第45話　「ながらパトロール増殖中」

　　こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、真剣なときもあるけれど。
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　おいらと違って、飼われている犬たちは勝手にお散歩してはいけないんだよ。綱を持った飼い主さんを連れてお散歩するのです。いつも見慣れている風景なのだけれど、最近ちょっと違うみたい。
　何が違うのかな？と思ったら、飼い主さんがお揃いの黄色いカードを首からぶら下げているのです。犬がぶら下げていることもあります。そこには「川ぺり町わんころパトロール」と書いてあります。

　おいら知ってるよ、「パトロール」ていうのは、お巡りさんがすることです。町中を歩いて、悪い人がいないか見回るのです。「怪しいな！」と思った人に声をかけて、名前を聞いたり「その自転車、防犯登録してますか？調べさせて下さい」と疑ったりすることなのです。
　・・ていうことは、この近所の犬や飼い主さんは、お巡りさんになったのかなあ？

　なんだか変なことだと思いながら周りをよく見てみると、「○○パトロール」というカードやシールをつけている人が多いことに気がつきました。
　自転車の前かごに「防犯パトロール中　○○小学校PTA」と書いてあったり、新聞配達のバイクの横腹に「防犯パトロール」と書いてあったり、タクシーのドアに「24時間不法投棄パトロール」と書いてあったり・・。

　そしたら今日、道に「川ぺり町わんころパトロール」のカードが落ちているのを見つけました。クンクンにおいをかいでいたら、通りかかった人がおいらの首にかけてしまいました。ちょっと邪魔くさいなあ。
　だけど、ちょっと不思議です。このカードをつけていると、自分がしゃんとしたパトロールの一員になったような気がしてきます。周りの人たちの見る目が違うような気がしてきます。だから、おいらはきちんとパトロールをしなくちゃという気持ちになってきました。

　あっ！　ちょっと怪しい人がいます。マンションのベランダの柵に手をかけて、下着を盗もうとしているみたいだ！　おいら、同じ「川ぺり町わんころパトロール」のカードをつけた人たちが集まっているすぐそばの広場に走って行って、一生懸命伝えようとしました。
　・・それなのに、「川ぺり町わんころパトロール」の人と犬たちは、おしゃべりしたり遊んだりするばかりです。まわりに気をつけているようには、とても見えません。お話を聞いてみると「今度の「わんころパトロール」の例会は木曜日の3時からです。ご都合がつく方はご参加下さい。まあ、気軽に親睦を兼ねて・・」なんて話しています。パトロールより、親睦を兼ねる方が大事なのかなあ？

　あっ！　ちょうど小学生が帰る時間です。子ども達が車にはねられないように、怖い人に連れてゆかれないように、見ていてあげなくちゃいけません。おいらは人目が届きにくそうな公園の裏手あたりをうろうろして、しっかりパトロールしました。「防犯パトロール中　○○小学校PTA」の自転車が来たら、交代してもらおうと思いながらね。
　・・それなのに、「防犯パトロール中　○○小学校PTA」のカードをつけた自転車の人は、パトロールをしている様子がありません。おいらの前をすうっと通り過ぎて、自転車をスーパーの前の道に止めてお買い物をしています。子ども達がその自転車に引っかかって転びそうになっても、気づかない様子です。　

　あれれ・・。パトロールして欲しいのになあ。だってみんな、「パトロール」て付けているのだから・・。もしかして、あのカードはただの飾りなのかなあ？　おいら、たまたま「パトロール」という字が読めたから知ったかぶりしてしまったけれど、最近「パトロール」という言葉を身につけるのが流行しているだけなのかもしれません。また勘違いしちゃったみたい。恥ずかしいな。
　だからおいらは、首にかけていたカードのひもを齧って切りました。これでスッキリしたよ。だいたい、のんびりお散歩や、安売り品を必死に探してお買い物をしながらパトロールなんて、そんなの無理だもの。
　わんわん。またね。

（2007.6月掲載）