第35話 「〇〇の町、川ぺり」
こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、コテコテに見えることもあるけれど。
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最近、川ぺりに大きな看板が立ちました。 「水と緑のまち」 と書いてあります。おいら知ってるよ、「水」は川の水で、「緑」は緑色のことじゃなくて、川のまわりに生えている草や木のことです。この町には「水」も「緑」もたくさんあるのは見ればわかるのに、どうしてわざわざ看板を立てたのかなあ?
おいらがそんなことを考えながら、看板を立てている人のお弁当のにおいをこっそりかいでいると、通りかかったおじさんが、看板のできばえを確認している人に質問をしました。 「なに、これ?」 「はい、これはこの度公募によって選ばれた、この町のキャッチコピーなんですよ。」 「へえ、知らなかった。」 「市の広報紙にも発表したのですが・・。住民の皆様にはこの素晴らしい環境を再認識して頂き、この町を誇りに思って頂きたいんです。また、この町をよく知らない人は、いまだに工業都市とか公害のイメージをお持ちの方も多いでしょうから、こんなに緑が多くてお散歩が楽しい町だということを知って頂きたい。そのアピールのためなんですよ。」 「ふうん、公募した割にはずいぶんありふれてるな。『水と緑のまち』なんて。」 「ええ、まあ、そうですね・・。」 キャッチコピーは、町のことを一言で説明できる、便利な言葉なんだね。
あちこちを見回してみると、この町の「キャッチコピー」ていうのはほかにもあるんだね。たくさんあるから、おいらびっくり! 音楽のまち・かわぺり ガラス工芸のまち・かわぺり 先端産業のまち・かわぺり スポーツのまち・かわぺり ほかにも『フットサルのまち』『映画のまち』『ものづくりのまち』『歴史のまち』・・・・ なんだか「あれもこれも」ていう感じで、欲張りだなあ。結局、川ぺりの町はどれを一番大切にしたいのかなあ? さっき話していた「工業都市」や「公害のまち」というイメージを隠したくて、コテコテ厚化粧のおばさんみたいになってるんじゃないかなあ。
そういえば、こんなのを聞いたことがあるよ。 「美しい国、日本」 「美しい」ていうのは、「きれい」ていうことだね。だけど、「美しい国」て、考えれば考えるほど、よくわかりません。よくわからないけれど、とりあえず「美しい」て言っておくと、ちょっと気分がいいからそれ以上考えなくって楽なのかもね。 考えないで人任せにしているうちに、他の人の思い描いた「美しい国」になってたりして。わんわん。またね。
(2007.1月掲載) |