いわずと知れた、歴史小説の大家です。司馬史観と言われるくらい、小説と いうより評論という感じが強く、そこが好き嫌いのある処だと思いますが、 私は好んで読みました。晩年はエッセイしか書かれなかったのは残念な事 でした。
私は同じ本を2度以上読むことは稀なのですが、本作品は何度か読み返しました。 感動したというより、色々考えさせられた事があったからです。内容は長州出身 の医師、村田蔵六、後の大村益次郎の不思議な生涯を語ったものです。 中村梅之助主演でNHKの大河ドラマにもなったのでご存知の方も多いでしょう。
作品の冒頭で「技術について考えたい」と述べられています。蔵六の本職である 医療の技術であり、幕末において長州藩が、そして官軍が蔵六に求めた軍事の 技術のことでもあるのでしょう。
今も上野公園にある銅像でも知られるように 初代兵部大輔(==陸軍大臣、海軍大臣、防衛庁長官)である大村益次郎の実態が、 適塾出身のはやらない医師であること、その事が何の無理もなく蔵六という 一人の人物のなかで完結しており、役割が終わればすっと舞台から消えてしまった その生涯について、同じエンジニアとして憧れのような、あるいは嫉妬のような、 そして反感のようなものを抱いてしまいます。