フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第43章
Kolmasviidettä runo


 ワイナミョイネン一行が霧と妖怪に足止めを食らっている間に、魔女ロウヒのほうは着々と追っ手の準備を整えていました。
 戦える者はすべて戦へ行け!
 あのジジイどもを見つけ次第、八つ裂きにしてくれるわ!

 まさに総力戦です。人々は今や完全に魔女のしもべ。ロウヒはビッグマザーなのです。すげー。
 遅れを取り戻そうと、カレワラへ船を走らせるワイナミョイネンも、背後から迫るただならぬフンイキに気が付いていました。
 「おい、レンミンカイネン。お前、若いからちょっと帆の先行って後ろ見てこい。」
言われて、レンミンカイネンが帆の先に上ります。
 「どうじゃー? 何か来とらんか。」
 「ん、別に。ただ遠くに雲があるかなってカンジだけど。」
 「阿呆、もっとよぅ見んかい! もっと…なんか…こう、わいのおヒゲにピクピク来よるモンがあるんじゃい!」
だったら自分で確かめろよ、とか、いえません。舌打ちしながら、レンミンカイネンは再度、視力5.0の目で目視します。
 「どうじゃー。まだ雲に見えるか?」
 「んん、いや、今度は島になってるなぁ。木が生えて、鳥が止まってら。」
 もう、いい加減このへんで気がつけよ、と思うでしょう。そら雲が島になったりしませんって。だんだん近づいて来てるんです。追っ手ですよ。
 「もっとよう見んか! で、何が見える。」
 「んー…ええと…っ、あああ?!」
 「どうした!」
 「お、追っ手だ! 船だ! 魔女ロウヒが追っかけて来る!!」
はいはい。読者は前のページからもう分かってましたけどね…。

 この知らせを受けて船上は大パニック。
 「か、艦長…!」 「愚か者めが。うろたえるな、全員、戦闘配置につけ! メインエンジン、フルオープン! 出力最大、この海域を離脱するッ」
嗚呼…「宇宙」と書いて「そら」と読み、宇宙船を「ふね」と呼ぶ、矛盾なりし時代のトキメキが今ふたたび。(それはお前だけだろう)

 ワイナミョイネンの指揮のもと、船は必死に逃げようとしますが、ポホヨラの軍勢との距離は縮まるばかり。
 ジジイ、舌打ちしてアイテム袋を取り出します。
 「ちっ。やはり、ここはわしがやるしかないのぅ」
そんなもんどうするんだ、って思ったら、何と、手にしたものは火打石。それを海に投げ込んで、呪文を唱えます。
 「浅瀬になれ!」
するとどうでしょう。火打石の落ちたところに、さっきまでは無かった浅瀬が出現! すげぇ、ジジイ! すげぇよ。

 追っかけて来たポホヨラの船は浅瀬にズガン! と乗り上げ、身動きとれなくなってしまいました。
 「敵3号艦、大破! 4号艦、5号艦…次々と戦線を離脱していきます!」
 「敵、次々と浅瀬に座礁! 艦長…!」 
 「うむ。このままカレワラまで突っ切るのじゃ。急げ!」
 「了解<ラジャー>!」
…もうええちゅーに(笑)

 でも、これで引き下がるロウヒではありません。砕けた船の残骸の下からよろよろと這い出て来て、すさまじい形相で、逃げてゆくワイナミョイネンの船を睨みつけます。
 「おのれ…。このままでは済まさぬぞえ。こうなったら…。」
使い物にならなくなった船と兵士。それに己の肉体を用いて、彼女は恐るべき魔法を発動させます。
 自らを媒体とした、変形の技。ポホヤの大鷲の誕生です。

 「逃〜が〜す〜ものかぁぁぁぁ!!!」

 巨体の上に兵士たちを乗せ、自ら飛行船艦と貸した大鷲/ロウヒは、力強い羽ばたきとともに空へ舞い上がりました。顔だけは元の老婆のまま。ってことは…湯バード?(By「千と千尋の神隠し」)

 はっ、として振り返ったワイナミョイネンは波蹴立てて海上スレスレを飛んでくる、おそるべき黒い巨体に気がついて愕然とした!
 「なっ、なんじゃありゃー…」
コワイ!
かなりコワイぞ、コレは!!
 「くっ…か、舵を…」 「遅いわぁぁぁ!」

 どっこーん!!

受けて立つ凛々しいジジィの図(ウソです)


 大鷲が帆の先に止まった衝撃で、船は大きく揺れ、転覆寸前。泳げないイルマリネンは大慌て。もう泣きださんばかり、それこそ必死で天の神に祈ります。
 「おお、ウッコ! 守りたまえ払いたまえ清めたまえ。っていうか泳げないです〜! 俺はまだ死にたくないんだぁぁ。たーすーけーてぇぇぇ」
おいおい。

 ワイナミョイネンは、キッと帆の先を見上げ、堂々とした口っぷりでロウヒに語りかけます。
 「このまま争えば、どちらもタダだは済まんぞい。どうだロウヒよ。このサンポを、わしらと分け合う気は、無いかの。」
和平の申し出です! ところが、魔女はすでにキレており、このような交渉には鼻を鳴らしただけです。
 「残念だけど、あたしゃアンタたちなんかに一歩も譲る気はないよ。この、死にぞこないの老いぼれジジイ!」
 「なんじゃと?!」
ジイさんとバアさんの口ゲンカなんか聞いてられんってカンジですが、双方傑出した魔法使いだけにシャレになんない。

 と、そこへ、忘れ去られていたダークホース・レンミンカイネンが、隙を奪って切りつけました!
 「どりゃああ!」
さっすが魔法戦士。このお2人の威圧的バトルフィールドの前にもビクともしない。単に、無知なだけかもしれないけど。
 ワイナミョイネンに気をとられていた魔女ロウヒは、はからずも足に傷を負い、よろめきます。
 「お、お前…。戦に行かぬと己の母に誓ったはず。(※そんなん本人はおろか読者も覚えとらん。)なぜここにいる!」
 「ふん…そんなこと、あんたの知ったこっちゃない」
ロウヒの注意が逸れ、バランスを崩したお陰で翼の上の兵士たちも戦うことが出来ません。

 今がチャンス!

 ワイナミョイネン、船の材木をひっぺがして、魔女ロウヒに殴りかかったぁ!
 「うををををー!」
ジジイ、ハッスル! ジジイ、凄い! 若いぞジジイ!♪ やはりレンミンカイネンに対抗してみたかったのか?!
 ふいを食らった魔女ロウヒの大鷲は、両足ともに傷つけられて、船の帆から海へ向かって転落していきます。けれど、魔女の執念はこの程度のものではありません。
 「おのれ…おのれ! このままでは…道連れに…!」
足のカギ爪に引っ掛けたサンポを、我が身もろともに、海へ投じてしまったのです!


 大鷲とともに、恵みをもたらす魔法の道具・サンポも、海の藻屑となってしまいました。
 けれど、船がもうカレワラに近いところまで戻って来ていたため、壊れたサンポのカケラはカレワラの岸辺に流れ着き、そこに大いなる恵みをもたらしたと言います。藻屑であっても大いなる力秘めたるのがサンポというもの。
 「うむ、うむ。まぁこれで良しとするか。わしらの土地もイイ感じにマナレベル(ヲイ)が上がったわい。ふぉっふぉっふぉ」
ワイナミョイネンはご満悦。面白くないのは魔女ロウヒ。
 そうですよ、海に落ちたくらいじゃ死にません。船や手勢、何よりサンポを失ったロウヒの怒りは凄まじく、必ずや復讐してくれるわと固く誓うのでありました。
 ここに、カレワラとポホヨラを巡る全面戦争は勃発。
 物語は、そう簡単には終わらない…。


 なお、壊れたサンポのお陰でいちばん良いメを見たのは、カケラが沈んできた海底の皆さんでした。このときサンポの欠片を手に入れたために、海は豊かになったのだとか。
 海だけに、いわば漁夫の利で富を得たわけです。いやー、争わずにイロイロ手に入って、羨ましい限りですね。


{この章での名文句☆}

そこで鍛冶のイルマリネンは神に向かってひれ伏した、
創造主(つくりぬし)を伏し拝んだ。


役に立ってねぇー! イルマリネーン!
戦ってるジジイと若者の側で、ガタガタ震えながら祈ってただけですかい。ダメじゃん。


ページ画像:マルック・ラークソ「サンポの防衛―アクセリ・ガレン・カッレラの作品による」(1999)
見た瞬間バカウケ。ただし著作権切れてないので勝手に使ってはいけないものと思われ。


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