フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第33章
Kolmasneljättä runo


 こうして、クッレルボはイルマリネン宅の下働きとなり、牛の放牧に出かけることとなりました。
 彼は、自分がこんな卑しい仕事に就かされたことに悪態をつき、貧しい弁当しか寄越さなかったイルマリネンの妻の悪口を呟きます。
 思えば、この時の彼の言葉はすでに、単なる呟きではなく呪詛になっていたのかもしれません。

 太陽は頭上高く輝き、昼食の時間となります。
 イルマリネンの妻は家で優雅に贅沢な食事を採っていますが、クッレルボはパンが一つだけ。彼は、中に何が仕込まれているのかも知らずナイフを取り出してパンを切り分けようとします。
 もちろん、中にあるのは石ですから、簡単に切れるはずもありません。それどころか、彼のバカ力できりつけたナイフのほうが真っ二つに折れてしまいます。

 ところで、このナイフは、クッレルボが父から受け継いだたった一つの遺産でした。
 …原材料となった伝承では単にクッレルボがキレたことになっていますが、リョンロット氏はそういう展開が気に食わなかったらしく、「父の形見を壊されて悲しんだから、凶行に及んだ」と、クッレルボを弁護するような設定を後から付け加えてしまったのです。
 その設定に従えば、クッレルボの悲しみは深く、一見、優しい感情に乏しいように見えるこの少年に最低限の人間らしさはあることになります。
 けれど優しさや身内に対する感情は、裏返せば激しい怒りや憎しみや、暗い感情にも直結しています。人間らしさとは、常に光と闇の両面を持つもの。
 イルマリネンの妻のいたずらのせいで形見を壊されたクッレルボは、激情のままに殺意を抱きます。
 任されていた牛を狼や熊の餌食にし、逆に熊や狼を魔法で牛に変え、彼は、イルマリネンの家へと戻って来ました。
 一方で、何も気付かないイルマリネンの妻は、牛が戻って来たと思い込み、獣たちの化けた牛の側へとかがみ込みます。


 その、気を緩めた一瞬が、命取りとなってしまいました。
 熊や狼に無惨に引きちぎられ、噛み砕かれた彼女は、息も絶え絶えに命乞いをしますが、クッレルボは許しません。それどころか、「死ぬなら死ねばいい」と、冷ややかな対応。イルマリネンの妻は、至高の神ウッコにクッレルボを殺させようと呪文を唱えますが、力足りず、クッレルボの返し呪文によって相殺されます。

 こうして、力尽きた彼女はそこで息絶え、女主人を殺害したクッレルボの流離い旅が始まります。
 イルマリネンの悲しみや、いかに。そして…クッレルボの行く手に待ち受けるものは…?



{この章での名文句☆}

お前は死ぬなら死ねばいい、消えるなら、消えるがいい!
死人には地中に場所がある、消え去る人には墓の中に、
強大な人でも寝るところが、奢った人でも休む場所が。


これほど完璧にクッレルボの冷酷さを表す行は無いですね。
息絶えようとするイルマリネンの妻を見下ろして、呟くシーン。
…それにしても、クッレルボ登場サイクルはシリアスすぎて、あまりツッコミの入れようがない…。



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