お祭りに参加するからには何かカッコいい肩書きを名乗りましょう。というわけで、神官名の一覧です。
神官団の中には神官の階級や役割に応じた様々な名称があったようですが、中王国時代までははっきりとした階級はありません。なのでここに挙げているものは基本的に資料の多い新王国時代以降のものです。
古代エジプトには、神官の種類や階級に応じた、様々な名前があったようです。まず大きく分けて、世俗神官は「ウアブ(清められた者)」。職業神官は「ヘム・ネチェル(神の召使い)」。「ウアブ」は最初は太陽神ラーに仕える神官を指していたようですが、時代が下るにつれすべての神の神官を表すようになっています。祭りの際のボランティアなどで集められる神官の名称で、役目が終われば解散する職業。ニュアンス的に、神社の祭りのとき、神輿をかついでいるハッピ姿のおっちゃんたちみたいなものでしょうか。
これに対し、「神の召使い」は仕事として通年で神官をやる人たち。
檀家制度のようなものもあり、遺族から代金を受け取って死者に供物をそなえる定例祭儀も行っていたという。(そのため葬祭神官とも呼ばれる)
さらに、「イト・ネチェル(神の父)」という役職もあったようですが、具体的にどんな役目を持っていたのかは不明。
娘を巫女として神殿にさしだした者が就く役職だという説もありますが、そのわりに、アメン神殿の巫女のような制度が無かったはずの中王国時代の人名にこの名前がつけられていたり、庶民でもイトネチェルという人物名があったりするので、はっきりしていません。日本の神道もそうですが、同じ肩書きでも時代によって内容が若干異なっている可能性はあります。
一般名称 | |
ヘム(召使い) | 一般的な職業神官の名称。 神の召使い、「ヘム・ネチェル(ネセル)」と、言うこともある。 |
ヘメト・ネチェル | ヘム・ネチェルを女性形に直した言葉。女性用の称号。「女性神官」と訳される。女神に仕える神官は大抵「ヘメト・ネチェル」であることから、女性の神様には女性が仕えたのだろうと考えられている。 |
ウアブ(清き者) | 清めの儀式を受けて、一時的に神官職に就いた者。 皆さんがご自宅で祭りをやるときは、この肩書きを名乗ってください!(笑) |
スヘジュ、セヘジュ(監督官) | セヘジュ・ヘムゥ・ネチェルとも言う。 「ヘム」や「ウアブ」を率いる現場責任者。神官団の責任者。 王の儀式には登場するが、地方の儀式にもこういった人がいたかどうかは分からない。 |
イミ・ケント(管理官) | スヘジュの同僚、補佐官とされる。 イミ・ケント・ヘムゥ・ネチェルとも。 |
セム(セテム)神官 | 初期王朝時代には豹の皮を纏った一般的な神官の姿をした人物がセム神官と呼ばれる。 新王国時代には特定の神々にしか見られない、最下級と思われる職に使われている。(供物を運び、拝礼するだけの名誉職) もともとは、父の葬儀を行う一家の長男をさす言葉、いわゆる「喪主」の意であったとする説もある。 |
時間神官(サ) | 「時間神官」が何者であるかについては、時間労働を与えられた一般人とする説と、専属の専門神官だったとする説がある。 ●説1>「当直団」。 シフト勤務の神官で、4つのグループが一ヶ月交代で神殿に当直する。 (一年の中で1つのグループが合計3ヶ月を受け持つことになる)当直月の「サ」成員は、「かの月にいる者」と呼ばれた。 ●説2>「天文学者団」。 天文学者の集団。ナイルの洪水がシリウス星の動きから予測されるように、天文は古代において重要な役割を持っていたため、専属神官がいた。 「時間神官」がどちらの概念に近いかは不明。 |
神の歌い手(シャマイエト) | 女性歌手の称号。男性歌手もいたが、同じ名称で呼ばれた。 (看護婦という言葉が男性に使われることもあるようなもの。) シャマイエトは歌い手としての仕事だけに従事していたわけではないようだ。また、一種の肩書きとして、王族の女性につけられることもあった。 |
神殿楽師(ケネル) | 神々に仕える楽団員の意。 音楽を好む神(ハトホルなど)の神殿には必須。楽団の「長」は、おもに神官の妻たちによって構成されていた。 彼女たちは、神妻のように神のハレムの女たちを演じた。 |
ヘヌゥティ(召使) | 具体的な仕事は不明。雑用係だったのではないかとされている。 非常に限られた、あまり難しくない仕事をやっていたようなので、「用務員」という訳がピッタリだと思う。 |
ヘヌゥテト | ヘヌゥティの女性形。仕事内容は同じ。 |
管理職員(ケンベト)名称 | |
神の召使いの長 | 職業神官、ヘム・ネチェルたちを束ねる神官団の長。 スヘジュがいた場合は、その直下ということになるだろうか。 |
神秘の主 | ? |
衣装の管理人 | 神官の仕事の中に、毎朝、神像を清めに行き、衣装を着せ替えるというものもあった。この神官は、神々の衣装係だったらしい。 |
広間の主 | ? |
カーの礼拝所の監督員 | 「カー」の礼拝所はあちこちの神殿に付随して作られていた。 名前から察するに、カーの祠専用の神官だろう。 |
神殿の書記 | ? |
祭壇の書記 | ? |
朗誦神官 神の書の朗誦者 (ケリ・ヘブ、ケリ・ヘベト) |
初登場は第二王朝の頃。 名前は、「祭りの儀式のための書をあずかる者」という意味。剃った頭に二本の羽根をつけていたことから、ギリシア人には「プテロフォロイ(翼のあるもの)」と呼ばれた。 祭りや葬儀において呪文を唱える、重要な役。 読めるということは書けるということでもあり、彼らは書記であった。 |
神秘の監督官(ケリ・セシュタ) | ミイラ作りの神、アヌビスの役割を果たす神官職。 |
神の印璽官(ヘテムウ・ネチェル) | 上記、ケリ・セシュタの助手。 かつてはオシリス神の神官も、この称号を持っていたという。 |
包帯を巻く者たち(ウェティウ) | ミイラ作りを行う特殊職のうち、内臓を取り出す、包帯を巻く、など、実際の遺体の処理を行っていた役職名と思われる。 |
特殊名称 | |
アメンの神妻 (ヘメト・ネチェル・ネト・アメン) |
アメン神に仕える女神官長(巫女)の肩書き。王家の血を引く子女が、この役職に就いた。新王国時代から採用されたシステムであり、トトメス3世の時代以降、その重要性は失われていったが、末期王朝時代になると再び重要性を増した。現代でいう「巫女さん」のイメージに近い。 |
ジェレト・ネチェル(神の手) | 聖なる女性の肩書きとして用いられたもの。原初の神アトゥムが自らの手で自慰をして最初の神々を生み出したという神話から、アトゥムの手が女性格とされたことに由来する。アメンヘテプ3世以降は公式文書に残っていない。 |
ドゥアト・ネチェル(神を拝する者) | ハトシェプスト女王の時代に用いられた女性用の肩書き。 アメン神の大司祭の娘につけられていた。かつては王位継承権は長女が持つ、という伝統に基づいたものと解釈されていたが、王位継承権は男系で引き継がれているというのが定説化した今では、女王としての地位を正当化したかったハトシェプストの時代のみ特異な解釈を付け加えられていたと見做されている。 |
神の番人(ウェレシェト) | ヘメトが「妻」を表す言葉なのに対し、ウェレシュトは「神の番人たる女性」の意。女性神官の名称。 |
神を礼拝する婦人 (ドゥアト=ネチェル) |
ハトシェプスト女王が持った称号で、 「アメンの神妻」と同じく身分の高い女性が就いたと思われる。 |
神の予言者のうちで 最も偉大なる者 |
太陽神ラーの最高位神官の肩書き。 別名称では「最も偉大なるものを見る者」 |
技術を監督する者たちのうちで 最も偉大なる者 (ウェルケレプヘムゥ) |
プタハ神の最高位神官の肩書き。 プタハ神は神の鍛治屋で、技術の神でもあることから。 |
トトの家にいる5人の中で 最も偉大なる者 |
トト神の最高位神官の肩書き。 トト神に吸収されたもう一柱の知恵の神、ヘジュ・ウルの肩書き、 「五人の中で最も偉大なる者」から。 |
セケヌウ・アク | 第一王朝から高官たちの称号として使われる神官職名で、王の葬儀に関わっていたと推測される |