パルチヴァールは出発し、元気に馬を飛ばして、迷うことなく濠のところにやって来た。跳ね橋は引き上げられていた。城はまことに堅牢で、まるでろくろにかけて作ったようだった。そのため、空から飛んで入るか、風に乗って入るかしない限り、地上から攻撃しても損害を与えることはできなかった。 たくさんの塔やいくつかの館がそびえ、見事な防衛が施されていた。たとえこの世のすべての軍勢が押し寄せ、包囲の苦しみが三十年に渡ろうとも、城内の人々は、(包囲を解くための代償として)パン一切れも差し出すことはしなかったであろう。 ―ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ「パルチヴァール」第5巻・パルチヴァールの最初の聖杯城訪問 より |
騎士文学にしばしば登場するのが、城の描写だ。王様が住んでいそうなゴージャスなお城ではない。お城=「要塞」。なぜなら騎士とは戦士階級であり、領地が危機にさらされたときには、城が防衛拠点になるものだったからだ。また、自分がとっつかまると、身代金を要求されて一夜で破産することもあり得た。
騎士たちの時代、11世紀から13世紀前半頃にかけてには、ドイツ語圏だけで、一万の城が築かれたという。今もおびただしい数の城が残されているゆえんだ。
城は一般的に、丘陵などに築かれる山城(ヘーエンブルクと呼ばれる)と、河川などに沿って作られる水城(ヴァッサーブルクと呼ばれる)に、大別される。山城の中には切り立った崖を天然の防御壁とする強固なものもある。規模は様々で、細部も異なるが、それぞれに地形を活かして作られているようだ。
以下に、代表的な城の機能を紹介してみる。
※この構造は、城が要塞の機能を兼ねた時代のものです。のちに、城が宮廷(貴族の城)へと変貌していく時代になると、城はほとんど防御構造を備えなくなります。
元資料;「中世への旅 騎士と城」白水社
1/塔(ベルクフリート、ベルフリト)
語源は不明。用途はさまざまで、地下は捕虜収容所として使われ、最上階は見張り台、または城に近づく者を攻撃するための砦としても使われた。穀物などを貯蔵することもあったという。
入り口は地上から15メートルくらいの場所にあるのが一般的で、梯子によって出入りし、必要とあらば梯子を外して籠城することも可能だった。…あまり快適に生活は出来そうに無いのだが…。
2/居館(パラス)
人々の住む館。城の本体とも言うべき場所で、規模はさまざま。多くの家臣を抱える主君ともなると、かなりの規模になる。
宮廷(ホーフ)もここで開かれ、ホーフのある城はホーフブルクと呼ばれる。パラスがいくつかの建物に分かれることもあったし、使用人の住居や台所なども、ここに含まれた。
3/城壁
侵入者を拒む、切り立った城壁。石積みがあっても、そうキッチリしたものではないので、日本のものにくらべれば登りやすそうな気がする。
4/のこぎり型狭間(ツィンネ)のある回廊、 5/狭間窓
城といえばすぐ思い浮かぶ、城壁の上の凸凹。これが何のためにあるかというと、下から矢を射掛けられたときなど、身を隠しながら応戦するためのものである。城壁の上の回廊は、もちろん、敵が近づいてこないかどうか見張る兵士たちが歩く場所。
城壁に付けられた窓は、そこから弓を射ったり石を投げたりするためのもので、弓用の窓は縦長、もっと時代が下って火気を使うようになると、鉄砲台の添えられた形式になっているという。 ※ここの部分については末尾の補足参照
6/ペヒナーゼ
意味は「鼻」。その名のとおり、入り口の上の壁に突き出た鼻のような、小さな出窓で、ここから番人が覗いて、来訪者に誰何する。
7/城壁塔、 8/門塔
番人さんの詰め所でもある。
9/側塔、 10/張り出し陣
第一次防衛ライン、といったところか。表に直接面している城壁で、ここにも攻撃のための狭間などがある。
11/外殻塔
内側に向けてだけ開かれた塔。
12/堀
山の斜面に作られた城だと、斜面と城との間をへだてるために深い溝が掘られていた。これは、斜面から直接、城に攻め込まれないためのものである。また、水を張った堀、城壁の前を深く抉った堀、城門の前にだけある堀など、城によって形式は様々。
13/跳ね橋
どの城でも大抵あるのが、この「跳ね橋」。唯一の進入経路を塞ぐわけだから、引き上げてしまえば中に入ることは難しい。
14/城門
物語のように、城門に鎧戸がついていることは稀だったという。上から勢い良く降りてくる格子の鎧戸は、中世らしくていかにも素敵なのだが。
15/城へ続く道
城は基本的に「守る」ものなので、馬車が一台通れるくらいの、細く、しかも曲がりくねった道だった。山の上の城だと、わざわざ山の周りを何周もさせて、封鎖できるようなつくりになっていたとか。
また、道は城門に対し右から左へ進む方向に作られており、こうすると、攻め入る歩兵は盾で守られていない体の右側を城壁に晒しながら歩くことになり、容易には進めない。
16/門衛棟
門番や外壁を守る兵士たちの住む建物は、他の人々の住む場所から離れていたようだ。
17/別棟
一般的に、私生活のための空間や客間などはすべて、居館(パラス)内に作られていたのだが、裕福な城になると、私的な部屋と公の部屋が別々になっていた。その他、城の規模によって使い道は様々。
18/礼拝堂(カペレ)
どんな小さな城でも、礼拝堂があるのが普通だった。ここまでのゲームを記録するための場所、ではない(笑)
キリスト教徒なので日々の祈りは必須。しかし、そのたびに定期的に城から出るのでは、敵に狙われやすい。そこで、城内に専用の礼拝堂が設置されたのだという。
騎士たちの時代、決闘によって敗北した騎士は、沢山の身代金を払って命を助けてもらっていたが、正規の決闘ではなく、誘拐によって拘束された騎士もまた、高価な身代金を要求されることがあった。城主が誘拐でもされたなら、身代金だけで財産のほとんどを盗られてしまうようなことも在り得る時代だったのだ。
「釣りをしに行くにも、鎧を着けて」…これだけ色々な防衛機能を備えるということは、身の安全は、現代では考えられないほど、重くとられていたのだろう。
<2015/追記分>
だいぶ前に書いたページですが、まだ使ってる人がいるっぽいので補足。このページは元の資料がドイツ語なので、全般的に用語がドイツ語になっています。英語だと別になります。ですが元がドイツ語だろうが英語だろうが、結局は日本語に訳すと思うので日本の城郭の本も参考にするといいと思います。西洋の城にしかないパーツの名称は このへん とか適当にググれば出てくるかと…
・お城の上のぎざぎさになってるところの名称は 鋸壁(のこかべ) です。隙間から顔を出すのであれば、「鋸壁の狭間から顔を出す」となります。
・城のパーツは時代ごとに若干異なります。たとえば銃眼は、銃が使われだしてから城に作られるようになる感じ。
・時代/地域ごとに城の構造が違ったりするのは日本と一緒。
中世の城の構造が知りたい人は「中世ヨーロッパの城塞」(マール社)買いましょう。
城のお堀にトイレが直通だったので堀は巨大に肥溜めだった、とかの知識も手に入りますし。
図1 城本体
図1の解説
図2 城と周辺の町
図2の解説
詳細な解説は自分で本読んで調べてください。ちな図1の36f番が皆の大好きな、お城の外壁のギザギサのある壁のこと。
上のほうで書いている城の構造は元がドイツ語本なのでドイツ語名称、この本はフランス語からの翻訳なのでフランス語名称になってることに注意されたし。ファンタジー小説とかで使いたいなら、日本語に統一するのが無難ですお…。