第29章
Yhdeksänkolmatta runo
母に教えられた辺境の隠れ家、「サーリ島」へ向かうため、食料を積み込んで船出をしたレンミンカイネン。自ら蒔いた種とは言え、戦争引き起こしといて逃げるたぁいい度胸です。
島についた彼を出迎えたのは、島に住む娘たち。…なんだか嫌な予感がしますね。女ばかりって…。
女性たちに対し、レンミンカイネンはまず、船をつける場所があるかどうかをたずね、次に、自分のように、戦から逃れて来た者が隠れる場所があるかどうかを訪ねます。
さりげなく自分の身の上を明かして同情を引くあたり、さすが手馴れたものです。
そして最後に、自分が住める場所があるかどうかを訊ねるのですが、これはNG。島の土地は、島の者が区画を分けて所有しているので、土地はやれない、と、女性たち。
ならばとレンミンカイネン。自分が歌を歌える場所はあるか? と聞きました。
歌ですよ、歌。
そんなもんどこでだって歌えますから、もちろん、彼女たちはあるよと答えました。しかしカレワラの世界では、歌=魔法です。レンミンカイネンは、ここぞとばかり、歌って金のどんぐりのなる木や黄金のカッコウなど、綺麗で珍しいものをどんどん召喚します。
実際にこんなモンが出せたら、それだけで大金持ちになれるところですから、たぶん幻影なのでしょうが…。
驚き、感心している娘たちは、もはやレンミンカイネンの手中に落ちたも同然。「もしあなたの家に住まわせてくれたなら、あなたのために歌いましょう。」―――こうして彼は、楽々と居候する場所を得たのでした。
まさに「芸は身を助ける」。
こうしてレンミンカイネンの「贅沢三昧ハーレム」な暮らしが始まります。も〜お、そりゃスゴイっすよ。夜這いしまくり〜の貢がせまくり〜の、食って呑んでやりたい放題。
「百人全部で三人といない、手をつけなかった小娘は、共に寝なかった未亡人は。」
とりあえず既婚夫人には手を出してないみたいですが、それにしたってねぇ…。アンタ。何て暮らしをしているんですか。無茶しすぎよ、無茶。
ですが!
島の中にたった1人、レンミンカイネンが手をつけていない女性がいました。醜い年増の娘、…ってことは、誰も嫁に貰いたがらなかった不器量なオールド・ミスですな。
3年が過ぎ、レンミンカイネンがそろそろ家に戻ろっかなー、と思って仕度していたところへ、彼女が登場。
「ねえ…、どうしてあたしのところへは来てくれないのん?」
いきなり自分からアプローチを仕掛けてます。でも、レンミンカイネンは無視。
娘はあっさりキレてしまいました。
「何よ。私のことを想ってくれないのなら、あんたの船を沈めてやるわよ。ただじゃおかないから! …いい? 無事に済みたいのなら、夜明け前にあたしのところへ来て頂戴。」
…とか、言われてんのにレンミンカイネン、思いっきり寝坊しちゃってるし。
しょうがないので夜が明けてから、村のその娘の家を訪ねようとして、彼は気が付きます。村の様子がなんだかおかしい。家の中で、男たちは武器を構えて、自分の首を狙っている…。
あの娘がなにやら村人たちを焚きつけたようです。
「チッ。こいつはやべぇな。」
とっととこんな島おさらばしてしまおう、とばかり、自分の船のところに戻ってみれば、船は焼かれて灰になってしまっています。どうやら、本気で彼を島から出さないつもりらしい。
レンミンカイネンは大急ぎで脱出のための船をつくりはじめます。しかしこの作業は彼にとっては憂鬱なものであったらしく、夜になると、また女のコのところへ遊びに行きたくて仕方がなかったご様子。
命かかってんだから、んなことしてる場合じゃないんですけどね。
突貫工事で船を仕上げて、いざ出発。
見送りに来た島の娘たち(男たちとは裏腹に、女性たちは彼の味方のままだったらしい)は、ぼろぼろ涙を零して引き止めようとしています。
「どうして行ってしまうの? この島の女が美人じゃないから? それとも、あたしたちが何かしたの?」
…本気で惚れたんですね。「遊びでもいいの、あなたがこにいてくれたら」? ううむ。レンミンカイネン、とことん罪つくりな男です。
レンミンカイネンは答えて言います。
「いや、別に。故郷の女が恋しくなったから、ただそれだけ。」
なんて、ズバっとは言っていないのですが、意訳するとこんなカンジ。「まーオレがその気になれば、百人だって千人だってモノに出来るからさ、こんなちっぽけな島にいつまでもいられないんだよ。」…とか。
あんた命の危険はどうしたんだ。
戦いから逃れるために、この島に来たんじゃなかったんですか…?
もっとも、口では強きなこと言うわりに、旅たちの時はレンミンカイネン自身もちょっと涙を流したりしてますね。それなりの未練はあった、ってことでしょうか。
母に言われた、3年の時は、女性たちとの楽しい暮らしで飛ぶように過ぎていました。
懐かしい故郷へと戻って来た彼が見たものは、変わり果てた荒地と、自分の家のあった場所。そこには、焼けた跡だけが残されていました。
飛んでいた鳥に問えば、鳥は、ここで戦いが起こったことを教えてくれます。おそらく、ポホヨラの軍勢が攻め込んできたのでしょう。レンミンカイネンは母親が死んでしまったと打ちひしがれ、必ず復讐しようと決意します。
でも、ちょっと待てよ…。
あんた、奥さんのキュッリッキと妹のことは、心配してやんないんですか…?
奥さんとの関係はもう冷めていたとしても、妹のことくらいは気にかけてやってもいいんじゃない? まぁ戦争の常として、2人はポホヨラの軍勢に略奪されて行ったのでしょうが…。
やっぱマザコン?^^;
これで本当にお母さんが死んでたら彼の人生も変わってたかもしれないのですが、やはり母は強し。隠れて生き延びていました。
「お、おふくろ! 生きていたのか!」
「ああ、生きてたさ。連中がお前を探して攻め込んで来たが、なんとか逃げられたんだよ。」
さすがです。母。
前の家の近くに隠れ家をつくって住んでおりました。
「でも何もかも無くしちまったし、家もなくなっちまってねえ。はあ。」
「おふくろ…心配すんな。家なら、また新しいのを建てりゃいいじゃねえか! くっそー、それにしてもムカつくなポホヨラの連中! 絶対仕返ししてやる!」
懲りて無い。
懲りてないねぇ、この人は…。
「ところで息子よ。サーリはどうだったね。」
「ああ、楽しかったぜ。メシは美味いし、景色も良かったな。けど、ムカつくのは村の連中なんだよなあ。あいつら、オレは女どもを可愛がってやったっつーのに、いきなりキレ出してよぉ。オレが夜這いしすぎるっつーんだぜ。とんでもねぇよ、なあ?」
「……。」
とんでもないのはお前だよ、とは、今さら言わない母なのであった。
教育方針、ちょっと間違えましたかね。お母さん。
{この章での名文句☆}
頭をどちらに回しても、口は口付けを求められ、
手をどちらへ伸ばしても、手は握り締められた。
モテモテのウハウハですがな、レンミンカイネン。
お前は本当に逃亡者なのか。