決闘の作法・その2
続いて、一騎打ちの作法についてさらに詳しく申し上げましょう。
と、いってもわたくし、悲しいかな純・平民でありまして、騎士世界のことはあまり詳しく存じておりません。そこで、我らが友なるヴォルフラム氏より聞き知ったる、物語中に出てくる作法から抜粋いたします。それならばまず、間違いはありますまい。
■基本装備
前述したように、騎士の決闘における主要な武器は、槍です。接近戦の時は剣。そして、「騎士=盾持つ職業」と呼ばれているところから、もちろん盾は必須。
これが基本装備であり、それ以外のものは「無作法な」として、正規の騎士さんが用いることは、まずありませんでした。いちおう、使うべき武器の形や種類は決められていたのです。
いくら攻撃力が高いからって、ちょっと変わった武器(例;投げ槍)なんか使うと、卑怯者よばわりされますヨ。
■馬に乗ったまま剣は使わない
戦場ならいざ知らず、決闘において、馬に乗ったまま剣を振るうのは、「無作法」とされていました。剣を使うのは、あくまで馬を下りてから。最初に槍で打ち合って、槍が折れてしまったとき、双方とも馬に乗ったままでしたら、「力勝負は引き分け」です。次は馬を下りての技巧勝負。
片方が槍、片方が剣なんてことは絶対ありません。
自分の槍が折れてしまったら、相手に「馬を下りろ! 剣を抜けエ」…と、言うらしいのです。
単に勝てばいいものとは違うんですね。
よっぽどのことがない限り、騎士さんたちは馬に乗ったまま剣で打ち合ったりはしません。リーチが足りないというのもあるんですが、勢いあまって自分の馬を斬ってしまうことがあるから、なんて切実な話もあります。
ほとんど前方の見えない兜をつけていた、というのも理由でしょうし、フル装備では、馬上で身動きなんて出来ませんからね。
■名乗るときは負けたほうから
ところで、戦っているときの騎士さんたちは、鎧フル装備なので顔はわかりません。当たり前ですよね。顔が見えているということは、そこを攻撃されたら一撃で致命傷です。
そこで、試合が終わってから名乗りあってはじめて相手がわかるわけなのですが、このとき、名を名乗るのは「負けたほうから」です。
戦う前に名前が分かる場合は、その人がつけている紋章のおかげです。
名乗らなくても、紋章で相手が分かる=有名人。遠目に見ても自分が分かってもらえるほどの有名人になることは、大きな名誉です。
騎士の紋章とは、そのためにあるものなのです。
■愛の証
騎士たるもの、ただ名誉のために戦うだけではありません。高貴なご婦人のためるに戦うこと、これも立派なお役目。戦ったあと甘いアヴァンチュールが待っているのもお約束です。
そこで!
「私は○○様のために戦っています。」「私の心は××様のものです。」と、いうことを表すために、そのご婦人がつねに肌に身につけているもの、たとえば下着ですとか、服の袖ですとか、帯ですとかを、「ミンネの証」として受け取って、戦いの最中に身に着けていることがありました。
ちなみに、もらった証はもらいっぱなしではありません。盾の裏にくくりつけておいて、盾と一緒にボロボロになった袖をお返しする、なんてこともあったようです。ボロボロでもOK。生きて戻って、返してあげましょう。
■スポーツとしての決闘−テョスト(tjost)※中世仏語 joute
さて、個人的な怨恨あっての決闘のほかに、スポーツとしての一騎打ちも当然、存在しました。これは宴などで人が集まったときに余興として行われたもので、お付きの小姓が対戦相手はいないかと呼ばわり、その呼びかけに応じた者が一騎打ちに参加するというものです。
■スポーツとしての決闘−トゥルネイ(turnei)※中世仏語 tournoi
この、テョストと呼ばれる競技は、主に団体戦、トゥルネイ(turnei)の前に、前哨戦として行われるものでした。 まず王が、トゥルネイの布告をし、騎士たちに名誉を得る宴の機会だと知らしめると、参加する意思のある者たちが続々と集まってくる。そして血気盛んな騎士たちは、トゥルネイのはじまる前に、そこかしこで戦いをはじめる。それが「テョスト」です。つまり、一般に「トゥルネイ」と呼ばれている競技大会には、普通、テョストも含まれるものなのです。
トゥネルイのほうは、団体戦というだけあって、紅白陣営に分かれた実戦演習です。戦うのが仕事の騎士ですから、もちろん、それは単なる遊戯以上の意味を持ちます。
一つのトゥネルイに何千人という騎士が参加したこともあったというから、まさしく、実戦もかくやという規模。ヘタすれば死にます。命がけの試合なのです。もしかすると、トゥルネイの前に一騎打ちで倒れたほうがマシだったかも…。
さらにもう一種類、槍を持って突進しあうだけの「ブーフルト」と呼ばれる激突試合も在り、これも団体戦の前に行われることがありました。
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