Heimskringla
「ヘイムスクリングラ」とは、「エッダ」(いわゆる”散文エッダ”のほう)を著した人物、スノリ・ストルルソン(1179−1242)の手による書物である。タイトルは「世界の輪」を意味するが、「ヘイム」が世界を意味し「クリングラ」が輪を意味するので、ヘイム's
クリングラ、つまり、切るのであれば、「ヘイムス・クリングラ」となるのが正しいと思われる。
この言葉はもともとタイトルとして付けられたわけではなく、本文の始まりにある言葉を取って、後世の人間がつけた便宜上の呼び名である。
「Kringla heimsins, su er mannfolkit byggvir er mjok vagskorin ...」
和訳すると→「世界の周縁―そこには人間が住んでいる―そこは多くの入江が入り込むようになっている…」
最初の部分「クリングラ ヘイムシンス…」(カタカナにしてしまうとものすごく違和感があるが)という部分がタイトルの由来となっている。
ちなみに、「世界の輪」とは、ヴァイキング時代の世界観を指している。
以前、この言葉の意味について、北欧神話サイトの管理人さんたちと話し合ったところ、「世界はアジア、アフリカ、ヨーロッパの三つの大陸からできていて、それは大きく入り込んだ内海のようなもの(地中海、紅海、黒海)で分けられている、というところの説明だ」という情報をいただいた。
「北欧神話とは何か」のコーナーTOPにある地図が、その時代の世界観である。
現在の世界地図と見比べるとかなり違うようだが、ヴァイキングが活躍したアフリカ、アジアといった地域が認識されており、彼らの活動した海も記されている。ただ、その海を越えた向こうのことを、あまり正確に知らなかっただけのことだ。
北欧神話の中にも、「大地は丸く、世界の中心にあり、その周りを海が取り囲む」という、ミッドガルドのイメージが登場するが、これは、あながち空想では無かったのだ。
正確な地図の無かった時代、「大地は丸く、その縁に人が住んでいる」という世界観は、ある程度、スノリのようなキリスト教時代の人々にも受け継がれていたと言えるだろう。
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「ヘイムスクリングラ」の内容は、ハラルド美髪王(860年)からマグヌス・エルリングソン王(1177年)にいたる、実在したノルウェーの王たちの栄華と没落を歌った大長編歴史サガだ。序章を除き、全16のサガがあり、その各章が、ひとりの王の生涯を語っている。
「エッダ」が散文で、細かいところを端折ったものであるのに対し、こちらは細かい上に実際の歴史を題材としている。
同じスノリの作品でも、エッダに神話的な要素が強いのに対し、ヘイムスクリングラは「王家のサガ」に分類され、ノルウェー王家の伝説的な王たちの歴史を記している。この書を著すにあたり、スノリは、歴史的事実を書くことを意識したというが、それゆえか、内容は失われた異教の祭事に非常に詳しい。和訳ではごく一部しか見ることが出来ないが、オーディン、フレイにならびブラギに杯が捧げられる犠牲祭など、生き生きとした描写が「エッダ」とはまた違った味わいを見せている。
残念なことだが、いやむしろ幸運にと言うべきか、「ヘイムスクリングラ」の完全な和訳は一般に販売されていない。
英訳テキストは何種類かあるが、とてつもなく分厚いので並のことでは読み切れないだろう…。
その長さゆえに完全な和訳も出版が困難なのである。ま、過去に、250部限定でとある出版社が出されてましたが、7万円なんていうケタ違いなお値段だったのと本のサイズのデカさに本気で引きました。^^;
大雑把な内容だけなら、「サガ」を扱う本に載っている。 実際に読むことが出来ないのは残念だが、読もうとするととんでもない時間かがかかるため、今は手の届かない作品であるほうがいいのかもしれない…とも思う(笑)。
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ヘイムスクリングラの概要が、一部抄訳されているサイト→http://www.runsten.info/