別名・別綴り/マルドク 別名はめちゃくちゃ多いので本文を参照
性別/男性
守護都市/バビロン
【主な役割】
神々の王(エヌマ・エリシュ以降)
【神話・資料別エピソード】
神名には意味はない、とする説と、「太陽の牡牛」を意味するとする説がある。エンキ(エア)息子であるとされ、原初の神々を打ちたおすことで神々の王の座につく、若い世代の神。代表的な別名の「ベール」は「主」を意味する。これは、ウガリットの主神バアルの名が「主」を意味することとも通じる。最高神の肩書きというわけだ。
元々は無名の神だったが、バビロニアが発展したことに伴い主神格に台頭した。呪術神アサルルヒと習合し、魔術神の属性も手に入れた。バビロニアの神話はマルドゥクageが凄いので、ほかの全ての神がマルドゥクの別名として扱われていたりする。しかしアッシリアが台頭してくると、アッシリアの主神アッシュルに併合されてしまう。
シンボルは↑であらわされる鋤。
妻はツァルパニートゥまたはナナヤ女神。
バビロン市でのマルドゥクの祭りでは、聖なる街道を白馬に戦車を惹かせてマルドゥクを讃えたとされる。
●「エヌマ・エリシュ」
マルドゥクがティアマトの差し向けた軍勢を倒し、王権を得るまでの物語。バビロニアがメソポタミア全域の実権を握った時期に作られたとされる。
この神話ではエンキの息子となっているが、元々エンキの息子だったのはアサルルヒだったとされる。
エヌマ・エリシュの最後にマルドゥクの名として挙げられるものは以下の50である。(エンビルルやムンムなど、他の神の名も入っている)
(1)マルドゥク 太陽の息子、父祖アヌがそう名づけたもの
(2)マルッカ 一切の創造神
(3)マルトック 地の保護者、民の庇護者
(4)バラシャクシュ 激怒するもの、ひろい心をもつもの
(5)ルガルディメル・アン・キア 天地のすべての主
(6)ナリルガルディメルアンキア すべての神々の相談役
(7)アサルヒ 神々と地の守護霊
(8)ナムティラク 生かす神
(9)ナムル 神聖な神、われわれの歩みをきよめるもの
(10)アサル 耕作地の贈与者、穀物と野菜の創造者
(11)アサルアリム 会議堂で有力なもの
(12)アサルアリムヌンナ 救われるもの、彼をもうけた父の光
(13)トゥトゥ 新生の実現者
(14)ジウキンナ 軍勢の生命
(15)ジク 清浄を維持するもの
(16)アガク 純粋無雑な呪法の王、死者を蘇生させるもの
(17)トゥク 悪党どもをことごとく根こそぎにしたもの
(18)シャズ 神々の心を知っているもの
(19)ジシ 敵対者を沈黙させるもの
(20)スフリム 武器で敵をことごとく根絶するもの
(21)スフグリム 神々の申し出を聴聞するもの
(22)ザハリム 敵全体、非友好的な輩の絶滅者
(23)ザハグリム 戦いにおいて敵を討ち滅ぼしたもの
(24)エンビルル 神々にいけにえを供給するもの
(25)エパドゥン 荒野と河の増水の主
(26)グガル 神々の灌漑事業長官
(27)ヘガル 人々のために豊かな収穫を積み上げるもの
(28)シルシル ティアマトの上に山を盛り上げたもの
(29)マラハ 船頭
(30)ギル 住まいに穀物を山と積み上げるもの
(31)ギルマ 神々の絆を固く結ぶもの
(32)アギルマ いと高いもの、冠の剥奪者、悪人の監視者
(33)ズルム 所領と供物の贈与者
(34)ムンム 天と地の創始者
(35)ズルムンム 神々の中でかなうものはいない
(36)ギシュヌムンアブ 全人類の創始者、世界の製作者
(37)ルガルアブドゥブル ティアマトの悪業を粉砕し彼女の武器を除いた王
(38)パガルグェンナ すべての主の筆頭
(39)ルガルドゥマハ 神々の結びの王
(40)アラヌンナ エアの顧問
(41)ドゥムドゥグ 聖室の子
(42)ルガルランナ 神々の中で最も腕力において卓越しているもの
(43)ルガルウガ 殲滅のさなかにいっさいを戦利品として持ち去るもの
(44)イルキング キングを捕らえて連れ去ったもの
(45)キンマ すべての神々の指導者、顧問
(46)エシズクル 祈りの家にいと高く鎮座するように
(47)ギビル 武器の出来を保障するもの
(48)アッドゥ 全天を覆うもの
(49)アシャル 天命の神々を司る
(50)ネビル 木星のこと、天地の終始点をつかむもの
最後に、エアが「彼の名をエアとするがよい」と告げて、マルドゥクとエア(=エンキ)が習合させられている。また、「神々の最高神 エンリル」とも呼ばれているため、エンリルの役割も吸収したことになっている。
このほかには、父エアが呼ぶ「マリヤウト(マリ・ヤ・ウットゥ=私の息子、太陽)という別名もある。
「エヌマ・エリシュ」の中で語られるマルドゥクの容姿には「四つの耳と四つの眼」「唇が動くと炎が燃え上がる」「神々の中で最も背が高く、容姿は群を抜いていた」といったものがあり、そこはかとなくインド神話的な雰囲気をもっている。
●「バビロンの新年祭」
こちらにはさらに「アザグス、まじないをかけるもの」「ニナハド、願いを聞き入れるもの」という別名も挙げられている。
このテキストはセレウコス朝の時代のバビロンの新年祭の様子を詳しく伝えている。祭りの儀式の詳細は「古代メソポタミアの神話と儀礼/岩波書店」に載ってるので、そっちを参照。
注目は第四日目の儀式で、エ・サギラ神殿にて祭司がベールにエ・サギラ神殿への、ベールティア(ツァルパニートゥ)にバビロン市民への祝福祈願を献げ、夕方、「エヌマ・エリシュ」を朗誦する。この間、アヌの冠とエンリルの玉座には覆いがかけられるという。儀式の中で王は王冠や王笏などをいったん取り上げられ、神官による儀式のあと再び戻される。
全日程は十二日。
なお、アッシリアが台頭してくるようになると、ベール(主)の別名はアッシリアの主神アッシュルに奪われ、エ・サギラ神殿もアッシュルのものに変えられてしまう。
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【参考】
・自然と人為的秩序の神話/メソポタミア文学「エヌマ・エリシュ」
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