「スパイラル−推理の絆−」と、いうマンガを、ご存知だろうか。
これを書いている現在、月刊少年ガンガン(NEO)で連載している人気マンガである。毎週火曜日にはアニメも放映されている。
このマンガは天才的な兄を持つ高校生探偵が、行方不明になった兄のゆくえと兄の残した言葉の謎を探る物語なのだが、主人公の推理や言動には、普通には信じられないものも多く存在する。
…これは、その中のひとつのエピソード、どうしても信じられない話についてツッコミを入れるコーナーである。
■現象1;鍵が慣性の法則を無視して降ってくる。
たぶん、心の中でツッコミ入れた人は、いたと思う。ネタかぶってるかもしれない。
だが敢えて書かせて欲しい。鉄橋の上を走る電車の窓から投げた鍵を、鉄橋の下にいる人間が受け止めるのは…、どう考えてもムリである。
問題のシーンは、首に時限爆弾をとりつけるよう強制された主人公が、制限時間ギリギリに、その爆弾を解除するための鍵を受け取る「盛り上がり最高潮」な場面だ。
雑誌で読んだ時は大して変だと思わなかったのだが、アニメ画面で見ると、あまりの変さに思わず茶を零しそうになった。
何故、鍵が真っ直ぐに落ちてくるのか!
正しい落下角度は、こんなカンジ。(露草さん画・あさきさん監修^^)
■「飛行機は常に一定の速さで同じ方向に進む」かつ「慣性と重力以外の要素(空気抵抗など)が完全に無視できる」という条件下においては、落下位置はココ。
■落とされた物体は、横方向(飛行機の進行方向)には飛行機のスピードと同じ一定の速さで進み、一方、縦方向には(重力がかかり続けるため)段々速く下へ進むようになる、結果としてカーブを描いて落ちてくる。
そんなわけで、ちょうど頭上を通過中の電車から落した鍵が、真下の人の手に真っ直ぐに落ちるというのは、在り得ないのだ。
アニメを真剣に見ていたお子様が、物体の落下についての法則を間違って覚えるかもしれない。製作会社は、もっとリアルさにこだわってほしいものである。(笑)
■現象その2;鍵の落下地点を予測している。
さて、上記の法則を踏まえたうえで、鍵が正しい放物線を描いて落ちてきたとしよう。それでも、鍵を受け止めるというシーンには、さらなる問題が残される。
動きが早くなるほどに、当然、落下地点の目測は困難になる。
プロでさえ、ヘリコプターから狙った場所に物資を投下するのには、かなりの技術を要するという。
しかもヘリコプターから落す荷物は、ダンボールくらいの大きさはある。問題のシーンは、それよりはるかに小さな”鍵”だ。
電車に乗ってるのは、かなり天然ボケ入った、主人公の相棒・ひよのちゃんである。
主人公の位置を目視できるようになるのは、どんなに早くても電車が鉄橋を渡り始めた時点のはず。そこから目標地点に到達するまで数分あったとしても、電車の進行速度と、落下する物体の描く放物線を計算して、投下すべき地点を計算するだけの能力があるだろうか?
飛行機から荷物を落す場合、その落下距離は、放たれてから、地面に着地するまでの間に飛行機が進んだ距離だけ前。
これに空気抵抗や風が加わって距離が変わる。
問題の箇所で、電車は60km/hで走っていたとしよう。
鍵は、落下するまでの時間に電車が進んだ距離だけ前に落ちる。時速60キロは、秒速にして約16.67メートル。鍵が落下するまで5秒としても、ひよのちゃんが鍵を投下する正しい位置は、83.35メートル手前。
手首のスナップを使い、初速をつけた(電車の進行方向と反対に強く投げた)と考えても、生身の人間、しかも女の子の力では、それほど落下地点の距離は変わらないはずだ…。
ムリだ。
落とした鍵は、主人公が片手でキャッチしている。ものすごく正確な計算をして、センチ単位で落下地点を予測し、さらに何百分の一秒か、何千分の一秒かの一瞬をついて投下しなければならない。
さらに現場は川べりである。
川べりのような開けた場所ならば、当然、風が吹いているはずだ。風による抵抗も計算に入れる必要がある。もし風が強ければ、鍵は空中で流されて川に落ちていた可能性もある。
もし、主人公がそこまですべての誤差を計算して、下から投下の合図を出していたとしたら…
たぶん主人公は人間じゃない。ファティマ(マンガ違うけど)だと思う^^;
もし、それが主人公の運だったとしたら…
探偵とかそーゆうのより、今すぐギャンブラーになるべきではないだろうか。行方不明になったお兄さんの居所も、カンで割り出せるよ…多分。
※ついでに、電車の窓から身を乗り出したり、ものを投げたりしてはいけません。常識です。
●結論;科学的に正しい鍵の投下法
と、いうわけで、あまりにも危なっかしい方法で、無駄に主人公の命を危険にさらしてしまったヒロインのひよのちゃんには、正しい鍵の投下方法をお教えしよう。
風圧で飛ばされないよう、また、下にいる鳴海くんが落下してくる鍵を見つけやすいように、何か大きなものに貼り付けるのである。こうすれば落下予測も多少はつきやすくなる。
とはいえ、指示を受けたのは電車の中、そうそう都合のよいものも無いだろうし、一番手っ取り早いのは、自分のカバンに貼り付けるということ。
そして、制服の上着を脱いで、かばんの取っ手に結びつけ、簡易パラシュートを作るのである。
そう、テレビなどでも見たことがあるだろうが、物資を投下するときは、落下速度をゆるめるために箱にパラシュートをつけるのが普通である。まあ、制服じゃそんなに変わらないだろうが、かばんが地面に落ちたショックで鍵が吹っ飛ばないようにするくらいの効果はあるかもしれない。
これならOK。あまり不自然には見えない。
と、いうより、作り手側が現実的な現象に配慮したという気持ちが伝わって来て、「作り話」だと分かっている側にも安心がある。
頼むから、生のままの鍵を真っ直ぐ投げ下ろしてキャッチするようなムチャは、やめてくれ…^^;
■現象その3;首に不可思議な爆弾がついている。
最後にもう一つ、このシーンを盛り上げている不可思議なアイテム…「鍵の形状」についてもツッコミを入れたい。
落ちてきた鍵は、玄関についているような「回して開ける」タイプの鍵だった。
爆発までリミット数分という状況で、よく落ち着いて鍵なんか回していられるものだと主人公に対しては感心するところだが、問題は、「首につけられるくらいの、首輪状の爆弾に、そんな鍵つけられるの?」と、いうところである。
くだんの爆弾は、時間が来ると爆発する時限式である。と、いうことは、最低でも、中には時計と火薬と発火装置があり、それらをつなぐケーブルが無くてはならない。そこへ、さらに回転式の鍵である。
爆弾の製造法など詳しくない(笑)ので正確なところはわからないが、そこまで爆弾を小型化出来るものか。
マンガでも、アニメ版でも、爆弾は「首輪サイズ」。そして、「頭を吹っ飛ばすくらいの火力がある」。
大きさ的には、右図くらいである。
走り回っても大丈夫なところから、多少の振動には耐えられるくらいの強度はあるらしい。首輪自体の材質は、紙やダンボールではなく、厚めのプラスチックや金属ではないだろうか。
また、主人公が力ずくで首輪を壊さないところを見ると、簡単には壊せない金属である可能性が高い。(主人公が、爆弾をわざと外さず首につけたまま死の推理ゲームをしたがる、というトンチキな性格であることも否めないが^^;)
その、金属製の首輪の外殻を壊し、さらに、人間の頭を吹っ飛ばすだけの火薬量となると、首輪の中身のほとんどは火薬だと考えて間違いあるまい。(爆弾に詳しい人がいたら、ここツッコミ入れてください。)
さらに、主人公が鍵を解除すると爆発しなくなったことから、時計・発火装置とつながるリード線は、鍵の部分と連動しているのだろう。
さて、問題である。
このような、小型かつ精密な爆弾を作ることは(製作者の年齢は別として)可能だろうか。
…と書いていたら、恐ろしいことを教えてもらった。
「このサイズでもOKなのはプラスチック爆弾。マッチ箱ほどの大きさで、レストランの中にいる全員を吹っ飛ばせる。
プラスチック爆弾というのは、プラスチックでできているわけではなく、正確にはコンポジションC−4(C−4爆薬、セムテックス)と呼ばれ、ニトロトルエン、ニトロセルロース、ジニトロトルエン、トリニトロトルエン、オクトーゲン、ヘキソーゲン、ワックス等の混ざった油状物質をトリメチレントリニトロアミンと混合したモノである。」
時限爆弾を使ったテロなどでは、プラスチック爆弾が使われるのが一般的なのだそうだ。なるほど、そういうものがあるのなら、微量でも人ひとり殺すくらい可能だろう。
この爆薬以外に適当なものが思い当たらなかったので、いちおう、首輪の中身は「プラスチック爆弾ことコンポジションC−4だった」、と、いうことにしておこう。
■現象その4;爆破時間になっても逃げない仕掛け人
だがしかし!
ここに一つの落とし穴がある。
主人公は、爆弾を仕掛けた張本人を「呼び出し」ている。仕掛けた人は、その呼び出しにフツーに応じている。
もし、ここで使用されたのが本当にプラスチック爆弾だったとしたら、…作った本人は、その威力は十分に承知のはずなのだから…、そんな物騒なものを首にくっつけた人に近づくだろうか?
ヘタすりゃ自分も爆発に巻き込まれて死んでしまう。
仕掛け人は、爆発時間ギリギリになっても、主人公から数メートルの場所に落ち着いた様子で立っていた。ということは、かなり正確に、爆発の範囲を絞っていなければならない。たとえ錯乱した主人公がダッシュで近づいてきても、死ぬのは主人公ひとりでなければならないのだ。(ここも、爆弾を仕掛けた人間が、自分が爆発に巻き込まれても全然かまわないトンチキな人間だった、という可能性があるが…^^;)
そんな細かく爆発範囲を設定できるのか、プラスチック爆弾って。
マッチ箱でレストラン一個吹っ飛ばせるのだろう? だったら、米粒くらいじゃないとダメ…? それとも…。
何にせよ、そんな危険な首輪をつけた人物の近くには、あまり軽々しく近づいてはいけないと思うのだが。
※ちなみに彼女は、自分で爆弾を仕込んだ縫いぐるみを抱いて持ってくる、という素敵なこともしでかしている。
この場合の爆弾は、至近距離にもかかわらず被害者はかすり傷で済んでいるようなので、ふつうに花火用の火薬で製造可能だ。
***しまいに
オレは、推理もののマンガや小説は嫌いじゃないです。
スパイラルも連載開始当時から知ってたりします。
しかし、ストーリー的にはかなりのムリがあります。軽々しく命をかけるのもどうだろう、と思うのですが、肝心のトリック(?)が貧弱。
そして何より…
殺人犯がラブコメしても、私にはちっとも笑えませんが?
ホホホホ。さりげに犯罪者集団だよ〜スパイラル♪
運命以前に、君らは少年院送りになるのが真っ当な運命です。夢がなくてスマンが、そうとしか言いようがないんだよね。
***
おまけ−慣性の法則について。
やたらの理系の知り合いからツッコミを受けてしまった、このコーナー(笑) 自分の理解も含め、ついでなので「慣性の法則」について、簡単に説明。
慣性の法則と、は「動いている物は動き続け、止まってる物は止まり続ける」という法則のこと。(ここまでは自分も知っていた)
が、わかりにくかったのは、飛行機から投げる時、鍵は動いていた、ということ。
何でかというと、動いている飛行機の中にあったから。そう、飛行機の中にあるものは、モノだろうが人だろうが全部動いているのである。
飛行機に乗っている人にとっては止まっている。しかし、地面から見上げている人から見たら、飛行機と同じ速さで動いている。(その、地面の上に立ってる人だって、回っている地球の上に立ってるわけだがら、厳密に言えば動いているんだが…)
と、いうわけで、物体は、それがもともとあった場所の移動速度で移動しつつ、重力に引かれてだんだんと地面に近づいていくということで。
↓以下、私にはサッパリわかりませんが図の説明。
『微小時間とは、無限に短い時間のことを指します。
加速度は速度の変化率のことだから、加速度gで運動する物体は微小時間凾伯繧ノはg凾狽セけ速度を変えるんです。図中の紫矢印は凾伯繧フ速度ということですね。
あの説明文だと、言い回しは「重力がかかるため」でいいと思います。
赤矢印の長さがg凾狽ナあることは暗黙の了解ということで。
ちなみに
重力=質量×重力加速度
加速度=d速度/dt (速度の時間微分)
です。』
(監修者・談)
と、いうわけで、今日も正しい科学を広めました。(親指)
頑張ったよ! 先生!
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