中世騎士文学

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騎士の妻たち


妻と書いてオンナと読む。騎士のオンナたち。…なーんちゃって。<ジョークです


騎士の妻というと、みやびなご婦人…いわゆる姫君を想像する人も多いのではないかと思う。が、実際のところ、騎士の妻となるのには、それ相応の覚悟というものが必要だった。

騎士の妻とは、武家の嫁である。

夫の仕事は「戦い」なのだ。血まみれで帰宅した夫を見て卒倒していたのでは始まらない。すなわち、騎士の妻には応急処置の技術が必須であると思って欲しい。そうすれば、数々の騎士物語で、癒し手が必ずと言ってよいほど女性である意味が分かるはずだ。

有名どころでは、傷ついたアーサー王を迎えに来る、モルガンほかアヴァロンの女たち。毒に冒されたトリスタンを救うイズー王妃。魔法の城へ、囚われた女性たちを解き放ちに言ったガウェインもまた、戦いの終わった後、囚われの女性たちに介抱される。

夫が馬に乗る職業であることから、馬の世話も必須だ。
たとえば「エーレク」(ハルトマン・フォン・アウエ)において、エニーテがエーレクのために馬を世話するのも、幼い頃から、騎士であった父のもとで馬の世話をしていたからである。騎士の妻は、必要があれば馬丁の役目も出来るものなのだ。

また、世話が出来るのだから自身が馬に乗ることも可能だ。貴婦人たちは、しばしば馬に乗って物語に登場する。(逆に、歩いて出てくることが無い) 王妃と呼ばれる女性も、侍女と呼ばれる女性も、である。ただし女性たちの乗る馬は、男性の乗るものより小型だったり、ときに騾馬で代用されていることも多い。少なくとも、軍用馬とは異なるようだ。

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さて、騎士の妻たちは、時として人間ではない。
人間でなければ何なのかというと、妖精なのだ。若く美しい騎士の恋人として不思議な貴婦人が現れるというのは、ケルト系の伝承に多く見られるモチーフだ。

妖精の奥方には、以下のような特徴がある。

・美しい。(必須条件)
・裕福である。
・魔法、まじないを使う。(彼女の周りで何かの不思議が起こる)
・恋に制約がある。

たとえばマリー・ド・フランスの短詩「ランヴァル」では、恋人となる女性はこの上無く美しく、裕福であり、ランヴァルが思えばいずこからでも出現する不思議を使うことが出来るが、ランヴァルには「この恋を誰にも話してはいけない」という制約を与えている。

同じマリーの短詩で「ギジュマール」では、恋人となる奥方は美しく裕福だが、目に見える魔法は使わない。ただし、彼女以外に解けない上着の結び目をギジュマールに渡し、「この結び目が解ける人以外とは恋をしてはいけない」とすることで、不思議と恋の制約とを行う。

これらケルトに由来する物語は、ドイツ・フランスに渡って書き直されるうちに、また時代が進むごとに、本来の妖精としての特徴を失ってゆく。(たとえばアーサー王の妃グウィネヴィアも、もとは妖精だったと考えられる。)



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