第７話「走ってもいいよ！」

　　こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちのお話が聞こえてきます。今日はいいお天気、近くの小学校が朝早くから人の出入りが多い。運動会だね。
　犬にとっても、おもしろいんだよ、これが。
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「おーい、わんころ、今日は運動会だよ！今年はもう、待ってました！て感じだよ！徒競走でぶっちぎるから見に来いよ！」
うわ、ジョー君だ！おいら前から見ていたから知ってるよ、ジョー君がこんなに喜んでいる理由を。
　
　ジョー君のおととし、４年生の時の運動会は、つまらなかった。徒競走で順位をつけないことになったからなんだ。走るのが得意なジョー君なのに、名前順で足の遅い子と一緒に手をつないでゴールしなくちゃならなかったのだよね。

　去年、５年生になったジョー君は、そんな徒競走が我慢できなくて、あることをやったんだ。みんなと手をつないでスタートしたけれど、容赦なくスピード出して、遅い子を引きずってゴールしちゃったんだ！引きずられた子は大泣き、先生たちは大騒ぎ！みんなの前ですごく怒られたんだけれど、ジョー君だってわんわん泣いて真剣に訴えたんだ。「僕には走りが『いきがい』なんだよー！」てね。笑ってる大人もいたけれど、うんうん、とうなずいている大人もいて、PTAや学級会で話し合うことになったんだ。
　それで今年、６年生になったジョー君は、思いっきり走れることになった。走りたい子だけが走ることに決まったんだよ。よかったね。

「あーあ、ジョー君はいいな。私も走りたいな。」
あれ、かなちゃんだ。おいら知ってるよ、かなちゃんは人より速いとか遅いとか関係ない、走ることが好きなだけなんだよね。でも元気がない、どうしたのかな？
「わんちゃん、私も本当は徒競走出たかったのだけれど、今年から希望者だけになったでしょ？　だけど私、ちょっと恥ずかしくて、手を挙げられなかったの。すごく足が速いわけじゃないし・・。」

　じゃあ、かなちゃん、今年は飛び入りで参加したらいいんじゃないかなあ！「先生、私も走りたい！」って言ってごらん。おいらも飛び入りで走ってもいいよ！！　わんわん。一緒に行こう！

（2005.10月掲載）