主な称号
神の陶工、エレファンティネの主人、瀑流(ばくりゅう)の主、太陽神の魂
主な信仰
羊の頭を持つ神様。称号にある「エレファンティネ」は現在のアスワン付近、ナイル上流の国境近く。
彼の主な役目は、生命創造と洪水管理。
●生命の創造者として
手先が器用で、ろくろを回し粘土から人間を作り出す。四つの元素すべてを保持しているため、土の中に魂を吹き込むことが可能らしい。職人気質。誕生の女神ヘケトを妻とし、ともに人間を創造している。ご苦労様です。
王の肉体はこの神様のオーダーメイドで作成されるという信仰があり、その場合は王の誕生を祝福するイシス・ネフティス、お産の女神メスケネトなどと行動することもあった。
また、この役目上、王の誕生を儀式的に再現する神殿である「誕生殿(マンミシ)」の壁画にも登場する。
●洪水(ナイルの氾濫)の管理者として
エジプトの南端・エレファンティネの守護神で、そこより南方から来る洪水の管理をしているという。
エジプトの真ん中を東西に貫くナイル川は、毎年夏になると水源付近に降る雨のお陰で増水する。ただ古代エジプトの時代にはそうしたメカニズムは知られておらず、ナイルの象徴的な水源は国の南端のエレファンティネとされていたため、エレファンティネの主神であるクヌムが「水源の管理者」と呼ばれることになった。
信仰上、ナイルの氾濫はクヌムが起こすものとされた。いわく、ナイルの水源には普段は結界が張られており、水位が抑えられているのだが、クヌム神が魔法の矢で毎年決まった時期にその結界を破ることによって水が溢れ出し、増水が生じるのだという。
そのため、彼を怒らせると増水が起こらなくなり、下流域は農業が出来なくなるとされた。エレファンティネ付近の川の中にあるセヘール島に残された「飢饉の碑」には、七年もの間増水が発生しなかったため、クヌム神に機嫌を直してくれるよう懇願する内容が記載されている。現存するものはプトレマイオス朝時代のものだが、元はジェセル王の時代の碑文だった、と書かれている。(実際にジェセル王の時代に飢饉が発生したかどうかは不明)
また、洪水の管理者として、同じエレファンティネを拠点とするサティス女神、アンケト女神もおり、三柱神として行動する場合はサティスが妻、アンケトが娘とされることもあった。
↓アスワンの町から見る島と遺跡
●その他の役割
・ナイル水源の神であることから、「ワニたちの長」と呼ばれることがある。その役割上、ワニの神セベクの母女神ネイトと夫婦とされることがあった。
・創造の神としての同僚は、職人の神プタハ。
・羊の鳴き声「バー」が魂を意味する古代エジプト語「バー」と同じであったことから、「太陽の魂」と呼ばれるようになった、・・・らしい。
・冥界における太陽神の魂が羊の姿で表されるのは、この語呂合わせのためだという説あり。
●羊さん
クヌム神の神聖動物であるヒツジは、角がくるくる巻いているタイプではなく、角が水平に伸びるタイプのヒツジだった。(先頭の図を参照のこと)
このヒツジはエジプトで古くから飼育されていた種類(Ovis longiceps palaeo aegyptiaca)だが、中王国時代に
絶滅してしまったのだという…。
※つまり、「ツノが水平に伸びるヒツジ」の姿で現される神様は、少なくとも中王国以前の古い時代から信仰されていたと推測することが可能。
神話
・クヌム神は「陶工」であり、ろくろ使いである。魂を粘土から作りあげ、妻ヘケトがそこに「息」を吹き込むと人間完成。
・人間創造の神のため、「人間に運命を与える神」の一人に数えられた。
・「ウェストカー・パピルスの物語」などによると、神々に頼まれて、これから生まれてくる王を創造したり、美女を創造したり、お好みにあわせてオーダーメイドも承っているらしい。
・人が増えすぎて作るのが面倒くさくなって来たとき、彼は突然、「これから作る女の体の中に最初からろくろを仕込んでおき、自分で人間を作らせたらどうだろう」と思いついた。これにより、ある時期から、人はクヌム神の手を借りなくても子孫が作れるようになったのだとか…。て、手抜きだよ神様。
・ネヘプー(ろくろ回し)と呼びかけられることがある。別名というよりアダ名っぽい。
聖域
主にエレファンティネ。
ただしエレファンティネ付近の古い神殿はほとんど残っておらず、妻とされたヘケト女神の町であるエスナの神殿のほうにクヌム神殿が残されている。
DATA
・所有色―黒、褐色
・所有元素―風+水/火+土
・参加ユニット―エレファンティネ三柱神<クヌム、サティス、アンケト>、生命創造の家族<クヌム、ヘケト、ヘカ>
・同一化―「バー(魂)」として、太陽(ラー)の魂、オシリスの魂、ゲブの魂という呼称を持つ。
・神聖動物―雄羊
・装備品―ろくろ
◎補足トリビア◎
大ピラミッド建造で知られるクフ王の名前は、
クヌム・クフウイ(クヌム神は我を守りたまう)の略。クヌム神が生命創造の神として、古い時代から信仰されていたことの裏づけのように思われる。