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第15話「おっとりゴロの話」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、なぜか懐かしいような話もあるけれど。 「俺のふるさとは、この川をずっと遡った山の中だ。親父が狩りのために飼っていた犬の仔がゴロだ。ゴロはとろい奴でなあ、体は大きいのにメシ時はいつも押しのけられて、きょうだいにメシをとられちまう。それでも『しょうがないなあ』なんて顔してるところが俺に似ている気がして、後から俺のメシの残りを食わせてやったもんだ。ゴロも俺を見ると特別喜んでな。」 「仔犬たちも時期が来ると狩りの練習だ。きょうだい達は、練習台の猪が抵抗するほどに血が騒ぐとばかり、噛みついたり威嚇したり。なのにゴロは猪と遊ぶみたいにニコニコしてなあ!狩りになんかならなかった。親父もゴロに狩りは無理だとわかって、俺が遊びに連れ歩いても怒らなかった。 「だけど親父にしてみれば、猟に出ない犬を飼ってるわけにいかなくて困っていたらしい。そこへちょうど東京から『貴重な赤虎毛で性格のいい犬がいるらしい』という噂を聞きつけた人が訪ねてきたんだ。俺ら田舎者にはわからんが、見た目や性格がいい犬に順位をつける展覧会というのがあって、それにゴロがぴったりだと言ってな。親父はその人からずいぶんお金をもらったから、俺が泣いて頼んでもゴロを手放すことに決めてしまった。」 「俺は中学を出るとすぐ東京に出て働き始めた。工場の主人が日本犬好きで、犬の展覧会の話を聞きつけてくるから、俺は場所を聞くと出来るだけ出かけていった。もちろんゴロを探すためだ。そしてある時、ゴロを見つけた。すぐにゴロだとわかった。成犬になったゴロは田舎にいた時よりもっと毛並みが輝いてりりしくて、審査が始まる前から他の犬を圧倒していたな!他の犬が緊張して尻尾を下げたり吠えたりしても、ゴロは動じない。俺は本当に誇らしかった!」 ・・おじさんが中学を出た頃の話なら、ゴロはもう死んでいるんだよね。ゴロの孫やひ孫の犬は生きているだろうけれど。 (2006.2月掲載) |
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