主な称号
主な信仰
エジプトの中で最も古い神のひとつ。力強い猛禽類である鷹(場合によってはワシ?)を神格化したものであり、王のシンボルでもある。
生者の暮らす世界としての地上の王であるため、上下エジプトの冠を被り、王の正装をした姿で表されるのが一般的。「幼児のホルス」として母イシスと登場するときは完全な子供の姿だが、王位の奪還者、あるいは地上の王として登場するときは頭部が鷹の男性で表される。また、完全な鳥の姿で表されることも多かった。
●初期のホルス
エジプト王朝時代の黎明期には既に存在していたと考えられる神。実在の確実視されている中では最初の王「ナルメル」のパレットの裏側には、敵を打ち倒す王の傍らにそれを援護する鷹の姿が描かれているが、これがホルスの原型と考えられている。王朝初期において、王はホルスの化身とされ、ホルスは王を意味する存在だった。
ところが太陽神ラーが国家の最高神になるにつれ、ラーよりホルスがえらいのではマズいということになり、ホルスはラーの息子に一段階下げられた。このとき王の立場も、「神そのもの」から「神の息子」へと変化する。かつての現人神から、神の息子という少しへりくだった立場に下がったわけである。
その後、死せる王がオシリス神と同一視されたことにより、ホルスはオシリスの息子、生きた王の象徴ともされるようになっていった。
初期のホルスには、まだ父の復讐をする必要はない。なぜなら、ホルスの父は「太陽神ラー」で、太陽は夕方になれば死に、朝には生まれてくる、自ら生と死を循環するものだからだ。このときホルスは王の分身として、既に「王」として君臨していたことになる。叔父を倒して王位を手に入れなければならなくなるのは、死せる王としてのオシリスと、オシリス殺害の物語に「王」としてのホルスが組み入れられた後だっただろう。(ただし、異説もある。ホルスの発祥を下エジプトとして、イシス・オシリスとの親子関係は最初からあったとする考え方も出来る)
●王権の象徴としてのホルス
オシリスの息子としてオシリス殺害の神話に取り入れられたことで、叔父セトに奪われた王位を奪還するという役目を演じることになる。王はホルスの化身であることから、この神話は王位継承の儀式として取り入れられるようになった。
初期の王の名前を囲む「セレク」という枠組みの上には、ホルス神がくっついている。時代が進むとセレクはおなじみのカルトゥーシュに変化し、さらに「ラーの息子」名のほうが頻繁に使われるようになっていくが、より古いホルス名のほうも使われ続けていた。
王はホルスの化身とされたため、壁画などで王が表されるときは、オシリスを父、イシスを母としてホルスの役割を演じることが多い。また葬送に関わる儀式では、亡き先王をオシリスに喩え、父の傍らで死を悼むホルス(ファラオを表す)の姿が登場することがある。
●多数のホルス
古いと同時に重要な神でもあったことから、信仰が時代ごとに少しずつ変わっていったので、その時代ごとに異なるホルス神がいる。また、歴史を通じて首都の位置が変わっていったため、その地域ごとのホルス神というのもいる。後世になり、似たような神様が全てホルスの化身として合体させられたという事情もある。
…結果、ハレンドテス、ハロエリス、ホルサイセ、ハルポクラテスなど、「ホル〜」「ヘル〜」と名前のつくホルス神の眷属が、たくさん生まれることになってしまった。
>> ホルス関連の神様については、神々名簿入り口の「
種別で探す」のほうから、【ホルスの眷属】の項を参照。
後から色んな属性が付加されてしまうのは、人気の高い神の宿命である。
●歴史の中のホルス信仰
ホルスとセトの戦いは神話上の物語だが、実はホルス派とセト派による「王位争い」は、歴史的に実在した。ホルス神は上エジプトの神、セト神は下エジプトの神で、上エジプトと下エジプトの有力者が、それぞれの神をたてて戦争を起こしたのだ。結果は、神話に見るとおりホルス派の勝ちとなったようだ。この事件が、その後の神話形成に影響を与えた可能性もある。
参考>>
王権の記録 初期王朝時代
ギリシャ人はホルスを戦いの神アレスと結びつけ、その影響でローマ支配の時代にはギリシャ風の甲冑姿のホルスも作られている。ファラオがいなくなったあとのエジプトでのホルスは、最終的に「戦の守護神」という属性が残っていったようだ。
●幼児ホルス
王の化身として成人の姿で表されることも多かったが、母イシス(またはイシスと同一視されたハトホル)の母権を強調するための無垢な子供として、抱かれて授乳されている幼い少年の姿で表されることも多かった。この特徴的なシンボルは、のちに聖母マリアに抱かれた幼いキリストのイメージに転用されたと考えられている。
幼児のホルスは、ホル・パ・ケレド(子供のホルス)、ギリシャ語では
ハルポラクテスとして、本来の王権の象徴であるホルスとは別個に「子供の守護者」として信仰された。子供のホルスは、即頭部から三つ編みの髪をたらし、指をくわえた裸の子供として表現される。
●上下エジプトの統一
叔父セトとはライバル関係であり、神話上は敵対していたが、壁画などの中で戦うことはなく、むしろ仲良く表現されている。これは、「好ましくないものは描かない(記録に残すとそれが永遠になってしまうから)」という古代エジプト人の世界観に従っていると思われる。平穏であるべき神殿内や墓内の壁画に争いのシーンは描けないのだ。
ホルスとセトは力を合わせてエジプトを守るべきとされ、その最たるものが上下エジプトの統一を意味する「セマァ・タウィ」の図である。これは、上下エジプトをそれぞれ意味するスゲとパピルスを、人間の肺に見立てた柱に結びつけるという儀式的な図柄。また、仲良くなりすぎて(?)、セトとホルスが合体させられている図もあったりする。何がどうなっているんだエジプト人。いいのかこれは・・・。
神話
・セトとホルスの王権争いはエジプト神話の中でいちばん有名なエピソード。
・天空神であるとともに戦いの神。また神々の法廷で、叔父セトに奪われた王位を継ぐのは自分であると弁論したことにより、実は裁判の神でもある。
・死者の審判においては、審判にパスした死者を父オシリスに紹介する神として登場する。
聖域
エジプト全域
DATA
・所有色―赤、白、黒など
・所有元素―大気、火
・参加ユニット―大抵の神と関係あり
・同一化―
・神聖動物―鷹(ワシ、隼となっている本もあり。とりあえず猛禽類であることは違いない)
・装備品―王権の象徴フルセットだが、特徴として永遠を意味する輪っか、「シェン」を握ることがある。
・関係づけられた樹木―アカシア
◎豆知識
「ホルスの瞳」には眉毛と睫毛が必要だった。リアルのハヤブサと比べるエジプト美術
→ホルス神のデザインの元はラナーハヤブサではないか、という話
◎わりとどうでもいいネタ
エジプト神話で「砂嵐×飛行機」
◎ホルス神の誕生日について
現代エジプトでコプト教のクリスマスは、古代のホルス神の誕生日と被せて行われます。
キリストの誕生日が12/25になった経緯をまとめてみた