サクランボ

 夏がやってくる頃になると爽やかなサクランボの到来物がテーブルを飾る 。
いろいろな果物がハウス栽培で作られ、季節を問わずに世界の各地からやってくるようになったが、 サクランボの季節と言えばやはりこの頃である。
  他の果物に比べると粒は小さいし、ちょっと高価でもある、 皮に歯応えがあり、キッチリと 種が口中に残る 、もっとも種飛ばしゲームに公式試合が あるというから大切な種ではある。
 何とも言えず爽やかな甘すっぱさが魅力的で、見るからに可愛らしい。

   先日サクランボの季節には少し遅いのだが山形盆地へのスケッチ旅行があった 。旅の仲間はいつも温泉旅行を楽しみにしている絵の仲間たちである。当日は梅雨明けの頃とあってとても暑かったが幸いにも晴天になり、目的地の山寺(立石寺)では1000段の石段を登るのに大汗をかかねばならなかった 。

 参拝路を囲む木立には あつらえたように蝉の音が響いてたが、木々の間を渉ってくる風がなければとてもこの暑さは凌げるものはなかったと思う。
参拝に先立って駅前の茶店で摂った冷たい「板そば」(いわゆるザルそばだがザルではなく板の上に竹の簾を敷くこの地方独特の名前)と、一杯の生ビールなどはアッと言う間に汗になってしまっただろう 。
  流れる汗がスケッチブックを濡らさないようにと額を拭くハンカチはすぐにグッショリだった。

 さて、今夜の泊りここから程近い温泉場である。客待ちのタクシーに3台欲しいと伝えると、 無線で揃えてくれるのに何分もかからなかった。
 タクシー・ドライバーはとても話し好きだった、 道すがら左右を見るとサクランボの木!?の並ぶ 果樹園の間を走っていた、まだ枝には点々と赤いサクランボが見えたので  「完熟さくらんぼか、 旨いだろうなァ」 と思わずつぶやいたら、すかさずドライバー氏「もうだめだよ、ブヨブヨになったサクランボは、ちっとも旨くない」と言うことだった、
  そういえば、皆で食べようとサクランボのひとパックを買ってきた仲間が言うには、山形駅の特設 売り場のおばさんも「この頃になると、さくらんぼが傷んでいるかどうか?パックの底から良く 見る」と言ってパックの品選びをしてくれたと言っていた。 サクランボの完熟は旨くないとは初めて知った。

 山形盆地からはこのほか 桃、ブドウ、ラ・フランス など数々の果物が我がテーブルに くる。
それぞれが食べ頃は難しいが、このドライバー氏は我々が東京からの客だと知ると
「東京ではどんな果物ができるのかな?」とつぶやいた。
 「そりゃァ、梨や、柿や・・・」 と応じたものヽ、いつもご当地産の果物にはお世話に なっておりますと言う ことは明らかであった。

 件のドライバー氏の望みは 「ミカンのなっているのを一度は見たい!」 そうであったが、 話に夢中になり、ホテルの入口を通り過ぎてしまったのはいささか蛇足ではあったが・・・

想い出落書き帖のTOPへ戻る