アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

サイトTOP2号館TOPコンテンツTOP

ケニングの使用例(4)

グンナルの最期



 最後は、「ニャールのサガ」よりの紹介である。

 ハームンドの子、グンナルは、アイスランドで最も勇敢で立派な男として名を知られていた。彼はニャールほか、多くの友人たちを持ち、常に堂々と振るまった。人を殺すことは好まなかったが、いざ戦いが始まったとき、彼ほど恐ろしい者は、ほかにいなかったという。

 だが、この男の運命は、美しいが高慢な女ハルゲルズを妻にしたことから、破滅へと向かい始める。
 望まぬ争いに次々と巻き込まれていくグンナル、彼と弟に言い渡された、3年間のアイスランド追放の刑。…しかし、グンナルは故郷を離れる直前、その美しい景色に気づき、死を覚悟して故郷に留まることを選ぶ。
 民会で追放を宣告された者からは、すべての権利が剥奪された。
 これを機に、グンナルに妬み恨みを抱く人々が集まり、殺害を目論みはじめる。ある夜の襲撃、多勢に無勢だったが、グンナルはよく防ぎ、戦った。
 2人を殺し、16名に瀕死の重傷を負わせたあと、力尽きて倒れた彼は、フローアルドという男の手によって、とどめをさされる。

 勇敢な男の死を前にして、エルヴァルの詩人・ソルケルは、このような詩をつくった−−−



 『われは聞けり  キョルの南にて
 戦いに疲れしグンナルが槍もて
 竜骨の道の馬の導き手を相手にまわし
 身を防ぎしことを
 大地の腕輪の火を浪費する者は
 ヴィソルの月の嵐をいやます樹16を負傷させ
 2名を殺せり』

アイスランド サガ/新潮社/谷口訳



 「キョル」は地名。ケニングではない。
 「竜骨の道」は海を、「竜骨の道の馬」が船を指し、その導き手とは襲撃者たちのことを指す。
 「大地の腕輪」は上と同じく海のこと、「大地の腕輪の火」は黄金を指し、それを浪費する者とは、物惜しみせぬ男という意味でグンナルのことを指す。
 「ヴィソルの月」は盾を、「ヴィソルの月の嵐」は戦を、それをいやます樹とは戦士たち、ここでは襲撃者たちのことを指している。

 人々はグンナルの死を悼み、襲撃者たちを非難したが、これは、彼自身から選んだ死でもあった。
 死後、塚におさめられたグンナルは、月夜に塚の中からこう歌ったという。

 「宝を分かつ者  晴れやかに
  心おきなく戦える
  逞しきホグニの父は言えリ
  戦士は屈服するより 戦いにありて
  兜をいただきて潔く
  死ぬることを望むと言えり」

 …と。



<  戻る  >次