ブリタニア列王史-Historia Regum Britanniae

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アーサー王伝説部分のあらすじ


「ブリタニア列王史」中、アーサー王に直接関係するのは、全12巻のうち9巻から11巻の途中までである。
その父ウーテルの時代が8巻途中から。あらすじはウーテルの代から開始する。
ジェフリーの時代に既に存在したエピソードの原型が何で、何処からがそれ以降の時代に作られた伝説なのかをじっくり確認してほしい。


●ウーテルの即位
ウーテルは三人兄弟の末っ子。父の死後、聖職者だった長男が跡を継ぐが無能で、ヘンギストゥスという男に王冠を奪われる。次男アウレリウスが成人後、ヘンギストゥスを倒して王冠を取り戻すが毒殺されてしまう。続いて三男ウーテルの即位となる。
即位に際して空を横切った竜のような流星にちなみ、戴冠の際に二つ名「ペンドラゴン(ドラゴンを統べるもの/ドラゴンのあたま)」を得て、以降ウーテル・ペンドラゴンと呼ばれるようになる。

ウーテル即位後、ヘンギストゥスの息子たちがサクソン人と結んで再び攻めてくる。ウーテルは出陣し、逆賊の息子たちをとらえ、サクソン人を追い払う。
次の復活祭、祝いの宴がロンドニアで開かれ、各地から諸侯たちが訪れたが、その中にコルヌビア公ゴルロイスの妻で美貌のインゲルナ(イグレーヌ)もいた。ウーテルはインゲルナに一目惚れして何とか手に入れたいと思うようになるが、これに気が付いた夫のゴルロイスは宮廷を辞し、自分の領土に籠ってしまう。怒ったウーテルは軍を率いて出陣し、ゴルロイスの城を包囲する。ゴルロイスは妻インゲルナは難攻不落の砦ティンタゴルに隠すが、ウーテルの相談を受けたマーリンは魔法の薬でウーテルの姿をゴルロイスに変えることで砦に侵入させる。ゴルロイスはウーテルが砦に侵入したその夜に、戦いのさなかに戦死してしまうが、一方でウーテルはインゲルナと思いを遂げ、アルトゥールス(アーサー)を懐妊させる。インゲルナは夫の死後、ウーテルと再婚し、もう一人、娘アンナをもうけることになる。アンナはのちにロト王と結婚し、二人の息子、グワルグワヌス(ガウェイン)、モードゥレドゥス(モルドレッド)をもうけることになる。

やがて時が流れ、ウーテルは病に苦しむようになっていた。その頃、捕えられ監禁されていたヘンギストゥスの息子たちが逃亡を図り、ゲルマニアから敵を引き連れて戻ってくるという知らせが入った。しかし迎え撃つブリトン人側は足並みがそろわず、大敗を喫してしまう。ウーテルは病身をおして戦場に出、なんとか勝利を収めるが、直後、毒の投げ込まれた泉の水を飲んで死に至る。

●アルトゥールスの即位
父王の死後、アルトゥールスは15歳で戴冠する。戴冠後はすぐに父のやり残したサクソン人討伐にむかい、これを撃退する。さらにピクト人やスコット人(ブリテン島の北方に住んでいた)も追いやり、島に秩序を回復させる。そして、領地を親族に分け与えたのち、ローマ貴族の血を引くという美貌の姫、グエンフウァラ(グウィネヴィア)と結婚する。
次の夏、アルトゥールスはアイルランドへも出陣し、全土を征服する。次にアイスランドも征服する。スウェーデンとオークニー諸島の王たちは、これらを聞き及ぶと自ら臣下になりにやってくる。勢いに乗るアーサーは、さらにノルウェーやダキア、ガリアも征服し、全ヨーロッパの王になりたいと願うようになる。

しかしローマの領地を侵犯したことで、ローマ皇帝ルキウス・ヒベルスは面白くない。使者を仕立て、かつてブリトン人の祖先たちがしていたようにローマに朝貢せよと告げてくる。アルトゥールスは逆にローマを倒そうと決め、無謀にも出兵する。
途中、巨人を倒したりしながらローマ領内深く進軍していくアルシゥールスの軍勢は、時に勝利し、時に大きな被害を出しながら、ついにローマ皇帝をも倒し、勝利するのである。この遠征では、献酌侍従のベドウェルス(ベディウェア)、執事のカイウス(ケイ)が死亡している。

だが栄光は長くは続かない。戦っている間、故国では甥モードゥレドゥスが戴冠し、さらに王妃グウェンフウァラも夫を裏切ってモードゥレドゥスと婚姻を結んだという。アルトゥールスは急ぎ取って返したが、モードゥレドゥス側もかつてアルトゥールスによって追い払われたピクト人やスコット人などの軍勢を引き連れている。激しい戦いの中で、甥のグワルグワヌスも遂に倒れる。裏切り者の王妃グウェンフウァラは逃げて尼僧院に入る。戦いは佳境に入り、ついにアルトゥールスはモードゥレドゥスを追い詰め倒すことに成功するが、自らも深い傷を負い、傷を治すためにアヴァロンの島へと運ばれていったという。
これが西暦542年のことであった、とジェフリーは書いている。


★アンブロシウス・アウレリアヌスについて
ウーテルの兄とされているこの人物は、ジェフリーより前、ギルダスの著述に登場する「最後のローマ人」と呼ばれる存在で、歴史的に実在した可能性の高い人物である。もともとアーサー王伝説とは関係ないが、ジェフリーはこの人物を家系に組み込むことでアーサー王の来歴の確かさと実在の証拠にしようとしたようだ。

★アーサー誕生の経緯について
ウーテルが姿を変えてイグレーヌのもとへ通うという話の骨子は既に存在するが、父の死後養子に出されるとか、王位継承にあたって剣を抜く必要があった、などのエピソードはまだ存在しない。

★モードゥレドゥスについて
モルドレッドをアーサーの「甥」にしたのは、ジェフリーが最初である。初出は、アーサー王に関するもっとも古い文献資料とされる「ウェールズ年代記」で、その中に「アーサーがメドラウトとともにカムランで戦死した」という記述がある。しかしこの記述だけだと、二人が敵同士だったのか、味方同士だったのかも不明である。もし、ここでジェフリーが別の設定を採用していたなら、二人は後世で、親友同士、あるいは兄弟同士といった別の設定で知られるようになっていたかもしれない。ちなみに、この「ブリタニア列王史」の段階では、モルドレットはまだアーサーの隠し子ではなく、妹アンナとロト王の実子とされている。

★「円卓の騎士」について
円卓という概念はまだ存在しないのだが、すでに何人か、のちの伝説でもアーサー王の家臣として登場する重要な名前が見受けられる。ベディウェア、カイ、ガウェイン。そして、要約には登場していないが最後まで生き残るとされるイヴァンである。「マビノギオン」に登場する仲間たちとあわせ、これらのメンバーは、古くからアーサー王伝説に取り入れられていった縁の深いキャラクターたちということが言える。




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