アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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北欧神話の人間創造〜はじめ人間?



 突然だが、スノリエッダの「ギュルヴィたぶらかし」より、「はじめの人間」が出来上がるまでの系図を、作成してみた。


ビミョウに見えづらくてすんません。


 かなりの割合で、「人間ではない」…というか、「それは一個の生き物というより”モノ”ではないのか」という存在が含まれているが、あまり気にしてはいけない(笑)
 色々な点で特徴があるが、特筆すべきは、この系図が「天地創造から人間創造に至るまで」の系図では無い、というところだろう。
 天地は、誰が作ったものではもなく、いつのまにか存在していた。その中でも、特に火の国ムスッペルが古いという。世界は最初から在り、そこから生物が発生し、子孫を作って何代目かにようやく”神”と呼ばれる存在が登場する。そこから、物語がはじまっていく。

 しかも、その神の系図は一本ではなく、大きく二本に分かれている。「巨人」と「牛」である。

 物語を追ってみよう。
 川の水と毒気が氷となり、氷に炎の国ムスッペル(ムスペルヘイム)から飛んできた火花が当たって氷が溶け、発生した蒸気から、原初の巨人と牛が誕生する。そして、この、巨人と牛から、それぞれ、「霜の巨人族」と、「のちに神々となる巨人族」が誕生したことになっている。

 しかも、ほぼ同時に誕生したらしい巨人と牛は、実は、対等な関係ではない。牝牛アウズフムラは、巨人の祖先ユミルを、その乳で養っている。ユミルからの見返りについては記されていない。と、いうことは扶養関係である。同時発生した兄弟というよりは、親子のようなものだろう。

 この養い関係の中で、ユミルは巨人族だけでなく、人間らしきものも生み出している。
 脇の下にかいた汗から、男女を。
 両足のまじわりから、巨人族となるベルゲルミルを。

 それに対し、牝牛アウズフムラは、岩塩をなめて、中から人間ブーリを生み出す。
 ブーリはボルという息子を得、ボルは巨人の娘ベストラを娶って、オーディンら3柱の神々を生み出す。(神といっても、彼らも巨人族の一種には違いない。)
 そして、このオーディンら3柱の兄弟が、ミッドガルドに住む人間を創造するのである。

 ユミルの血族である霜の巨人たちと、、オーディンら、牝牛の血族である神々とは、世界の始まりから終わりまで対立し続けているが、これを北欧に特有の、血族同士の対立としてみると、面白い。
 扶養者=格下の一族なんかに世界を渡してたまるか。
 格下が独立企んでんじゃねーぞ。こっちが正当なんだ、昔養ってやった恩を忘れたのか。
 …と、いう気持ちがあったからこそ、巨人族を認めなかったし、世界の辺境に追いやってしまったのではないかと思うのだ。

 また、本来であれば存在したはずの、「ユミルの脇の下から生まれた男女」も、それ以降の神話には全く姿を現していない。
 オーディンら3柱の神々が作る人間は、巨人族がおっぱらわれた後に誕生するのだから、順番でいけば、このユミルの血族の人間たちのほうが早くに存在していたはずである。
 どこに行ってしまったのだろうか。

 ユミルの子孫である巨人たちは、始祖ユミルが殺された時に流れ出した、夥しい血によってみな溺れ死んでしまったという。(世界に存在するという大洪水伝説の一種のようにも見えるが、実際は、大きな戦いがあって、巨人たちの血が多く流されたことの比喩ではないかとも思う)
 ユミルの脇の下から誕生した”別系統の”人間が存在したとしても、このときに溺れ死んでしまっただろう。
 そして、何も無くなったあと、神々はユミルの体を解体して自分たちに都合のよい現在の世界をつくり、その中に、自分たちが創造した人間を住まわせた。

 言ってみれば、「格下のつくった生き物なんか滅びちまぇ! てめーらにこの世界は渡さねぇよ。オレらが支配すんだ!」…と、実力行使で世界の支配権を奪ったようなものだ。
 ユミル殺害にしても、敵対家の家長を討つという行為も意味しているわけで、実はこの神話、えげつない人間世界の争いごとを反映したもののようにも思える。

 そして、中央の大地を取り戻そうとする巨人たちから人間を守るため、牝牛から由来する一族の代表=オーディンは、自分の長子トールを「人間の守護者」に据え、ミッドガルド防衛ラインを死守させた。
 神々と巨人の争いは、さかのぼれば、たぶん巨人ユミルと牝牛アウズフムラという、二つの血筋の対立に始まる。どちらが正義というわけでもなく、どちらが悪でもない。人間は、自分たちを生み出したほうを神と名づけ、他方を巨人と呼んだだけではないだろうか。(それは、もっともなことだと思う。)

 …自分たちのせいではない、果てしない戦いに巻き込まれた人間が、いちばん可愛そうだと思う。^^;

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