰でもなれます。
- 4 親子関係不存在確認訴訟の被告は、当該訴訟に係る身分関係の当事者の一方が提起する場合は、他の一方を被告とすればよく、第三者が提起する場合は、当該身分関係の当事者の双方を被告とし、その一方が死亡した後は他の一方だけを被告とすればよいのです。
当該訴えの被告とすべき者が死亡し、被告とすべき者がいないときは検察官を被告とすればよいことになります。 - 5 親子関係不存在確認訴訟も人事訴訟ですので、調停前置主義の適用があり、訴えを提起する前に家庭裁判所に調停の申立をしなければなりません。
但し、調停前置は訴訟要件にはなっていませんので、前述の通り、調停をしないで親子関係不存在確認訴訟を提起しても却下されることはなく、原則として調停に付されることになります。
- 1 重婚の禁止規定(改正民法732条)に違反して婚姻をした場合に女が出生した子が前述の改正民法772条の規定によりその子の父を定めることができないときは、前婚の夫と後婚の夫の両者について父性の推定が競合することになります。
- 2 父を定める訴えの当事者は、子、母、母親の後婚の配偶者、母親の前婚の配偶者が当事者となり、原告あるいは被告となります。
- 3 父を定める訴えは、人事訴訟ですので調停前置主義をとられていることは、前述した嫡出否認訴訟及び親子関係不存在確認訴訟と同じです。
- 4 父を定める訴えの提訴期間の制限はありません。いつでも提訴できます。
「改正民法」は、「父を定める訴え」という制度を設けて、裁判所の審理により父親を確定します。(改正民法773条)
参考文献
- ・令和5年版図解民法(親族・相続)
鈴木潤子 監修
一般財団法人大蔵財務協会 発行 - ・民法改正で変わる!親子法実務ガイドブック
安達敏男・吉川樹士・石橋千明 著
日本加除出版株式会社 発行 - ・一問一答令和4年民法等改正 親子法制の見直し
佐藤隆幸 編著
株式会社商事法務 発行