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 第63話 「うそっこのルール」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんなお話が聞こえてきます。犬にとっては、聞いたことないような話もあるけれど。
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 おいらが川ぺりをのほほんと歩いていたら、携帯電話に向かって怒鳴りながら歩いてくるおばさんがいました。
 「・・私は、あなたのとこ、つまりスワン航空との契約でカードを作っただけなの。マイルをためると飛行機代が安くなるっていうから。それなのにどうしてスワン航空の名前でアリゲーター生命のダイレクトメールが送られてくるわけよ? それって個人情報の流用じゃないんですか?」
 契約とか個人情報とか、ずいぶん難しそうなお話をしています。

 「『ご契約のお知らせ』? そりゃありますよ、手元に。それの15ページの真ん中へんがどうしたって?『・・お客様の個人情報を他者に漏らすことは決してありません。ただし、弊社との協力関係会社に関するご案内を送らせて頂くことがあります』ていうところ? この一文があるから契約した時点で了承したということになっているっての? だからアリゲーター生命のダイレクトメールを送ることもご了承頂いたと解釈しておりますって? なんなのよこの『ご契約のお知らせ』のちっこい文字は、ゴマよりちっさいじゃないのよ! この文字で30ページもあるのを読んでいないからってこっちのせいにするの? あなた仕事じゃなくってもこれ全部読めるわけ? ええ?『これからは一切お送りいたしません』も何も、一切お送りしないのは当ったり前でしょうが! 会社同士の勝手な約束で商売するんじゃないわよ、まったく!」

 おばさんは、自分が契約したカードの航空会社名義で郵便が来たのに、封を開けたら関係のない生命保険会社の案内が入っていたのがものすごくイヤだったみたいです。それはそうだよね、お友達がニコニコして家に遊びに来たから招き入れようとしたら、すぐ後ろに隠れていた知らない人が、代わりに勝手に入ってきたかのような感じだものね。そんなことをされたら、信用していたお友達のことも嫌いになってしまうよなぁ・・。

 電話を終えたおばさんは、大きなため息をついてその辺りを見回すと、「ほら!あれだよあれだよあれ!」と大きな声で言うので、おいらは思わず指さされた方を見ました。そこには幼稚園に通うくらいの女の子が三人、遊んでいます。
 見ていると、二人の女の子が頭をくっつけてうなずきながらコソコソお話ししています。そして「今からうそっこで、ルールを決めたんだよ。このお菓子は名前のアイウエオ順にたくさん食べられることになりました! エミちゃんが5つ、私はカホだから4つ、ルルちゃんはうーーんと最後の方だから1つって決まりましたー!」と言うのです。コソコソの話し合いに参加できなかったルルちゃんは、勝手に「うそっこ」のルールでお菓子を減らされて、悲しそうです。
 「あの子どもたちの『うそっこルール』と同じよ、スワン航空とアリゲーター生命のやり方は。自分たちだけコソコソ話でダイレクトメールを顧客に送りあうことを決めて。私たち契約者は蚊帳の外に置いてさ!」

 そういえば、最近はこんな自分勝手の「うそっこルール」がはやっているみたい。誰かが「社会に長い間貢献してこられた方々の医療を国民みんなで支えるわかりやすい仕組みです」という優しい文句を考えて、お年寄りの大事な年金から有無を言わさずにお金を取ってしまう「うそっこルール」を考えたそうです。
 偉い人たちだけで「僕たちは国民の代表なんだから勝手に決めていいんだよね!」なんてお話をコソコソした上に、「お年寄りの利便性を考えて」年金から自動的にお金を天引きしてしまうのだって。
 かろうじて「『後は極楽医療制度』という名前はひどすぎる!」と文句を言われたから、「ご長寿医療制度」とかいう名前に変えたらしいけれど。

 後期極楽高齢者の人たちも、あのおばさんみたいに思いっきり怒ったらいいんじゃないかなあ? 「新聞やテレビで国のやることを逐一見ていないからってこっちのせいにするの? 自分の年金をまるまる自由に使えるのは当ったり前でしょうが!」てね。  わんわん。またね。

(2008.5月掲載)