エノス書
エノス、熱烈に祈り、罪の赦しを得る。主の声がエノスの心に聞こえ、将来レーマン人に救いが与えられることが約束される。ニーファイ人、レーマン人を再び正そうと努める。エノス、自分の贖い主のことを喜ぶ。紀元前約420年。
01 さて見よ、わたしエノスは、父が正しい人であったことを知っている。父はわたしを父の言葉で、また主の薫陶と訓戒によって教えてくれたからである。神の御名がほめたたえられるように。
02 わたしは、罪の赦しを受けるに先立って神の前で味わった苦闘について、あなたがたに述べよう。
03 見よ、わたしは森で獣を狩ろうとして出かけた。かつてわたしは、父が永遠の命と聖徒たちの喜びについて語るのを度々聞いていたのだが、その父の言葉が、そのときになってわたしの心に深くしみ込んできた。
04 すると、わたしの霊は飢えを感じた。それで、わたしは造り主の前にひざまずき、自分自身のために熱烈な祈りと懇願をもって造り主に叫び求めた。わたしは一日中造り主に叫び求めた。また夜になっても、声が天に届くように、まだ大きな声を上げていた。
05 すると、わたしに声が聞こえた。「エノスよ、あなたの罪は赦された。あなたは祝福を受けるであろう。」
06 わたしエノスは、神は偽りを言われるはずがないので、わたしの罪がすでにぬぐい去られたのを知った。
07 それでわたしは、「主よ、それはどうしてですか」と尋ねた。
08 そこで、主はわたしに言われた。「あなたが、これまでに声を聞いたことも見たこともないキリストを信じているからである。多くの歳月が過ぎた後、キリストは肉にあって自分自身を現すであろう。それゆえ、行きなさい。あなたの信仰があなたを罪のない者としたのである。」
09 さて、この御言葉を聞いたとき、同胞であるニーファイ人の幸いを願う気持ちがわいてきた。それでわたしは、彼らのためにわたしの心のすべてを神に注ぎ出した。
10 わたしがこのように心を込めて祈っていると、見よ、再び主の声がわたしの心に聞こえて、次のように言われた。「わたしはあなたの同胞を、わたしの戒めを守る勤勉さに応じて訪れよう。わたしは彼らにこの地を与えた。この地は聖なる地である。罪悪のゆえでなければ、わたしはこれをのろわない。それゆえ、わたしはすでに述べたように、あなたの同胞を訪れよう。また、彼らの背きに対しては、彼ら自身の頭に悲しみを下そう。」
11 わたしエノスは、この御言葉を聞くと、主を信じる信仰が揺るぎないものになってきた。そして、わたしの同胞、すなわちレーマン人のために、何度も長い時間熱烈に主に祈った。
12 そして、わたしが祈り、力のかぎり努力した後に、主はわたしに、「あなたの信仰のゆえに、わたしはあなたの願いを望みどおりに聞き届けよう」と言われた。
13 さて見よ、わたしが主に望んだこととは、わたしの民のニーファイ人が戒めに背くようになって、何らかの方法で滅ぼされてしまっても、レーマン人が滅ぼされなければ、主なる神が聖なる腕の力によってでもわたしの民ニーファイ人の記録を残し、それが将来いつかレーマン人に伝えられて、彼らが救いにあずかれるようにしていただくことであった。
14 現在のところ、レーマン人を真実の信仰に連れ戻そうとするわたしたちの努力は、むなしいものとなっている。彼らは激しい怒りをもって、何とかしてわたしたちの記録とわたしたち自身を、それにわたしたちの先祖のすべての言い伝えを絶やしてしまおうと誓っているのである。
15 しかしわたしは、主なる神がわたしたちの記録を残す力を持っておられることを知っていたので、また主なる神がかつてわたしに、「あなたがたは必ず与えられると信じて信仰をもってキリストの名によって求めれば、何でも与えられる」と言われたので、わたしは続けて神に叫び求めた。
16 わたしは信仰を持っていたので、わたしたちの記録を残すように神に叫び求めた。すると神は、御自身がふさわしいと思うときにそれらの記録をレーマン人に伝えると聖約された。
17 わたしエノスは、神が立てられた聖約のとおりになることを知っていたので、心が安らかになった。
18 また、主はわたしに言われた。「あなたの先祖たちも、わたしにこのことを求めた。このことは彼らの信仰に応じて行われるであろう。彼らの信仰も、あなたの信仰と同様であった。」
19 そこでわたしエノスは、ニーファイの民の中を巡って、将来起こることを預言し、また自分の見聞きしたことについて証した。
20 わたしは、ニーファイの民がレーマン人を、神を信じる真実の信仰に連れ戻そうと熱心に努めたことを証する。しかし、わたしたちの働きは無益であった。レーマン人の憎悪は凝り固まっていた。そして彼らは、邪悪な性質に任せて野蛮で残忍で血に飢えた民となり、偶像礼拝と汚れに満ちた民となり、猛獣を食料として天幕に住み、短い皮帯を腰に締めて、頭をそった姿で荒れ野をさまよっていた。彼らは弓や三日月刀や斧を使うことを得意としていた。また、彼らの多くは生肉のほかは何も食べなかった。そして、彼らは絶えずわたしたちを滅ぼそうとしていた。
21 さて、ニーファイの民は地を耕し、あらゆる穀物や果実を作り、大きな家畜の群れやあらゆる家畜の群れ、また、やぎや野やぎ、多くの馬を飼っていた。
22 また、わたしたちの中には非常に多くの預言者がいた。しかし民は、物分かりの悪い、強情な民であった。
23 それで、非常に厳しく、戦争と争いと滅亡について説き、預言し、また死や永遠の来世、神の裁きと力など、これらすべてのことを絶えず思い起こさせ、主を畏れる気持ちを抱くように、絶えず彼らを奮い立たせるほかに、方法はなかった。これらのことと、きわめて率直に語ることのほかに、彼らが速やかに滅亡に落ちて行くのをとどめる方法はなかったと、わたしは言う。わたしが彼らについて書き記すのは、以上のとおりである。
24 わたしは一生の間、ニーファイ人とレーマン人との戦争を見てきた。
25 さて、わたしはもう年を取った。わたしたちの先祖リーハイがエルサレムを去ったときから、すでに179年が過ぎ去った。
26 わたしは、自分もやがて墓に入らなければならないことを知った。わたしはこの民に教えを説き、預言しなければならないこと、またキリストにある真理に従って御言葉を告げ知らせなければならないことを、神の力によって感じてきた。それでわたしは、生涯それを宣べ伝え、俗世のことよりもそれを喜びとしてきた。
27 わたしは間もなく安息の場所へ行く。それは、贖い主のもとでの安息である。わたしは、贖い主によって安息を得ることを知っているからである。わたしは自分の死すべき体が不死のものを着て、贖い主の前に立つ日のあることに喜びを感じる。そのとき、わたしは喜んで贖い主の顔を拝するであろう。そして、贖い主はわたしに、「祝福された者よ、わたしのもとに来なさい。わたしの父の住まいには、あなたのために用意された場所がある」と言われるであろう。アーメン。
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