中世騎士文学/パルチヴァール-Parzival

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第九巻  パルチヴァールとトレフリツェント



 物語は、久しぶりに本来の主人公のもとへと戻る。
 自らの罪をあがなうため、聖杯城を目指して旅を続けるパルチヴァールは、偶然立ち寄った庵で、三度ジグーネと出会う。
 かつての面影は既になく、美しさも失われ、やつれ果てた彼女は、恋人シーアーナトゥランダーのなきがらの側で今も涙にくれている。彼女の命をつなぎとめているものは、聖杯から生み出され、聖杯城の使者である魔女クンドリーエが彼女のもとに届けてくれる、いくばくかの食べ物だけだった。

 ジグーネから聖杯城への道を聞いたパルチヴァールは、城を目指して馬を走らせるが、途中、城を守る騎士に見つかり、戦いとなってしまう。谷に突き落とされた彼は、生来の敏捷力で途中に突き出した木の枝につかまり命拾いするものの、馬はそのまま谷底に落ちて死んでしまう。仕方なく、聖杯城の騎士が残していった馬に乗り、先を急ぐことにした。

 さらに日が過ぎた。
 雪が降り始め、鎧は冷たく冷え切っている。彼がであったのは、穏やかな様子で旅をする老騎士と、その家族だった。馬には乗らず、甲冑も着込まない。その理由を、老騎士は、「今日が聖金曜日だからだ」と、告げる。キリストの死んだこの日には、人はみな、喪に服さねばならないのだと。
 さらに老騎士の娘たちは言う、ともに巡礼の旅に出ようと。しかし神への信仰を失っていたパルチヴァールには、それが出来ない。彼らと別れ、一人馬を走らせる若い騎士の心は、悲しみに満ち溢れていた。

 老騎士の足跡を辿っていったパルチヴァールは、かつてオリルスとその妻エシューテを仲直りさせた、あの原に出ていた。そこには隠者トレフィリツェントの庵があった。パルチヴァールを庵の中へ導いた隠者は、聖金曜日であるから、と、彼に鎧を脱ぐようにすすめる。
 ここで初めて、彼が円卓を後にしてから4年半の歳月が過ぎ去っていたことが分かるのだが、読者にはそれほど長い時間が経ったひとは感じられない。

 パルチヴァールは、これまでのことを隠者に話す。聖杯城でのことや、妻のことなど。隠者は実はパルチヴァールの母、ヘルツェロイデの兄で、聖杯王アンフォルタスの身内だった。隠者は甥であるパルチヴァールを諭し、聖杯のことや神のことなどを話して聞かせ、これから進むべき道を示唆する。このときはじめて、アンフォルタスの負った傷や、その苦しみの理由が明らかとなるのだ。

 無知なることは罪である。
 隠者トリフィリツェントは、パルチヴァール(と、読者)がそれまで知らなかったことを、ほぼ全てつまびらかにしていく。つまり、この物語の背景にある大きな複線と、主人公(および読者)が、それとは知らずに犯してきた神に対する大罪についてである。パルチヴァールは「それがどうして罪になるのか」と反論するが、読者も心の中でそれを発する。人が、いかにすれば神の愛を得られるのか、という問いかけの答えは、主人公が、いかにすれば聖杯のもとにたどり着けるか、という問いかけの答えでもある。

 別れの時が来て、パルチウァールは隠者のもとを発って行くが、何かを悟った彼が、このあと再び姿を現すのは物語のクライマックス近くなってからである。




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