エジプト神話には、創世神話がいくつもあります。
と、いうのも、国土が南北に細長くて、南と北で統率が取れていなかったから…、主要な宗教都市も幾つかに分かれていて、信仰が異なっていました。京都と東京じゃ、微妙に伝説が違うようなもんです。方言も違うしね。それ以上にエジプトが寛容な性格だったこともあるんでしょうが。
ヘリオポリスは、ギリシア人が「太陽の都」と呼んだ、ナイル下流(つまりエジプトの北の方)の、神話です。 この物語は、世界創造の物語の中では、最も古い時代に作られたのものと考えられていて、エジプト神話の中ではいちばん有名な話なので、たぶん、みなさんも聞いたことくらいあるでしょう。
それでは、あらすじをドウゾ。
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むかーし、むかし。
あるところに、原初の水で出来た海がありました。
と、いうより、世界には海しかありませんでした。
大地もなんもかも、この水の中に沈んでおります。太陽も水ン中です。水から出なきゃ、世界は照らせません。
そこで太陽は、どうやってか、上陸できる「原初の丘」を水の中から出現させ、ここにヨッコラショと昇って体を乾かすことにいたしました。
余談ですが、この原初の丘<タァ・セネン>がタテネン神になったんです。
でもって、この原初の丘の上に降り立って、太陽を温めたのが不死の霊鳥ベヌウなんだそうな。この人(神)たちがどこから生まれたのかは、かなり謎です。自然発生なのか?
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ここで少し話は飛びます。
その太陽はどこへ行ったんだか置いといて、いきなり宇宙の神アトゥムの話です。
この神アトゥムは、ときどき
ウナギやウサギなど妙なものに化身とする、とても美味しそうな神なのですが、けっこうエライ神様です。宇宙のビッグバン時から居た始祖なのだとか。
しかもアトゥムは男性なのですが、手(ヘテペトの手)は女性でした。
要するに、両性具有なんですね。
両性具有な彼は、ひとりで頑張って子供を生むことが出来ました。その方法とは、…
微妙に教育上よろしくないので、伏字にしました。15歳未満の方は見ないよーに。↓
「手淫」でした。手は女性なので、男性である股間をまさぐると自分で自分を興奮させることができたようです。
はっきり言って、さびしい男のひとり夜伽です。神がそんなんで子供を作っていいんでしょうか。
神話は、こういうネタが多いです。
◎ワンポイント◎
ほかにも、地面にツバを吐いて神々生んだ、という異説があります。「ぺッ」て。ツバ吐くなんてあんまり宜しくないことだと思うのですが、それで世界の根源を創造できるっていうんですから、神様はお得ですよね。人間は真似しても汚いだけです。やめときましょうネッ。 |
…こうして、アトゥムが生み出した最初の「性別を持った」神々が、大気の神シュウと、(湿り気のある?)大気の女神、テフネトでした。シュウは緑色、テフネトは赤色と、かなり派手な色合いです。
世界には二人しかいないので、子孫繁栄のためには結婚するしかありません。
シュウとテフネトは結婚し、最初のご夫婦となって、さらに地の神ゲブと、天の女神ヌトを生みました。シュウが風属性、テフネトが炎属性なのでバリバリ最強の夫婦です。
たとえ世界の始まりに混沌としたものがあったとしたも、彼らがサクサク払ってくれたので、あっというまにスッキリしたことでしょう。
ところで、この二人から生まれたゲブとヌトの兄妹は、めちゃめちゃ仲の良い、ラブラブ夫婦でした。
そのため、いっつもいっつもくっついていて、天と地が離れません。(エジプト神話でも、やっぱり世界のはじまりは「天と地がくっついている状態」から始まるんです。)
これでは、大気のめぐる隙間がない、というので、大気の神であるシュウはムカつきました。
父親がムカついてんだからそれってどうよ、とか思うんですが。それよか、大気の神なので天と地の間を巡らねばならないのに仕事できない、ってのが一番の問題だったような。
大人気ない彼は、
「えぇい! 人の目の前でイチャイチャとッッ。邪魔じゃーー! うらァ!」と、力任せに、大地の神と天の女神(自分の子だろ)をひっぺがしてしまいました。
まだラブラブでいたいゲブは、必死で愛妻ヌトの手足を掴みます。そして…!
図解 |
空が丸くなったのは、この時なのでした。
地平線に近づくほどに、空はぐぐんと地面に近づいてるでしょ? あれは、今でも大地の神ゲブが、天の手足をシッカリ掴んでいるから。
でもって、その間では大気の神が、「…っいいかげんに…しろ…!」と、怒りながら、キリキリ天地を引き剥がしているんですヨ(笑)
毎日、空見上げることが楽しくなってしまいそうな、そんな神話ですね。
これが、世の様々な神話にも類似品のある、天地開闢のエジプトでの物語であります。
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ところで、ここでまた話が飛びます。
いつのまにか、アトゥムは、
アトゥム=ラーという神に進化しています。
「そう。何を隠そう、かの宇宙創造の神アトゥムこそ、我らがラー様その人なのだぁ!」「っえええっ?! そんな…!」
なんだよ。「ラスボスは実はお父さんでした」みたいなノリじゃん。いいんか、そんなんで。
このテのこじつけ(?)や後世のつけたしはエジプト神話には良くあることですが。
さらにいつのまにか、シュウ・テフネト、それにゲブ・ヌトはラーの子孫たちということになっています。(アトゥムじゃなくて?)
そのわりに、神話によっては、ラーがゲブを「父」と呼んでいることもあって、微妙に謎です。
とりあえず、天やら地やら大気やら、大きいところの神々がラーさん家の家系に繋がってることは間違いないのですが…。
ところで、かのオシリスさん一家もまた、ここの家系の出でありました。
ゲブとヌトが引き離されたとき、妻ヌトは妊娠中でした。
しかし、このご夫婦のイチャつきのせいで天地開通工事が遅れたことを根に持っているアトゥム=ラーは、「そんな子供たち産んじゃダメだ。どうせ禍いのもとにしかならん。」と、無理難題を言いつけます。
当時、太陽神ラーが支配していた時では、一年は30日×12ヶ月の360日だったので、「一年12ヶ月、どの日にも出産禁止。」なんていう、ムチャな制約です。
心、狭すぎ。
これを見ていたのは、人(神)のいい知恵の神、トトさんです。ちなみにトトさんは、ラー神の一族じゃありません。ラーから生まれていない=アトゥムから生まれていない、ということです。
じゃアどうやって生まれたのかって? なんと、岩の卵から生まれたのです。
孫悟空ですか。
自分で自分を創造し、自分から生まれて来たってんですから、スゴいですよね。
頭も良いトトさんは、一休さんのようにくるりと頭をかくと、こう言いました。
「じゃー、360日以外に日を作ればいいんだよ。」
さァすが神。
人間には絶対不可能ですな。そんなん。
トトさんは、時を支配する月のところへ出かけて行きました。
「エジプト将棋で勝負しようか。勝ったら時の支配権ちょうだいね」
「おーいいよ。」
博打です。しかも、家財道具すべてを賭けたカンジの、無茶な勝負です。ここで勝つのが神の実力!
結果、トトさんは、ボロ勝ちし、月の身包み剥いでその代償に時の支配権をいただいてしまいました。人(神)が良いわりに、意外とヤリ手です。
そして、360日のいずれにも属さない、5日の閏日を作り出し、ヌトの5人のお子さんをそれぞれ出産させてやりました。
第一の日にはオシリス、第二の日にハロエリス(大ホルス)、第三の日にセト、第四の日にイシス、第五の日にネフティスが生まれました。一日に一人ずつ。
誕生順番はあいまいで、ハロエリスが末っ子とされていることもあれば、セトがイシスの弟になっていることもあり、話ごとに順番が違っていることがあるようです。
ハロエリスについても、「ホルス」という名前を持つということで、オシリスとイシスの息子ホルスと同一視されていることがあって、面倒です。ホルスという名前にも、色々あるんですね。
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ともかくも、このようにして、太陽神ラーが「わざわいのもと」と呼んだ5人の子供たちはこの世に生を受けることとなりました。1年は360日ではなく、5日増えた
365日になったのは、この時からです。
しかも、月の持っていた時間が中途半端だったため、365日より微妙に多く、4年にいちど閏日を入れないと合わない中途半端なものになってしまったのです。(そう、私たちもよーく知っている、「一年は365日と4分の1日」と、いう周期です。古代エジプトの人たちは、すでにそのことを知っていました。)
しかし神話の世界では、そう簡単にことは運びません。自分の言ったことに反していないとはいえ、こんなトンチにまんまと一杯食わされたことに大人気なくキレていた太陽神ラーは、ただでさえ一年に余分な5日間が増えたのに、閏日なんか入れたくありませんでした。
「一年は365日だ!! 断固として。それ以外は認めん!」(意地)
…と、閏日を無視してしまったのです。
そんなわけで、人間たちは、公然と閏日を使うことが出来ず、公に使われる暦は、いつも365日でした。
当然、ちょっとずつズレていきますよね…。
でもご安心あれ。
家で使うぶんには、一年の暦にはちゃーんと閏日も計算に入っていたそうです。
めでたし、めでたし。(?)
【ワンポイント】
神話の中では、太陽神ラーの支配する暦が太陽暦、月の神トト神の支配する暦が太陰暦となっているが、実際はどちらも太陰暦。なお、閏日を組み込んで一般に使われていた暦は、「民衆暦」と呼ばれていた。一年が365日という暦は、ほぼ一年周期に起こるナイル河の洪水を基準にして考え出されたという。
そのため、一年のはじまりは、ナイル河の洪水(増水)の始まる、7月半ばである。