別名・別綴り/敬称 アンガル(大きな天)
性別/男性
守護都市/ウルク
【主な役割】
天空神、かつての最高神
【神話・資料別エピソード】
シュメール神話の最初期の最高神。ただし引退して息子のエンリルに任せており、そのエンリルがキレキャラで色々やらかしているという感じ。
ウルクの守護神としての役割はイナンナが引き継いでいる。名前は「天」を意味し、他の神々の名前の一部として使われることがある。また、「神」を意味するディンギルの文字は、一文字だけでこの神のことを意味する。
妻は天の女神ウラシュまたは地の女神キ。またはナンム。バビロニアの神話(ギルガメシュ叙事詩など)ではアントゥという女神が妻に充てられている。惑星の中では火星がアンと呼ばれる。また、オリオン座はアヌの息子であるとされる。妻エンメシャラとの間には、息子セベットゥが設定されている。
特に役割のない神ではあるが、ウルクのアヌ神殿はパルティア時代まで継続したとされる。
シンボルはエンリルのものと同じ角冠。
シュメールでの三柱神はアヌ・エンリル・エンキとなっている。
基本的に「天の神」だが、紀元前二千年紀の中期以降は冥界神としての性格も併せ持つようになり、冥界神の集合体ともされるアヌンナキや災厄をもたらす七柱の神セベットゥらを総べるものとして扱われるようになる。この役割転換とあわせて、各時代の主神の変遷や王権簒奪神話の流れを見てみると面白い。
●メソポタミアの最高神の変遷
異説もあるが、一般的には以下のように世代交代していったと考えられる。
・アン/アヌ(〜紀元前3000年前期)
・エンリル(紀元前3000年〜2000年後半)
・マルドゥク(紀元前2000年後半〜 バビロン勃興とともに台頭)
・アッシュル(紀元前1000年半ば〜 アッシリアのメソポタミア統一)
このあと出エジプトのローカル神が世界神になったりアラーの神が来たり色々するわけですが。
●「エンリル神と鶴嘴(つるはし)の創造」
アンからエンリルへの権力交替を示す神話。父である天アンと、母である地キとの結合からエンリルが誕生し、エンリルが母キを持ち去るという話。
この神話ではアンの妻は地であるキである。
●「ギルガメシュ叙事詩」
エンキドゥの登場に際して"彼はアヌの結び目のように力強い"という表現が出てくる。
●「エヌマ・エリシュ」
バビロニアの創世神話にあたるこの物語では、全天を意味するアンシャルと、全地を意味するキシャルが父と母として設定されている。つまり家系図にすると、天地(アンシャル・キシャル)→天地(アン・キ)→エンリル …と、「天地」の世代が2回繰り返されることになる。他のたいていの神話では天地はいちばん最初の代だけなので少し奇妙ではあるが、バビロニア時代からの登場とすると後付なのかもしれない。
●樹木と葦
「高き天なるアンは広い大地(キ)と交わり、英雄なる樹木と葦の種をその胎に注入した。」となっている。
アンの母がキだとすると、マザーファッカーである…どこか、ギリシャ神話のガイアとクロノスの関係を思わせる。
●医療パピルスにおける扱い
アヌはそれ自身が「天」をあらわす神のはずだが、新アッシリア時代の医療文書(呪詛文書)では「アヌが天と交わり、天が地を生み…」という呪文から始まっている。
この概念は他の医療文書の呪文でも「アヌが天と交わり、エアが地に植物をあらしめたとき…」のようにして出てくる。アッシリアでは、アヌが天と交わったことが創世の物語とされていたようだ。
●マルドゥクによるアヌの殺害神話
マルドゥクが主神扱いとなって以降の時代には、マルドゥクがアヌを殺害するというストーリーのテキストが出現するようになる。「ベール(マルドゥク)がアヌを殺害し、王権を取り上げ」「アヌを縛り彼を粉砕した」など直接的な戦闘的勝利を示すテキストになっている。アッシリア時代には、マルドゥクをアッシュルと同一視するようになるため、アッシュルがアヌを殺害することになっている。にも関わらずアヌの神殿はメソポタミア南部ではパルティア時代まで存続するので、同じメソポタミア地域でも、南北で信仰のトレンドは違っていたようだ。
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【参考】
・米屋は神の名を讃えている。(シュメール語)
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