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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
サンフランシスコ市で同性婚証明書発行(2004年02月13日)       同性
○米カリフォルニア州サンフランシスコ市が同性カップルに対する結婚証明書の発行を開始したことをめぐり、これに反対する団体が発行の差し止めを求める仮処分を地元地裁に申請したが、13日却下された。[13日ロイター] 

発行が開始された12日以降、同市の市庁舎には同性カップルが続々と集まり、証明書を手に入れようと列をつくり、13日だけで数百の証明書が発行されたと報道されている。

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○カリフォルニア州では、2000年の住民投票で、「結婚は男女間に限る」と決められた。このため、サンフランシスコ市による同性婚の認定はカリフォルニア州法に違反する。しかし、ゲービン・ニューソム新市長は、州民の権利の平等を定める法律に基づき、同性愛者にも婚姻の権利があるとして、同性婚の認定に踏み切ったことが発端。米国で同性カップルに婚姻証明書を発行するのはサンフランシスコ市が初めてとのこと。

○日本の法制度では、このような事態は全く想定されていない。同性婚を認める法律がないのはもちろん、これを禁止する法律すら存在しない。憲法自体が24条で、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」するという表現で、当然の前提として「男女」のみを婚姻の対象としている。日本には「戸籍」制度があるが、両性の届出のみを受け付ける形式になっており、そもそも「同性婚」などは念頭にない。少なくとも、日本には、アメリカのソドミー法のような同性愛を処罰する法律は存在していない。

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○日本には、同性婚を認めるかどうかに関する直接の判例は見当たらないが、平成11年(1999年)1月7日の佐賀家庭裁判所審判で、参考になる判断が示されている。(エメリタ事件)
これは、フィリピン人「ロムアルデス・マリア・エメリタ」と、フィリピン国の方式により婚姻した日本人男Aについて、日本で婚姻の届出がされた後、フィリピン人「エメリタ」が、実は男であったことが判明し、Aから「戸籍訂正許可の申立て」がされた事案において、家庭裁判所がそれを認めたものである。(家庭裁判月報51巻6号71頁)

その判示によると、
「婚姻の実質的成立要件は、法例13条1項により各当事者の本国法によるところ、申立人Aの本国法である日本法によれば、男性同士ないし女性同士の同性婚は、男女間における婚姻的共同生活に入る意思、すなわち婚姻意思を欠く無効なものと解すべきであり、申立人Aと婚姻したエメリタの本国法であるフィリピン家族法によれば婚姻の合意を欠き無効になるものと解される。」

「認定事実によれば、申立人Aの戸籍中、前記婚姻事項は、エメリタの偽造旅券に基づいて作成されたフィリピン国の婚姻証書の提出により記載されたものであること、したがって、前記の報告的婚姻届出により、戸籍に錯誤ないし法律上許されない戸籍記載がされたことが明らかである。そして,このように、明らかに錯誤ないし法律上許されない戸籍記載がされている場合、それが重大な身分事項に関するものであっても、その真実の身分関係につき当事者間において明白で争いがなく,これを裏付ける客観的な証拠があるときは、ことさらその真実の身分関係について確定裁判を経るまでもなく、直ちに戸籍法113条にしたがい戸籍の訂正をすることができるものと解するのが相当である。」という。

○ちなみに、関心のある方のために、なぜこんなことになったかを説明すると、Aは、平成7年ころ、福岡市内のフィリピンパブで働いていたフィリピン国籍のエメリタと知り合い、まもなく親密に交際するようになった。その後Aは、エメリタから求婚されたこともあって、平成8年、フィリピン国内でエメリタの両親の立ち会いのもと、フィリピン国の方式で婚姻した。そしてAは,その月に役場に婚姻の届出をし、その結果、Aの本籍地に新戸籍が編成された。その後、Aはエメリタと同居していたが、平成9年に、エメリタの入国査証の更新のために福岡入国管理局にエメリタと共に赴いたところ、エメリタが偽造旅券を使用して日本に入国したこと、そして真正の旅券では男性になっていることを告げられた。その後、役場からAに対して、エメリタとの婚姻届出が不法である旨の戸籍法24条1項による通知がなされ、Aが本件戸籍訂正の申立てをしたものである。なお、エメリタは、そのころ、入国管理局職員に身柄を拘束されてフィリピンに強制送還された。ちなみに、エメリタ本人は、入国管理局の事情聴取の際には、みずから、自分が女性ではなく男性であることを認めたとのことである。

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○憲法第24条 
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

○民法
第2章 婚姻 
第1節 婚姻の成立 (第731条〜第741条)
第1款 婚姻ノ要件
第731条 男は、満18歳に、女は、満16歳にならなければ、婚姻をすることができない。

○法例
第13条 婚姻成立ノ要件ハ各当事者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム。

○戸籍法
第16条 婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
2 前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。

第24条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、市町村長は、遅滞なく届出人又は届出事件の本人にその旨を通知しなければならない。

第113条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

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○アメリカでは、かなり事情が異なり、真剣に議論がされている。
そのアメリカでも、かつては全州において、同性愛行為は、公になされるか否かや、同意の有無などに関わらず、いずれも犯罪とするソドミー法が採用され、連邦最高栽判所は現在でもこの法を支持していた。クリントン大統領時代の結婚防衛法(Defense of Marriage Acts)(1996年)で同性婚を禁止した。同法では、仮に同性婚を認めている州で婚姻をしたとしても、これを認めていない他州に移った場合は、婚姻は無効となるとした。同法によって配偶者資格は認められず、連邦法下の社会保障などを受けることは認められない。 
 
ところが、2000年にバーモント州で同性婚が認められた。この時の「結婚」に該当する呼称は「シビルユニオン」という。これは、男女の結婚と区別して、「市民契約」とか、「合同生活」などと訳されている。別れる時は「離婚」ではなく、解消という意味の「dissolution」と呼ばれている。シビル・ユニオン方式は、1999年にフランスで成立した例をもとにしたもので、同性のカップルにも異性婚と同じように、年金や遺産の相続、税制上の優遇などを認める。

さらに、マサチューセッツ州の同性カップル7組が、自分たちの「結婚」を認めない州当局の判断を憲法違反として訴えた裁判で、マサチューセッツ州最高裁が、2003年11月18日、「異性間だけに結婚を認めるのは州憲法の男女平等の規定に反する」との判決を下した。その上、この判決では、同時に、180日以内に7組に対する適切な解決策とるように州当局に求めた。

これに対しては、マサチューセッツ州議会が、同性間の結婚を認めない代わりにそれと同等の権利と義務を付与するシビルユニオン制度を設ける法案を作り、その合憲性を州最高裁に問い合わせた。しかし、州最高裁からは、結婚を認めなければ違憲であるとの回答が出された。判決の意味するのは結婚した場合と同じ権限を保障するシビル・ユニオン方式ではなく、異性間の場合とまったく同様に「結婚」を認めることであり、同性間と異性間とで別の制度を設けること自体が差別であるという。

このままいけば、この判決によって、2004年5月半ばまでには、同性婚が認められることになる。 

このほかにも、同性のカップルに対して、ドメスティック・パートナーとして何らかの権利を付与している州がある。

○このようなアメリカでは、ブッシュ大統領が2004年2月4日に声明を出し、「結婚の神聖さを守るには憲法上の手続きしかない」と述べた。大統領は連邦憲法を改正して同性婚を禁止する方針を近く打ち出す方針という。

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○これらが、日本の法制度に何らかの影響を与えるのだろうか。
私個人の感覚では、全く理解がしにくい点ではあるが、憲法13条の幸福追求権を持ち出すまでもなく、同姓カップルに対しても、個人的自由としての配慮を考えていく時代が来るかもしれない。

憲法24条が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と宣言したのは、戦前の家制度下の結婚が、当事者である男女の合意など考慮せず、場合によっては合意抜きに、家制度の存続という封建的価値のみで成立していたことを否定するためであった。男女平等、夫婦の権利・義務の平等、個人の尊重をこそ婚姻の原則を謳いあげたものである。そのことからすると、必ずしも同条は同性婚を否定するものではない、という主張も存在している。
さらに、憲法13条で保障される自己決定権には、同性パートナーと婚姻する権利を認める根拠になるという説もある。

世界的にも同性婚を認める方向にある。個人の多様性が認められている今、家族のあり方も多様であってよいとして、日本法自体の解釈も、今後は論争される余地があるともいえる。

憲法が認める民主主義は、少数者に対する寛容を基礎におく。このことからして、同性愛者に対して、罰則でこれを積極的に抑圧することは、社会の少数者に対する人権侵害となろう。しかし、積極的にその婚姻を認めたり、そうでなくとも夫婦と同様の保護を与える必要まであるか。これが議論のスタートとなるのではないか。

○憲法13条
(幸福追求権)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
                                            弁護士 三木秀夫

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