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第10話「年よりも若く見られて」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。 その中に、さっきからホームに立って、電車が来ても全然乗らない女の人二人がいます。手をつないで、ずーっとホームに立っています。背の低い、明るいピンクの洋服を着たおかっぱ頭の人と、背が少し高くてやせている、白髪の女の人です。おいらはなんだか気になって、じっとその人たちを見ていました。そうしたら、その人たちもおいらに気がついたみたい。おかっぱ頭の人が手を振っているから、おいらも尻尾を思い切り振ってみました。そしたら二人の姿はホームから消え、不思議に思っていたら川ぺりを駅の方から歩いてきました。忙しくないのかな? おいらは近寄って挨拶することにしました。 おかっぱ頭の人が、ニコニコしておいらに走り寄ろうとしたら、白髪の女性があわてて腕をつかみ、「みいちゃん、犬はこわいの!ガブッって噛んだら大変よ!」と止めようとしました。だけど押さえきれず、「みいちゃん」はおいらの所へ来て、頭からお尻まで思いっきりなでてくれました。おいらも体中をしっぽみたいにしてクニャクニャ喜んでしまったよ。初めて会う人だけどね。その様子を見て「みいちゃん」のお母さんらしい女性は安心したみたいです。 「みいちゃんは『もうすぐ私の誕生日!』って喜ぶけれど、今年で50才・・。ひとりで出かけられるのは作業所と、近所のコンビニだけ。ほかの所は心配で心配で、とてもひとりでなんか歩かせないわ。だから、私は自分の年なんて考えないようにしてきたけれど、もう75を過ぎてしまったのよね・・。『いつもきりっとしていらして、背筋が伸びていて、いいわね。お若く見えるわ』なんて近所の人は言うけれど、若く見られて喜ぶ感性なんか、とうの昔に無くしてしまった。みいちゃんの障害がわかってからは、気を張って生きてきただけなのだもの。」 「憂鬱な気持ちになったら、もうホームの端になんて立たないで、ここに来よう。気持ちがせいせいする。 みいちゃんは、お母さんの言葉を聞いてすごくうれしそうに「長生き、ながいきよ!」とはしゃいで、おいらの額をぎゅーぎゅーとなでてくれました。少し痛かったけれど、別にいいよ。みいちゃん、またお母さんを連れて遊びに来てよ!わんわんおんおん。またね。
(2005.12月掲載) |
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