哲学者キルケゴール「死に至る病」より抜粋。
キルケゴールは絶望を克服するには、どうすればよいかについて述べている。
絶望に対して唯一安全な保証があります。すなわち人が義務である「あなたは
愛さなければならない」によって永遠を自分の内部に取り入れることなのです。
これをしない人は絶望に生きるのです。幸福と安楽は絶望を覆い隠すことがで
きます。とはいえ、不幸や災難がその絶望を引き起こしたのではありません。
ただ、元より絶望であった事を暴露したに過ぎません。すなわち、人を絶望さ
せているものは不幸ではありません。むしろ彼が不滅者を持っていないことが
理由であります。不滅者は正に絶望に陥ろうとするときに「あなたは愛さなけ
ればならない」という指令を提げて訪れるのです。死が愛する二人を隔てるか
もしれません。そのとき、あとに残されたものが絶望の淵に沈もうとするとき、
誰が彼を救うことができるでしょうか。ただ不滅者のみがよく救うでありまし
ょう。もし不滅者が「あなたは愛さなければならない」といましめるとき、そ
れは「あなたの愛は永遠の意味を持つ」と言っているのです。しかし、それを
慰めとして言うのではなく、司令として言います。なぜなら危険が近づきつつ
あるからです。愛する人を失った悲しみが正に彼を圧倒しようとしている瞬間
に、彼に何を言ってやったらよいかを考えてみて欲しい。「あなたは愛さなけ
ればならない」といういましめは、あなたがどうにも思い当たらなかった最後
の言葉であったでありましょう。
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