中世騎士文学/エーレク―Êrec

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トリスタン物語<Tristan>―全般解説

私なくしてあなたはなく、あなたなくして私はない
Ne vus sanz mei, ne mei sanz vus (マリ・ド・フランス「すいかずら」より)


トリスタンの物語は「ケルト起源」と言われるが、正確にはアイルランド起源であるらしい。
アイルランドの駆け落ち物語がウェールズに渡ってトリスタン・イズー物語の原型が生まれ、次にブルターニュに渡って物語の後半が付け加えられたのだろう、というのが定説だ。
(アイルランドには「二人の妻を持つ男」の物語があり、それが、トリスタンを愛する二人のイズー、という物語の形に影響を与えているとも言われる。)

さて、この物語は多くの作者によって再話され、異なる形式で語られてきたわけだが、ほとんどが不完全な形で残されている。
ベルールによるトリスタン物語、トマによるトリスタン物語は、ともに写本が散逸してしまい部分的にしか残されていない。また、ゴッドフリートによるトリスタン物語は、完結しないまま終わっている。しかし、作品の大筋が同じであることから、これらトリスタンの物語は、共通する「原物語」をもとにしているのではないか、という説がある。いわゆる「原(ウア)トリスタン」というものだ。

しかし、その大元になった物語は見つかっておらず、存在したかどうかには疑問の声もある。

元になった物語があったかはさておき、トリスタンの物語を完全に伝えているのは、アイルハルト・フォン・オーベルクによる、中世ドイツ語の作品(1170-90の間に成立)だ。

トリスタンの伝説は、大きく分けて4つの部分に分かれる。

1・トリスタンの出生と幼少時代
2・アイルランドの王女、イズーとの運命的な出会い(竜退治や、タントリスと名乗る話は、ここ)
3・コーンウォール王マルクの妃となったイズーとの密通
4・二人の別離、トリスタンの結婚、恋人たちの死

このうち、多く残されているのは3と4の前半。
岩波文庫から出版されている、ベディエによる編集版は、現在残されている様々な物語のパーツを一つに繋ぎ合わせ、存在したかもしれない「原物語」を再現したものである。





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