第12話「スポーツカー礼讃」
こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。
犬にとっては、ずいぶん気長な話もあるけれど。
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今日は冷たい風が弱まって、お日様があたたかい。こんな日は、車で川ぺりに遊びに来る人が多いんだ。このごろは大きな車が多いなあ。7人も8人も降りてくるし、テントやバーベキューの材料の入った箱がたくさん出てくるよ。今日の人たちは何家族も合同で遊びに来たみたいです。
バーベキューを食べるのが一段落すると、子どもたちは遊び出しました。お母さんたちは楽しくおしゃべり。おしゃべりの合間には、子どもたちに「そーんな遠くへ行かないのよー戻ってらっしゃーい!」なんて座ったままで叫んだり、お菓子をつまんだり、口の休む暇もないね。
お父さんたちはというと、お母さんたちから少し離れたところで小さなたき火を作って、そのまわりで飲み物を片手に話しています。始めはお母さんたちに比べて静かだったのに、突然話が盛り上がりました。なんだろう?
「お宅もそうですか? 奥さんがスポーツカーを嫌がるんだ?」
「そうなんですよ、僕はね、特にカブリオレに乗りたいんだけど、女房がすごく嫌がるんですよ。荷物が載せられないとか、維持費がかかるとか言うんですが、よくよく聞いてみると、ナンパな感じがイヤだ、っていうのが一番大きいらしくて。」
「そう!うちもですよ! 別に若い女の子を乗せて走るなんて言ってるんじゃないのに、『オープンカーっていいよね』って言うと、汚らわしい物を見るみたいに俺を見るんですよー。」
「そうなると、もうその話はできないよね。だから車雑誌をひとり淋しく眺めてるッスよ。」
お父さんたち、「うんうん」て頷いて、すっかり仲良しになったみたい。
「僕たちの少年時代は、スーパーカーブームだったじゃないですか?だからかっこいい車への憧れってありますよね? 別に今すぐにポルシェとかフェラーリに乗るって訳じゃない、アルファのスパイダーもちょっと手が届かないけど、ホンダのS2000とかマツダのロードスターとか、中古車情報でチェックしちゃいますよー。」
「女房だってさ、結婚する前は『赤いスポーツカーでお出迎えなんてサイコー!』とか言ってたくせになあ。今じゃあ『家族のことを考えなさいよ』って、命令調ですよ・・」
お父さんたちはみんな、人や荷物がたくさん乗る車よりも、背が低くてかっこいい車に乗りたいらしいです。おいらもたまに見かけるよ。屋根のない車に、カップルや、サングラスをかけたおじさんが乗っているんだけど、どの人もすごく楽しそうなんだ。きっと、物を運ぶのやどこかへ行くのが目的じゃなくて、『走ること』が目的なんだね。このお父さんたちもそうしたいのに、お母さんたちはそれが嫌いみたい。
「女房が何言おうがかまうもんか、オープンカー買うぞー!」
「子どもが独立したら、絶対スポーツカー買うぞー!」
「僕たちの50代は、スポーツカーブーム間違いなしッスよ!」
ずっと先の話みたいだから、おいらは見れそうもないな。おいらだったら、欲しいお肉はすぐ「ちょうだい」てねだるのになあ。・・ほら、お母さんたちが片づけを手伝えって呼んでいるよ。わんわん。またね。
(2006.1月掲載) |