ニュース六法(倉庫)
2009年11月までの保管庫
ニュースから見る法律
三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
なお、内容についての法的責任は負いかねます。引用は自由にして頂いても構いません
が必ず。当サイトの表示をお願いいたします。引用表示なき無断転載はお断りいたします。

【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
西武鉄道株の大騒動(2004年10月22日) 上場廃止基準/インサイダー取引 
○堤義明氏辞任 西武鉄道グループの全役職退く〜保有株を大量訂正
西武鉄道グループのコクドの堤義明会長(70)は13日、東京都内で記者会見し、コクドとグループ会社の全役職を辞任し、経営の第一線から身を引くことを明らかにした。コクドが筆頭株主になっている西武鉄道の株式保有比率を有価証券報告書に過小に記載していた事実を明らかにし、責任を取った。プロ野球、西武ライオンズのオーナー職も日本シリーズが終了した時点で辞任、日本オリンピック委員会(JOC)の名誉会長も退く意向だ。(毎日新聞10月14日)

○西武鉄道株の買い戻し要求
西武鉄道が筆頭株主コクドの持ち株比率を有価証券報告書に過少記載していた問題で、三菱電機と小田急電鉄は22日、コクドに対し同社から購入した西武株の買い戻しを請求したことを明らかにした。すでに明らかになっているワコールと合わせ3社が買い戻しを請求したことで、西武株の購入企業の間で同様の動きが広がりそうだ。同問題で西武株の購入が判明したのは22日までに33社。 (日経新聞10月23日)

@@@@@@@@@@

○今回の一連の西武鉄道株事件は、にわかには信じがたいほどの大事件である。

今後、さまざまな方面で大きな展開があろう。当面浮かんでくる騒動は、西武鉄道の上場廃止の行方、インサイダー問題、西武鉄道株を購入させられた企業からの買い戻し請求などであろう。さらに、堤オーナー退任後の西武ライオンズの今後が焦点となってくるのではないか。

○西部鉄道の出した報告書(10月16日付「有価証券報告書等の訂正について」)によると、2000年(平成12年)3月期以降の有価証券報告書について、下記のとおり訂正する旨を関東財務局に届け出たということである。その内容とは、西武鉄道の2004年3月期の株式保有状況は、コクドが43.16%、コクドの子会社のプリンスホテルが0.98%と有価証券報告書などに記載していたが、実際にはコクドに約1100人分、プリンスに約100人分の個人名義による株式保有があり、保有比率をコクドが64.83%、プリンスを4.20%に訂正したというものである。その結果、西武鉄道の上位株主10社(少数特定者)は63.68%からに上昇し、コクドを従来の「その他関係会社」から「親会社」に変更となった。

○これが、なぜ問題になるかといえば、西武鉄道が上場している東京証券取引所の上場基準では、「少数特定者の持ち株比率が80%を超えた状態が1年以上続いた場合」は、上場廃止となるとされているからである。

今回の報告書訂正は、西武鉄道の少数特定者の持ち株比率が4年前から88.57%の状態が続いていたということを公表したものであり、つまり、西武鉄道は、本来は上場廃止になって当然の状態であったことになるからである。しかも、堤会長は「30年程度はこの状態が続いていたと思う」との発言が報道されており、上場基準違反が驚くほど長期間続いていたことになる。

この発表を受け、東京証券取引所は10月13日付で、投資家の注意を喚起するため同社株を監理ポストに割り当てることを決めた。

@@@@@@@@@@

○株式の上場とは
法律用語で言うところの「上場」とは、証券取引所または商品取引所において、売買取引の客体としての適格性を認定する行為をいい、証券については、証券取引法110条に規定がある。証券取引所では、この認定基準を「上場基準」として定めている。

上場基準が満たされていれば、新規に上場を希望する会社は証券取引所に上場することができる。このように株式を不特定多数の人が自由に売買できるようにすることを株式の公開という。

上場株券には内国株券と外国株券があり、内国株券は市場第一部銘柄と市場第二部銘柄に区分されている。またこのほか、新興企業を対象とする新市場「マザーズ」に上場する銘柄もある。

○指定替えと上場廃止
東京、大阪、名古屋の3つの証券取引所では、マザーズ銘柄を除く新規上場内国株券は、原則として市場第二部銘柄に指定されるが、特に高い流動性が見込まれる銘柄については、新規上場申請者からの申請があった場合には上場時に市場第一部に指定することができることとしている。

第2部に上場された場合は、その後1年以上経過し、上場株式数や株主数などが一定水準以上あるなどの基準を満たせば、第一部市場に指定される。反面、第一部上場銘柄でも売買高や株主数が一定以下の水準になってしまえば第二部へ指定替えされる。この場合、1年間猶予を設け、その間に上場会社が努力してこうした水準を満たせば、第一部に残ることもできる。

また、一旦上場したからといって、その後に上場廃止基準に当たった場合は、上場廃止となる。1991年には東証二部に上場していた京三電線が少数特定者持株比率が増加したために上場廃止となった。

○上場廃止に関しては、公刊された判例で唯一「株式会社安藤鉄工所事件の仮処分事件」がある。(末尾)

@@@@@@@@@@
 
○東京証券取引所の上場廃止基準とは
東証をはじめ、各地の証券取引所は、投資家を保護するために、内国株の上場廃止基準を厳格に定めている。
東京証券取引所「株券上場廃止基準」
東京証券取引所「上場廃止基準概要」


○東京証券取引所でのおもな廃止基準は、

(1)上場株式数が4,000単位を下回った場合
(2)少数特定者(株主上位10人と役員、自社)の持ち株が80%を超えた場合
(3)株主数が一定の人数を下回った場合(基準値は上場株式数による)
(4)上場時価総額が10億円を下回った場合
(5)債務超過状態が1年を超えた場合
(6)連結財務諸表等の虚偽記載があり、影響が重大であると取引所が認めた場合
(7)監査報告書などに「不適正意見」などが記載され、影響が重大であると取引所が認めた場合
(8)最近1年の月平均売買高が10単位未満か、3カ月間売買が不成立の場合
(9)銀行取引の停止、破産・再生手続・更生手続又は整理、営業活動の停止、不適当な合併等、上場契約違反、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定保管振替機関における取扱いに係る同意の撤回、その他
等である。

今回の西武鉄道に関しては、株券上場廃止基準の規定のうち、(6)の「虚偽記載」の疑いと、(2)の少数特定者(大株主上位10人と役員、自社)の持ち株が80%を超えた点が該当しうることとなる。

○東京証券取引所は、管理ポストに割り当てたあと、主として上記の2点の調査を行い、廃止基準該当の有無を判断し、虚偽記載の影響が重大である等と認定した場合、西武鉄道の株式上場は廃止となる。

○西武鉄道は、上記のうち、(6)の「虚偽記載」の違反は明確である。この、有価証券報告書と大量保有報告書の虚偽記載については、それぞれ西武鉄道側、コクド側が、証券取引法上の刑事責任を問われる可能性がある。この場合は、いずれも意図的になされた行為であるかどうか焦点となろう。今後、その点が証券取引等監視委員会による解明がなされる。

○他方、(2)の少数特定者(大株主上位10人と役員、自社)の持ち株が80%を超えてはならないという基準については1年間の猶予期間が与えられており、その間に所有比率が基準以下に低下すればよいことになっている。

○実は今は、この80%違反は解消されているのであるから、誠に驚きである。というのは、西武グループは、有価証券報告書の記載を訂正を申請する直前の本年8月17日から9月29日の間に、約7262万株の売却を行い、西武グループの株式所有が80%を下回っているのである。

【上場廃止関連規定】
○証券取引法(昭和二十三年四月十三日法律第二十五号)
第百十二条  証券取引所は、売買のため上場した有価証券の上場を廃止しようとするときは、その上場を廃止しようとする取引所有価証券市場ごとに、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない。 
2  前項の規定にかかわらず、証券取引所は、第百十条第二項の有価証券をその売買のためその開設する取引所有価証券市場に上場している場合において、当該有価証券の上場を廃止しようとするときは、その上場を廃止しようとする取引所有価証券市場ごとに、その上場の廃止について、内閣総理大臣の承認を受けなければならない。ただし、第百十九条第一項の規定による命令に基づき上場を廃止する場合を除く。 

第百十九条  内閣総理大臣は、証券取引所が上場する有価証券の発行者がこの法律、この法律に基づく命令又は当該有価証券を上場する証券取引所の規則に違反した場合において、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、当該証券取引所に対し、取引所有価証券市場における当該有価証券の売買を停止し、又は上場を廃止することを命ずることができる。この場合においては、行政手続法第十三条第一項 の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。 

@@@@@@@@@@

○しかし、この西武グループが取った約7262万株の売却という回避策は、一方で、虚偽記載以外にも、いくつかのさらなる騒動を巻き起こしている。

(1)インサイダー取引疑惑
その一つは、この大量売却が、証券取引法で禁止されているインサイダー取引に該当するのではないかということである。

(2)詐欺疑惑
さらには、購入企業に、これら事実を伝えないで売却したのは、詐欺に該当
する可能性も強い。この場合は、民事的にも、購入企業は購入契約自体を取消でき、売買代金の返還を求めることは可能となる。

(3)独禁法違反疑惑
また、株式の購入先を見ると、西武鉄道グループへ商品を納入するなど、西武側が優位な立場にある。株価が下がるかもしれない事実を知らせて買い取ってもらった場合でも、独占禁止法で禁じられた「優越的地位の利用」にあたる可能性がある。

@@@@@@@@@@

○インサイダー取引の禁止
インサイダー取引とは、投資判断に影響を及ぼすような、会社の未公開情報を、会社関係者が知るに至った場合、その情報に基づいて、その情報を知り得ない者と、その会社の発行する株式等の証券の取引を行なうことをいう。

○証券取引法では、会社関係者は、上場会社等の業務等に関する重要事実を知った場合、その重要事実が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買その他の有償の譲渡または譲受をしてはならないとしている。(証券取引法第166条)これは、そういった情報をまだ入手していない一般投資家にとって極めてアンフェアな取引であるからである。

○上記の違反に対しては、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科される。(証券取引法第198条第19号)

○「会社関係者」には、当該上場会社等の役職員、帳簿閲覧権を有する株主、法令に基づく権限を有する者、上場会社等との契約締結者などが含まれる。(証券取引法第166条1項に細かく規定がされている。末尾条文を参照。)

○「重要事実」には、@新株発行・新株予約権・合併など会社が決定する事実や、A災害や業務遂行過程での損害・主要株主の異動や「上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実」、B売上高の変化など決算に係る事実、等が含まれる。(証券取引法第166条2項)

○なお、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者、または職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であって、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知ったものも、同様に制限を受ける。(証券取引法第166条3項)

○「公表」とは、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社により多数の者の知り得る状態に置く措置として「政令で定める措置」がとられたこと、または、当該上場会社等やその子会社が提出した法定の書類にこれらの事項が記載されている場合において、その書類が法定の方法により公衆の縦覧に供されたことをいう。(証券取引法第166条4項)

「政令で定める措置」とは、一般紙、通信社、放送局など2以上のマスコミに対して情報を公開後12時間以上経過したことをいう。(証取法施行令30条)

○西武鉄道が10月13日に記者会見で過少記載を公表した後、同社の株価は当時の半値近くまで下落したが、その公表前にグループ外の企業へ売った株は、それを購入した企業にとっては多額の含み損を生じさせており、単純計算でも総額300億円以上に達すると思われる。

○今回、コクドが住友商事・電通・三菱電機・小田急電鉄・ワコール・東映・キユーピー・大塚家具などに売却したような、市場を通さない相対取引の場合は、それ自体は一般投資家に影響を及ぼさないため、買い手もその「重要事実」を承知の上で購入していたならば、インサイダー取引には当たらない。

○しかし、報道による限りでは、購入した企業の説明では、西武鉄道の株式保有比率の問題の存在は知らされていなかったようである。これが事実ならば、コクド側が、将来値下がりする可能性を知らさずに買わせたことになり、インサイダー取引に抵触する可能性が強い。

○今後、証券取引等監視委員会が西武グループや株購入企業の関係者などへの事情聴取をした上で、コクド側が売却先企業に、過少記載していたことなど株価を左右する重要事実を説明していたかどうかを調査することとなろう。もし、過少記載やコクドの株売却が証券取引法違反にあたると判断されれば、刑事告発を視野にした犯則調査に進むものと思われる。

@@@@@@@@@@

○証券取引等監視委員会とは

1991年(平成3年)に発覚した証券会社による損失補填等の証券不祥事をきっかけにして、その翌年、証券市場を監視し不正取引を摘発するための組織として、大蔵省の付属機関として発足した。その後、組織の位置付けは何度か変遷したが、現在は、金融庁設置法のもとで、金融庁傘下の組織になっている。

株価操作やインサイダー取引など不正な証券取引を監視しており、米国の証券取引委員会(SEC)と同様の機能を持っている。金融庁、国税庁、検察庁などが人員を派遣しているほか、弁護士や公認会計士、民間の実務経験者らで構成。委員長と委員2人の下に実務を担当する事務局が置かれ、裁判所の令状を得て関係個所を家宅捜索する強制調査権限が与えられている。

証券取引等監視委員会が2004年8月27日に公表した2003年度の「証券取引等監視委員会の活動状況」をみると、その年度(平成15年7月1日〜16年6月30日)に行った犯則事件の調査・告発においては、同委員会発足以来の最高の件数であった昨年度と同様の10件の告発を行ったとのことである。

なかでも、自主規制機関である証券取引所(大阪証券取引所)自らが行った相場操縦について告発を行ったほか、虚偽の有価証券報告書等の提出について2件の告発を行っている。

@@@@@@@@@@

【インサイダー関連】
○証券取引法(昭和二十三年四月十三日法律第二十五号)

○第百六十六条  
次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又は有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引若しくは有価証券店頭デリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。 
一  当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。 
二  当該上場会社等の商法第二百九十三条ノ六第一項 に定める権利を有する株主若しくは優先出資法 に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者、商法第二百九十三条ノ八第一項 に定める権利を有する株主又は有限会社法 (昭和十三年法律第七十四号)第四十四条ノ三 に定める権利を有する社員(これらの株主、普通出資者又は社員が法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この条及び次条において同じ。)であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。) 当該権利の行使に関し知つたとき。 
三  当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者 当該権限の行使に関し知つたとき。 
四  当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)であつて、当該上場会社等の役員等以外のもの 当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知つたとき。 
五  第二号又は前号に掲げる者であつて法人であるものの役員等(その者が役員等である当該法人の他の役員等が、それぞれ第二号又は前号に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知つた場合におけるその者に限る。) その者の職務に関し知つたとき。 

2  前項に規定する業務等に関する重要事実とは、次に掲げる事実(第一号、第二号、第五号及び第六号に掲げる事実にあつては、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)をいう。 
一  当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。 
イ 株式(優先出資法 に規定する優先出資を含む。へにおいて同じ。)、新株予約権及び新株予約権付社債の発行
ロ 資本の減少
ハ 資本準備金又は利益準備金の減少
ニ 商法第二百十条 若しくは第二百十一条ノ三 の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定(当該上場会社等が外国会社である場合に限る。以下この条において同じ。)による自己の株式の取得
ホ 商法第二百十一条 の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による自己の株式の処分
ヘ 株式の分割
ト 利益若しくは剰余金の配当又は商法第二百九十三条ノ五 に定める営業年度中の金銭の分配(その一株若しくは一口当たりの額又は方法が直近の利益若しくは剰余金の配当又は金銭の分配と異なるものに限る。)
チ 株式交換
リ 株式移転
ヌ 合併
ル 会社の分割
ヲ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ワ 解散(合併による解散を除く。)
カ 新製品又は新技術の企業化
ヨ 業務上の提携その他のイからカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
二  当該上場会社等に次に掲げる事実が発生したこと。 
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ 主要株主の異動
ハ 特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実
ニ イからハまでに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
三  当該上場会社等の売上高、経常利益若しくは純利益(以下この条において「売上高等」という。)若しくは第一号トに規定する配当若しくは分配又は当該上場会社等の属する企業集団の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該上場会社等が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。 
四  前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの 
五  当該上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関が当該子会社について次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。 
イ 株式交換
ロ 株式移転
ハ 合併
ニ 会社の分割
ホ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ヘ 解散(合併による解散を除く。)
ト 新製品又は新技術の企業化
チ 業務上の提携その他のイからトまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
六  当該上場会社等の子会社に次に掲げる事実が発生したこと。 
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ イに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
七  当該上場会社等の子会社(第二条第一項第四号、第五号の二又は第六号に掲げる有価証券で証券取引所に上場されているものの発行者その他の内閣府令で定めるものに限る。)の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該子会社が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。 
八  前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの 

3  会社関係者(第一項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第一項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。 

4  第一項、第二項第一号、第三号、第五号及び第七号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実、上場会社等の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは第二項第一号トに規定する配当若しくは分配、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等について、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第一項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。以下この項において同じ。)により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等若しくは当該上場会社等の子会社が提出した第二十五条第一項に規定する書類(同項第七号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。 

(以下略)

@@@@@@@@@@

(罰則)
○第百九十八条  
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・・・・・・・・・
十九  第百六十六条第一項若しくは第三項又は第百六十七条第一項若しくは第三項の規定に違反した者 


@@@@@@@@@@@@

【判例】
○株式会社安藤鉄工所事件
上場廃止に関して、公刊された判例で唯一、株式会社安藤鉄工所事件の仮処分事件がある。
昭和46年(ヨ)第2034号
東京地裁昭和46年11月15日地位保全仮処分申請事件判決
判例タイムズ271号126頁
判例時報650号92頁

(コメント)
これは、東京証券取引所が、昭和45年2月新しく設けた上場廃止基準にもとづき、粉飾決算をした会社の株式上場廃止処分に関するものである。当時も今も、すべての証券取引所は、株式の上場に際し、発行会社から上場契約書を提出させ、そのうえで、主務官庁の承認を得るという手続をとつている。このため、取引所は、発行会社に対し株式を上場すべき義務を負う。本件判例は、上場廃止を受けようとした会社が、この上場契約にもとづき、取引所のなした上場廃止が契約違反であるとして、その差止めを求めた仮処分である。

本判決では、裁判所は、取引所が現在および将来定める業務規程その他の規則が上場契約の附款になつているとし、本件上場廃止を右規則にもとづく適法なものと判断した。また、「決算に関する財務諸表に虚偽記載を行い、その影響が重大である場合」の判断もしている。

○地位保全仮処分申請事件

主 文

申請人の申請を却下する。
申他昭費用は申請人の負担とする。

事 実

第一 当事者の求める裁判
一 申請人
1 被申請人が昭和四六年八月一六日付書面をもつて申請人に対してなした東京証券取引市場第二部上場廃止(廃止日同年一一月一七日)の意思表示の効力を仮りに停止する。
2 被申請人は申請人の株式を東京証券取引市場第二部機械業種部門で売買取引させなければならない。
との趣旨の判決。
二 被申請人
主文第一項同旨の判決。

第二 申請の理由
一 申請人は、昭和一七年八月一二日設立された、原動機、運搬機、土木建設機等の製作、販売ならびに造船および船舶の修理を営業目的とする株式会社であり、現在の発行済株式総数は四、〇〇〇、〇〇〇株(一株額面金五〇円)である。
二 申請人は、昭和三六年一〇月ころ被申請人との間で、申請人の株式を被申請人の市場に上場させることを目的とする上場契約を締結し、爾来被申請人は、右契約にもとづき、申請人の株式をその市場第二部に上場してきた。
三 ところが、被申請人は、昭和四六年八月一六日申請人に対し「上場廃止および特設ポスト割当について」と題する書面をもつてつぎのような意思表示をした。
(イ) 申請人の株式の上場は同年一一月一七日限り廃止する。(ロ)同年八月一七日から同年一一月一六日までの間、申請人の株式の売買取引は特設ポストにおいて行う。
四 右上場廃止および特設ポスト割当の意思表示は、上場契約に定める要件を欠き、効力を生じないものであるから、申請人は、その無効確認を求める訴訟を提起すべく準備中であるが、右意思表示がされたことが公表されて以来申請人の信用は著しく失墜し、取引先から取引の保留、中止および支払条件の変更等を要求され、また銀行取引も大幅に縮少を余儀なくされており、被申請人が同年一一月一七日限り申請人の株式の上場を廃止すれば、申請人の信用失墜はさらに決定的なものとなり、申請人は会社解散のやむなきに至らざるを得ない状況にある。
五 よつて、申請人は、右のような現在の危険を避けるため前記申請の趣旨のとおりの裁判を求める。

第三 申請の理由に対する答弁および抗弁
(中略)

理 由

一 申請の理由第一ないし第三項記載の事実は当事者間に争いがない。

二 本件上場契約については、「被申請人がその定款、業務規程、有価証券上場規程その他の規則にもとづき、申請人の株式について上場を廃止し、売買管理上必要な処置を行うことに申請人は異議を述べない。」旨の特約がなされたことは当事者間に争いがない。上場契約が、多数の会社の発行する株式を売買するための有価証券市場を開設する証券取引所と個々の発行会社との間に、個別的に、当該発行会社の株式を当該市場で売買取引することを認めるために締結され、しかも、その契約による有価証券市場への上場および上場の廃止は、監督官庁である大蔵大臣の承認を法定条件とされている(証取法一一〇条、一一二条)ことを考えると、右特約は、被申請人の定款、業務規程、有価証券上場規程その他の規則を、いわゆる付款とし、右諸規則が変更される場合には、その変更後の規則に基づいて当事者間の法律関係を律することを約したものと解するのが相当である。もちろん、右諸規則の変更が合理的な理由に基づくものでなく、申請人に著しく不利益を課するような場合には、その特約の効力について問題となる余地があるが、被申請人のした後記上場廃止基準という規則の変更については、申請人は、特段の主張をしていない。

三 被申請人が昭和四五年二月一日有価証券上場規程を変更し、その中の株券上場廃止基準に、株式の上場を廃止すベき場合の一事由として、「溌行会社が決算に関する財務諸表に虚偽記載を行い、その影響が重大であると被申請人が認めた場合」を追加して掲げたことは当事者間に争いがない。

四 申請人が被申請人に作成提出した第四四期決算に関する有価証券報告書に、被申請人主張の各虚偽記載があつたことは当事者間に争いがない。 被申請人は、財務諸表に虚偽記載がある以上、影響の重大性の判断は、被申請人に委ねられ、申請人は、その点を争つて、上場廃止の効力を否定することはできないと主張する。そして、当事者間に争いのない前記事実によると、被申請人の主張も首肯し得ないではないが、株式の上場によつて、発行会社は、株式の流通の円滑化により、資金の調達が容易となり、また知名度が向上することにより信用も増大するという利益(これに対応して、発行会社は上場手数料および年賦金を支払うのである)を得ていることは、顕著な事実であるから、前記上場廃止基準の追加条項は、財務諸表に虚偽の記載があり、かつその影響が重大であると客観的に認められる場合に、はじめて被申請人は、上場廃止をすることができると解するのが相当である。被申請人の右主張は理由がない。

五 そこで、上場廃止事由の要件である、本件虚偽記載の影響が重大であるか否かにつき、判断する。
(中略)

七 以上の判示によれば、申請人が決算に関する財務諸表に虚偽記載を行い、その影響が重大であつたとして、申請人の株式の上場廃止を決定し、廃止までの間特設ポストにおいて売買取引を行う旨の被申請人の意思表示は、有効であるというべきである。

八 本件仮処分の申請は、被申請人の上場廃止等の意思表示が無効であり、申請人は被申請人に対し上場契約にもとづきその株式の上場を求める権利を有することを前提として、現在の危険を除去するための仮りの処分を求めるものと解されるところ、被申請人の前記上場廃止等の意思表示が無効であることの疎明はないから、本件仮処分の申請は、理由がなく、また保証を立てさせてこれを認容するのも相当でないので、結局却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判断する。
 (裁判官 安岡満彦 井関 浩 広田富男)

@@@@@@@@@@
参考
(内国株券上場契約書)


株  券  上  場  契  約  書

             平成  年  月  日


株式会社 東京証券取引所 
代表取締役社長      殿

        本店所在地    
       会社名          
       代表取締役 ○○○○    印

○○○○株式会社 (以下「会社」という。)は、その発行する株券を上場するについて、株式会社東京証券取引所(以下「取引所」という。)が定めた次の事項を承諾します。
1.取引所が現に制定している及び将来制定又は改正することのある業務規程、有価証券上場規程、その他の規則及びこれらの取扱いに関する規定(以下「諸規則等」という。)のうち、会社及び上場される会社の株券(以下「上場株券」という。)に適用のあるすべての規定を遵守すること。
2.諸規則等に基づいて、取引所が行う上場株券に対する上場廃止、売買の停止その他の措置に従うこと。
                                            弁護士 三木秀夫

ニュース六法目次