■ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス |
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ヴォルスンガ・サガ
―シグルズの旅と結婚―
シグルズは鳥たちの言っていたように、ヒンダルフィヤル山へやってくる。山の頂上には、天まで輝く炎のような光があり、その中に砦が聳えている。
中に入ると、完全武装した一人の男が倒れていた。しかし、兜をはがすと、それが美しい女性であることが分かる。
鋭い剣グラムで体に食い込んでいる鎧を切り裂くと、女性は目覚め、私を眠りから目覚めさせたのは誰か?
と問う。シグルズが、それはヴォルスング家の者だと答えると、彼女は自分の身の上を語った。
かつてヒャームグンナルとアウザブロージルという二人の王が戦ったとき、彼女はオーディンの取り決めに逆らってヒャームグンナルを倒した。オーディンは怒り、彼女を眠りのとげで刺し、戦乙女の力を奪うために結婚させようとした。しかし彼女も、恐れを知らぬ男としか結婚しないという誓いをたてる。
かくてブリュンヒルドは、運命に定められた男が来るまでは、覚めない眠りに就いていたのだ。
ブリュンヒルドは様々な知恵をシグルズに与える。二人は結婚することを誓い、いちど別れる。
***
いつかブリュンヒルドのもとへ戻るつもりで、あちらこちらと旅をしていたシグルズは、ブリュンヒルドの養父、ヘイム(ヘイミル)のもとにたどり着く。
ヘイムはブリュンヒルドの姉、ベックヒルドを妻とする領主で、アルスヴィズという息子がいた。妹は家庭に入る女の道を選び、ブリュンヒルドは盾とる戦乙女の道を選んだ。そのためベッグヒルドは「ベンチの女」(ベッグヒルド)、ブルュンヒルドは、「鎧の女」(ブリュンヒルド)と、呼ばれているのだった。
シグルズはアルスヴィズと友達になり、鷹狩りなどをして、ともに楽しんでいた。
ある日、鷹が塔に迷い込む。追いかけていたシグルズは、塔の中にブリュンヒルドがいることに気がついた。彼女は、シグルズとほぼ同時に、姉の住むこの城へやって来ていたのだという。それを知ったシグルズは、いてもたってもいられなくなり、ブルュンヒルトに逢いに行く。
彼女は親しい者以外、誰も傍らに座ることを許さない気位の高い女性だったが、シグルズにだけは席を許し、酒をすすめた。
シグルズはブリュンヒルドに言い寄るが、彼女は自分の持つ予言の力で、シグルズとはいっしょになれないこと、シグルズはギューキの娘グズルーンを妻にすることが定められていると口にする。
だがシグルズは、自分はブリュンヒルドを選ぶのだと言い張り、ブリュンヒルドも同じように語った。
シグルズは、自分の持つ黄金の中から、宝物をひとつ、…アンドヴァリから奪われた黄金の腕輪を、彼女に渡して去ってゆく。
こうして彼らは定められた運命に逆らうことをお互いに誓い合うのだが、それはかなわないことなのだった。
※のちに出てくる、ブルュンヒルトとシグルズの娘、アースラウグは、このとき通じて身ごもったと考えられる。
シグルズ亡き後、この娘をデンマーク王が娶るという"続編"が、『ラグナル・ロズブロークのサガ』(毛ズボンのラグナルのサガ)である。ただし、もともと存在した続きなのか、後世に続編が付け足されたのかは不明
さて、その頃、ブリュンヒルドが予言したシグルズの妻となる女性――グズルーンは、夢に見た黄金の鷹のことで思い悩んでいた。
彼女の父はギューキ王。息子はグンナル、ホグニ(ヘグニ)、グットルムの三人で、彼らの母は魔法使いグリームヒルドだった。
ギューキ王は、ブリュンヒルドの父、ブズリ王と権勢を張り合っていた。ブズリの息子アトリは、彼女の兄である。
不吉な夢の内容を解いてもらうため、グズルーンはブリュンヒルドのもとを尋ねる。(なぜなら夢の中に、ブリュンヒルドが出てきたからだ)
ブリュンヒルドは、彼女の話す夢の内容を解いて、こう答える。
夢の中に出てきた黄金の鷹は、この世でもっとも優れた勇士、シグルズである。しかし、シグルズはすぐに失われ、グズルーンはアトリのもとへと嫁ぐだろう。アトリは彼女の兄弟たちを殺すが、アトリは彼女自身が殺すことになる。
グズルーンは悲しみながら去る。
そして、その後にシグルズが、ギューキ王の城を訪れるのだった。
シグルズは、ギューキの息子たち、グンナル、ホグニとともに暮らした。シグルズは二人よりも優れているように見えた。またシグルズはしばしばブリュンヒルドのことを口にし、愛していることを示したが、ギューキ王の妃グリームヒルドは、彼がブリュンヒルドのことを忘れ、自分の娘グズルーンと結婚したら素晴らしい姻戚が結ばれるものと思い、一計を案じて、忘却の魔法のかかった酒を飲ませる。
それでシグルズは、それまでのことをすっかり忘れてしまい、かわりに、ギューキ王のもとで美しいグズルーンに心を奪われていくのである。
シグルズはグズルーンと結婚し、かつてファーヴニルを倒したときに取っておいた、焼いたファーヴニルの心臓の残りをグズルーンに与える。そのため彼女は、以前より残忍で冷酷な性格を持つようになったという。
****
さて日が過ぎ去るうち、グリームヒルドは息子グンナルのもとへ行き、今のあなたには妻が欠けている、ブリュンヒルドに求婚しなさい、と勧める。それにはシグルズを連れてゆくように、と。
シグルズとグンナル、ヘグニはうちそろって出かけ、まずブリュンヒルドの実父アトリ王のもとへ行く。王は娘が自ら選ぶ男ならよいと答える。次に養い親、ヘイミルのもとへ行く。ヘイミルは、ブルュンヒルドは猛る炎に囲まれた広間にいて、誰であれ、その炎を乗り越えた者しか夫に選ばないだろうと言う。
グンナルは自分の馬を炎に駆り立てるが、馬が進まない。次にシグルズからグラニを借りて乗るが、やはり進まない。
そこでグリームヒルドがあらかじめ教えていたように、姿を取替え、シグルズがグンナルと名乗ってブリュンヒルドのもとへ行く。炎を越えられるのはシグルズだけと思っていたブリュンヒルドは結婚に乗り気ではないが、炎を越えた者と共にゆくという誓いは果たさねばならなかった。
シグルズはブリュンヒルドから、以前与えておいたアンドヴァリの腕輪を取り戻し、何くわぬ顔で姿を元に戻す。
ブリュンヒルドは、シグルズとの間に生まれた娘、アースラウグを養父ヘイミルに預け、グンナルのもとに嫁ぐ。婚礼には彼女の実兄、アトリも来ていた。
宴の果てたのち、シグルズは忘却のまじないから醒め、過去の誓いと、ブリュンヒルドとの日々を思い出す。だが、そのことは口に出さないのだった。