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第1回「ぞうきんのかたち」

 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをとことこ歩いていると、どういうわけか人に声をかけられて、ひとりごとの相手にさせられます。
 犬にとっては、どうでもいいことが多いのですが。
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 ぐるぐると渦巻き模様、そっちの少し小さなぞうきんはギザギザ模様。その下の細長いぞうきんは、花びらの模様。おいらの泥汚れた顔を拭いてくれたおばさんのぞうきんは、いろいろな模様があって楽しいんだけれど、おばさんのお話は違います。

 「あの人のお母さん」のぞうきんは、大きさがきっちり揃っていて、縫い方もみんな同じ順番、同じ直線模様。それらのぞうきんを、1ミリの狂いもなくタテヨコそろえて、10枚単位で重ねてしまっておくそうです。一枚使えば、また同じ大きさの一枚を補充して、10枚きっちり。

 だから、この優しいおばさんの縫うぞうきんが一枚いちまい違っているのが、「あの人のお母さん」には気に入らなくて、ぞうきんを使うたびにイヤーな顔をしていたそうです。

 その上、見方になってくれるかと思った「あの人」も、お母さん譲りの心の持ち主で、きっちりと大きさが揃わないぞうきんがいやだといつもイヤミを言いました。
どのみちぞうきんなんて、ぼろぼろになるまで使い込むだけの布きれなのに。 
どのみち「あの人」なんか、ぞうきんを自分で使う用事なんかしないというのに。

 おいらは、ニコニコと見ているおばさんの前で、いろいろな模様のぞうきんの山を掘って掘って掘りまくり、気がついたらひと眠りしていました。気持ちよかったよ。だけど、きっちり縫ってきっちり重ねるのが好きな人は、犬がぞうきんの山を崩すのなんか、大嫌いだろうな。おばさん、縁側でお昼寝させてくれてありがとう。ワンワン。またね。