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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
消費者金融アイフルが186人と1億返還和解(2005年11月08日)利息制限法
消費者金融大手「アイフル」(京都市)に利息制限法で定めた金利を上回る利息を支払わされたとして、全国の債務者四百八十三人が過払い金の返還などを求めた訴訟で、これまでに全国二十二都府県の百八十六人に対し、同社が計約一億八百万円の和解金を返還していることが七日、「アイフル被害対策全国会議」(神戸市)のまとめで分かった。和解したのは原告の約四割にあたり、返還請求した約一億二千万円の約九割が返還された計算。同会議事務局の辰巳裕規弁護士は「請求額に近い額の和解で勝訴的な和解。過払いは違法で返還は当たり前だと考えてほしい」としている。同社をめぐっては今年七月、全国三十二都府県で原告四百八十三人が、過払い分や取引履歴の不開示に対する慰謝料など約三億七千万円の返還を求めて集団提訴。現在も半数以上の訴訟が継続中だが、「大半が和解の見込み」(同事務局)という。アイフル広報部は「お客さまに負担がかかるので早期解決を目指し和解した。今後も誠実に対応していきたい」としている。(神戸新聞 2005/11/08 )

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○「どうする、アイフル」って言っている場合ではない。かわいいチワワのコマーシャルで、子どもから大人まで人気を博したあのアイフルであるが、実はかなり厳しい貸金業務を行っていることは、多重債務の救済を行っている弁護士や消費者相談員の間では有名であった。高金利、過剰融資、強引取り立ては、サラ金業界全体が抱える問題である。しかし、チワワのかわいいイメージで業績を伸ばしていたアイフルは、多重債務被害の大きな要因となっていたため、今回の一斉提訴になっていた。派手なCMが多重債務被害を拡大させているとして、「アイフル被害対策全国会議」と「武富士被害対策全国会議」は05年9月16日に、大手マスコミに対して、アイフルと武富士による被害を訴え、両社の広告掲載・CM放映の中止を申し入れている。真剣に検討されるべき問題であろう。

○そもそも、サラ金利用者の大半が、利息制限法をほとんど知らないでいることに問題の根がある。いわゆる消費者金融業者は、利息制限法を超える金利で融資を行っているが、利息制限法を超える利息の約定は超過部分について無効である。しかしながら、利用者は、相手方業者の言い分を鵜呑みにしたまま返済を続けていて、負債を膨らまし続けている。そして、本来は支払い義務の無い利息のために、多重債務となり、自己破産や自殺に至る者が跡を絶たない。

○この点、貸付利率の規制のあり方を見直す必要があろうが、それが進まないのであれば、せめて消費者教育の充実や、貸付時に利息制限法の趣旨を十分に説明した上で利用させるような制度改善が必要ではないか。例えば、契約時に利息制限法違反であり返済義務はないことを顧客に明示させるとか、テレビCMや新聞広告には約定利息が利息制限法の違反であることを明示させてはどうか。過払金があるときは自主的にすみやかに返還することも強制すべきであろう。 

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○利息制限法とは
利息制限法は、10万円未満の貸付については年率20%、100万円未満の貸付については年率18%、100万円以上の貸付については年率15%を超える利息の約定は超過部分について無効であると定めている。

○利息制限法(昭和29年5月15日法律第100号)
(利息の最高限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が10万円未満の場合          年2割
元本が10万円以上100万円未満の場合  年1割8分
元本が100万円以上の場合         年1割5分
2 債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。

○消費者金融の無担保ローンは、そのほとんどが10万円から50万円程度の貸付であるから、利息制限法での上限金利は年18%である。不動産担保での借り入れの場合ならば、貸付額が100万円以上になるところ、その場合の利息制限法での上限金利は年15%である。しかし、大半の消費者金融では、これを超過する年率(28.835%など)の高金利で貸付をしている。この場合、年18%や(100万円以上なら15%)を超える利息の約定は、その超過部分について無効となる。この利息制限法の規定は「強行法規」であるから、借主が借り入れの際に納得して借り入れをしていたとしても、この利息制限法を用いて、同法規定の利率を超える部分の利率の無効を主張することができる。つまり、28%での借り入れ、その後それに従った返済をしていたとしても、遡ってでも、15%を超えての利息支払い義務は無いことが主張できるのである。ただし、この利息制限法自体には、仮に違反しても罰則がない。

○出資法について
出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律・昭和二十九年六月二十三日法律第百九十五号)という法律があり、その第5条で、一定率以上の高利貸付についての刑罰を定めている。貸金を業とする者については、年29.2%以上の利息で貸付をすれば、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科される。

出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)
(高金利の処罰)
第5条  金銭の貸付けを行う者が、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.33パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3 前二項に規定する割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者は、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(4項以下省略)

○グレーゾーン
この利息制限法から出資法の利率の範囲まで(10万円以上100万円未満の場合は年15%から年29.2パーセントまで)を「グレーゾーン」と呼ばれ、ほとんどの消費者金融業者がこの範囲内の上限利率すれすれの金利で融資している。ヤミ金融業者の中には、これに違反する利息で貸付けて強引取立てを行うケースが多い。

○利息制限法による再計算と「過払い」
利息制限法を超える金利の約定は、上述のとおりその部分について無効となる。したがって、本来支払う義務のなかった金利であるため、この「超過金利」については、元金に「法定充当」したものとできる。つまり、過去の弁済時に遡って元金として支払ったと計算しなおすことができる。(最高裁大法廷判決昭和39年11月18日、最高裁3小法廷判決昭和43年10月29日)

制限超過分の利息として任意に支払ったものでも、原則として元本に充当される。 (最高裁大法廷判決昭和39年11月18日)

この方法で、過去の取引を利息制限法に基づいて再計算をすると、債務が大きく減額となり、場合によってはゼロともなる。さらに、ゼロを通り越して、過払い(払いすぎ)との状態にまで至る結果になる場合もある。この利息制限法に基づく再計算を実現するためには貸金業者から取引履歴が開示されなければならないが、最高裁判所平成17年7月19日判決で、これを貸金業者の義務と明示した。

○返還請求
債務者が、利息制限法の制限をこえる利息・損害金を任意に支払った場合には、制限超過部分の無効を主張して過去の取引を利息制限法に基づいて再計算をした結果、ゼロを通り越して、過払い(払いすぎ)との状態にまで至った場合、債務者は、完済後の支払額につき、不当利得としてその返還を債務者に請求しうるかという点で、昭和43年11月13日最高裁判所大法廷判決は、これを認めた(最高裁判所裁判集民事93号181頁、判例タイムズ227号99頁、判例時報535号3頁)。

今回のアイフルに対する一斉請求は、まさにこの法理による返還請求である。日常の債務整理事件においても、よく使用する手法でもある。

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○貸金業規制法43条の「みなし弁済規定」とは
貸金業規制法(貸金業の規制等に関する法律)という法律がある。利息制限法規定の上限利率を超える利息契約は無効であるが、貸金業規制法43条は、貸金業者が貸付時に17条書面(契約書・貸付けの明細)を交付し、弁済金受領時に18条書面(領収書)を交付した場合で、借主が「任意で」利息制限法を超える利息を支払った場合には、有効な利息の弁済とみなして、その利息を返還しなくていいと定めている。これを「みなし弁済規定」という。消費者金融業者の中には、このみなし弁済規定を利用して、利息制限法超過部分の弁済を有効であると主張するケースがあり、その場合には苦慮することもある。

ただし、この貸金業規制法43条の「みなし弁済規定」が適用されるためには、同法が定めた適用要件をすべて満たしている必要がある。この要件はかなり詳細で厳しいため、業者の大半はこの要件を満たし得ていない。

○貸金業の規制等に関する法律(昭和五十八年五月十三日法律第三十二号)
(任意に支払つた場合のみなし弁済)
第四十三条  貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法 (昭和二十九年法律第百号)第三条 の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払つた金銭の額が、同法第一条第一項 に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項 の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。
一  第十七条第一項(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第一項に規定する書面を交付している場合又は同条第二項から第四項まで(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第二項から第四項までに規定するすべての書面を交付している場合におけるその交付をしている者に対する貸付けの契約に基づく支払
二  第十八条第一項(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十八条第一項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支

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○利息制限法(昭和二十九年五月十五日法律第百号)(全文)
(利息の最高限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が十万円未満の場合          年二割
元本が十万円以上百万円未満の場合   年一割八分
元本が百万円以上の場合          年一割五分
2 債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。
(利息の天引)
第二条  利息を天引した場合において、天引額が債務者の受領額を元本として前条第一項に規定する利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分は、元本の支払に充てたものとみなす。
(みなし利息)
第三条  前二条の規定の適用については、金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなす。但し、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。
(賠償額予定の制限)
第四条  金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条第一項に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分につき無効とする。
2 第一条第二項の規定は、債務者が前項の超過部分を任意に支払つた場合に準用する。
3 前二項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。
                                            弁護士 三木秀夫

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