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第64話 「たとえば、河童美人」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、違いがわからないこともあるけれど。 今年は雨の日が多くて、おいらは雨に当たらないところを選んで散歩しています。今日は川ぺりの小さなギャラリーに行ってみました。小さなテーブルに、お菓子が盛られていることもあるんだよ。 そこに展示してあるのは、墨で描かれた裸の女の人の絵です。頭に小さな帽子のようなものをのせていて、裸の背中にだけ何かをくっつけているんだ。絵を見に来た人たちは、ちょっぴりほっぺを赤くしながらニコニコと絵を見ています。 そういえばおいら、前に都会の大きな美術館に入ってみたことがあるんだ。いろいろな絵や彫刻が展示してあったけれど、そこにも裸の女性がポーズしている彫刻や、寝そべっている大きな絵がたくさん飾られていました。 ・・ギャラリーを出たら、雨はやんでいました。川ぺりの道には、捨てられた雑誌のページがバラバラに落ちています。そこには若い女性の裸の写真がいっぱいです。水着を着ている人もいるし、「かっぱびじん」みたく何も着ていない人もいるんだ。ギャラリーでほっぺを赤くしていたおじさんやおばさんは、きっとこの写真も「色っぽいね」とニコニコするか、美術館の見学者みたく「ほほう。」と感心するのだろうなあ。おいらはそう思いました。 あれれ、全然違うよ! 通りかかった人たちは、足元に散らばった写真にチラリと目をやると、見てはいけない物を見たようにすぐ目をそらして「いやあね。まったく。」と憎々しそうに呟いて行ってしまいました。 おいら不思議で、その人たちの後について行くと、また「いやあね、あんなにくっついて。」と不快そうに呟きました。視線の先を見たら、川ぺりで高校生らしいカップルがピッタリくっついて「チュー」していました。 だけど変だなあ。おいら知ってるよ、川ぺりのカップルの「チュー」を不快そうに見るおばさんたちが、大好きなテレビドラマ「冬の○ナタ」のお兄さんとお姉さんが「チュー」するのを見て、ドキドキしているのを。 (2008.6月掲載) |
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