翌朝、渡し守プリパリノートの家で目を覚ましたガーヴァーンは、まず、自分がやって来た城のことについて質問する。それは聞いてはならぬことだと答えようとしない渡し守の娘。強い問いかけにようやく答えたプリパリノートによれば、そこは、魔法のベッド<リート・マルヴェイレ>のある、魔法の城<シャステル・マルヴェイレ>なのだ、ということだった。
オルゲルーゼは、ガーヴァーンをこの城に連れてきて、何をさせるつもりだったのか。城には多くの婦人が捕らえられているが、助け出そうと挑みかかった多くの騎士たちは、みな、城を攻略することが出来なかったという。ちなみに、パルチヴァールは、通りかかっただけで、何もせずに通過していったらしい。
危険を承知で、城の魔法に挑もうとするガーヴァーン。
壮麗な城の中には、すべすべした床の部屋と、丸い立派なベッドが置かれている。これこそ魔法のベッド、リート・マルヴェイレなのだ。どこが魔法かというと、「勝手に走る」。ガーヴァーンは甲冑のまんま、滑りやすい床の上でベッドを追いかけ、飛び乗って、荒馬のごときベッドにしがみつく。
そしてベッドが彼を乗せて部屋の中央にカチリととまると、周囲から大量の石と矢が降って来た。これを盾で防ぎきると、次に現れたのは、醜い一人の下僕だった。下僕がガーヴァーンに不吉な言葉を投げて立ち去ると、扉の向こうから、巨大なライオンが1頭、姿を現す。
この血に飢えたライオンとの戦いは、壮絶なものだった。互いに血を流し、あたりは血の海となる。ガーヴァーンは、かろうじてライオンを倒したものの、自らも、これまでの攻撃と出血から意識を失い、倒れてしまった。
戦いが終わったのを知って、城に捕らえられていた貴婦人の一人、老アルニーヴェは、死に掛けているこの若い騎士を救うよう、乙女たちに指示をした。アルニーヴェは、かどわかされて行方不明になっていたアルトゥース王の母で、ガーヴァーンの祖母に当たる。さらに、この城にはガーヴァーンの母と二人の妹もとらわれていたのだが、本人は全くそれを知らずに助けに来ていたのである。
…それでいいのか。
…そんなもんなのか。
中世では、男子と女子は別々に育てられることが多く、ガーヴァーンも、騎士見習いとしてアルトゥースの宮殿に出向していたから、母親や妹とほとんど面識が無かったのかもしれないが。
ガーヴァーンの傷は深かったが、魔法の城での手厚い介護のおかげで、彼はなんとか一命をとりとめた。