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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
安保理「北朝鮮ミサイル」非難決議採択(2006年07月16日)国連憲章第7章
○今月5日の北朝鮮のミサイル発射問題で国連安全保障理事会15日午後4時(日本時間16日午前5時)前、日米などが提案した決議案を全会一致で採択した。決議はミサイル発射を非難し、北朝鮮のミサイルおよび大量破壊兵器開発に関する物資・技術・資金の移転阻止のため、必要な措置を取るよう加盟国に求めた。

日米案には安保理常任理事国の中国、ロシアが反対。日米は最終的に英国、フランスの妥協案を受け入れ、制裁の根拠となる国連憲章第7章への言及を削除し、「国際的な平和と安全を維持する安保理の特別な責任の下で行動する」と条文に加えた。

北朝鮮の朴吉淵(パクキルヨン)国連大使は同日、ミサイル発射はいかなる国際法にも違反していないとし、決議を「全面的に拒否する」と述べた。(毎日新聞 7月16日)

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○安保理「北朝鮮ミサイル発射非難決議」全文
(国際連合広報センターサイト掲載の日本語訳)
(広報資料 プレスリリース06/045-J 2006年7月19日)

安全保障理事会決議1695(2006)
2006年7月15日の安全保障理事会第5490回会合で採択

安全保障理事会は、
1993年5月11日の決議825 (1993) および2004年4月28日の決議1540 (2004) を再確認し、

朝鮮半島および北東アジア全体の安全と安定を維持することの重要性に留意し、

核兵器、化学兵器および生物兵器、ならびに、その運搬手段の拡散は、国際の平和と安全に対する脅威であることを再確認し、

弾道ミサイル・システムは核・化学・生物弾頭の運搬手段として利用されかねないことから、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)による弾道ミサイル発射に対して、重大な懸念を表明し、
 
DPRKがミサイル発射のモラトリアムを継続するという公約を破ったことに対し、深い憂慮の念を示し、

DPRKが十分な事前通告を怠り、民間航空および海運を危険にさらしたことについて、さらに懸念を表明し、

DPRKが近い将来、さらに弾道ミサイル発射の可能性を示唆していることに対し、深い憂慮の念を表明し、
 
また、この問題の平和的な外交による解決を望む意思も示すとともに、対話を通じて平和的、包括的な解決を促進しようとする安保理理事国とその他加盟国による取り組みを歓迎し、
 
DPRKは以前にも、地域各国への事前通告なしにミサイル推進式物体を発射し、これが1998年8月31日に日本近海に落下していることを想起し、
 
DPRKが核不拡散条約(NPT)からの離脱を発表し、核不拡散条約および国際原子力機関(IAEA)のセーフガード義務にもかかわらず、核兵器開発の意思を示していることに対して、遺憾の意を表明し、
 
2005年9月19日に中国、DPRK、日本、韓国、ロシア連邦および米国が発表した共同声明を実施することの重要性を強調し、
 
特に核兵器は開発済みとするDPRKの主張に照らし、かかる発射行為は地域およびさらに広範囲の平和、安定および安全を脅かすことを確認し、
 
国際の平和と安全を守るという、その特殊な責任に基づき、

1. 現地時間2006年7月5日のDPRKによる数次にわたる弾道ミサイル発射を非難する。
 
2. DPRKが弾道ミサイル開発プログラムに関連する全活動を中断するとともに、この関連において、従来のミサイル発射モラトリアムの公約を再び掲げることを要求する。
 
3. すべての加盟国に対し、その法的権限と国内法に従い、かつ、国際法に沿いながら、DPRKのミサイルまたは大量破壊兵器(WMD)開発プログラムへのミサイル、ならびに、ミサイル関連の物品、素材、製品および技術の移転を予防すべく、十分に警戒するよう求める。

4. すべての加盟国に対して、その法的権限と国内法に従い、かつ、国際法に沿いながら、DPRKからのミサイル、または、ミサイル関連の物品、素材、製品および技術の調達、ならびに、DPRKのミサイルまたはWMD開発プログラムに関連する一切の資金移転を予防すべく、十分に警戒するよう求める。 

5. 特にDPRKに対して、自制を示し、緊張状態を悪化させかねない一切の行為を慎むとともに、政治、外交努力を通じて不拡散面での懸念を払拭するための取り組みを続ける必要性を強調する。

6. DPRKに対して、無条件で直ちに6カ国協議に復帰し、あらゆる核兵器および既存の核開発プログラムの放棄をはじめ、2005年9月19日の共同声明の迅速な実施に取り組むとともに、早期に核兵器不拡散条約および国際原子力機関セーフガード体制に復帰するよう強く求める。
 
7. 6カ国協議を支持し、その早期再開を呼びかけるとともに、その全参加国に対し、朝鮮半島の平和的かつ検証可能な非核化の達成、ならびに、朝鮮半島および北東アジアの平和と安定の維持を念頭に、2005年9月19日の共同声明の全面実施に向けた取り組みを強化するよう求める。
 
8. 本件の審議継続を決定する。

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○国連安全保障理事会は、ニューヨーク時間での2006年7月15日午後4時(日本時間16日午前5時)前に、北朝鮮の弾道ミサイル開発計画の全面停止を求める非難決議案を、ようやく全会一致で採択した(1695号決議)。中ロを含む全ての常任・非常任理事国が決議に同意し、これによって、中ロを含む全ての常任・非常任理事国が決議に同意し、国際社会の総意が示された。

この決議の3項、4項では、同国のミサイル・大量破壊兵器開発に関連する物資・技術・資金の国際取引を阻止するよう加盟国に要求した。

今回、日本は、「国連憲章第7章」の言葉の挿入に、強くこだわった。

「国連憲章7章に基づき行動する」という文言で、「平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為」と認めた国家などに経済制裁や軍事行動を起こすことができると明記した条項で、その後の制裁の発動に大きくかかわる。その日本の制裁決議案は日米英仏のほか、デンマーク、ギリシャ、スロバキアの計7カ国による共同提案という形をとった。

日本を含む7各国の共同決議案と、今回の安保理が採択した決議案とでは、「軍事措置」が可能な「国連憲章7章」の文言が削除された点が最も大きい。また、北朝鮮のミサイル発射行為が「国際平和と安全への脅威」であるという表現も削除された。さらに本文条項の中で、拘束力のある「決定する(decides)」の表現が「要求する(demands)」「要請する(reqires)」という弱い表現に変わった。日本のこだわった部分は最後には通らなかったものの、国際社会を強くリードしたこの外交姿勢は、評価すべきだと思う。

○国連安保理は、1993年に、北朝鮮に対して核拡散禁止条約(NPT)復帰を求めた決議案を採択したことがあるが、その5年後に北朝鮮はテポドンを発射した。その際、北朝鮮は「人工衛星の打ち上げ」と弁明した。このため、そのときの安保理は「事前通告の不在」をとがめた「報道向け声明」しかしなかった。

そのような経緯があるのに、今回の7月の北朝鮮の7発ものミサイル発射では、北朝鮮からどこの国に対しても事前通告をしなかったばかりか、公式に「正常な軍事訓練」と開き直ったのである。国連が北朝鮮に厳しい制裁決議をなすのは、至極当然のことだと考える。

ところが、日本の決議案にある国連憲章第7章について、中国やロシアは「制裁の検討は時期尚早」として、この部分に難色を示した。その後、中国は北朝鮮の説得にかかったものの全く北朝鮮が応じなかったこともあって、国連憲章第7章の記述を削除し制裁決議案をロシアとともに逆提案してきたものである。

○日本は最終的にこれに応じたが、安保理理事国全員の満場一致で決議案の採択に賛成したのはきわめて大きい重みを持つ。安保理の93年の北朝鮮に対して核拡散禁止条約(NPT)復帰を求めた決議案と比べ内容が非常に強力である。

「第7章が決議案の中にあれば最善の形だった」が「安保理の全会一致の決議採択が日本の国益にとって最善の選択だった」という大島国連大使の言葉のとおり、中・ロが拒否権を辞さない姿勢を示していたなかで、最終決断としては評価しうるのではないか。

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○国連憲章7章への言及が削除された今回の決議案の法的拘束力はどう見るべきであろうか。

○軍事措置が可能な国連憲章7章への言及が削除され、本文に「武力使用」を規定した条項がないため、国連としての軍事措置は、この決議自体からは直ちにはできない。

しかし、もし北朝鮮が、さらにミサイルを発射したり核実験を行った場合などには、安保理が国連憲章第7章および武力使用を規定した条項を盛り込んだ新たな決議案を採択する可能性はあり、その場合は軍事措置も可能となる。今回の決議はその過程において重要な位置を占めるであろう。

○ただ、今回の決議には北朝鮮を直接制裁できる条項は盛り込まれている。

3項では北朝鮮のミサイルまたは大量破壊兵器の関連物資、資材、商品、技術の輸出および輸入を規制する。4項では、特に北朝鮮がミサイルと大量破壊兵器の関連輸出によって得る金融資産の移転を阻止できるようになっている。

ただ、すべての国連加盟国が北朝鮮に制裁することができるとなるかというと、そうではない。この条項のいずれにおいても「その法的権限と国内法に従い、かつ、国際法に沿いながら」という文言があって、ミサイルや大量破壊兵器に関連して制裁を定める国内法がない国は制裁ができない。

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○国連憲章第7章
国連憲章第7章は、「国際連合の集団的安全保障における強制措置」を規定する。

安全保障(security)とは、外部からの攻撃や侵略行為に対して、国家の安全を保障する体制をいう。それには大きく分けて2種あり、同盟その他の他国との連携による個別的安全保障と、今日の集団的安全保障がある。

19世紀まで支配的な考え方であった個別的安全保障とは、自国の軍備増強と他国との軍事同盟の強化によって自国の安全を守る体制であった。

それに対して集団的安全保障は、世界大戦をきっかけに生まれた方式で、国際連盟規約が最初で、国連憲章がこれを引き継いだ。

集団安全保障とは、相対立する国家も含む全世界すべての国が条約を締結して相互の不可侵を約束するとともに、その違反行為の抑止と制裁のために協力することである。その制度の根幹には、国際関係での武力行使の制限・禁止を前提にしている。国際連盟はこの考え方に立って結成されたが、十分な権限と体制を持っていなかったため、第二次世界大戦を防ぐことができなかった。国際連合は、集団安全保障体制をいっそう強化する理念で結成された。

国連憲章第7章では、憲章第39条で、「安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する」と規定し、同40条で停戦・撤退の要請等の暫定措置を、同41条では外交関係・経済関係の断絶などの「非軍事的強制措置」を、さらにそれが不十分な場合として、第42条で、陸海空軍の行動である「軍事的制裁措置」が規定された。

憲章第41条の非軍事的強制措置は、一般に「経済制裁」と言うもので、「経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる」ものである。南ローデシア問題や湾岸危機において発動された。

この強制措置が発動されれば加盟国は協力する義務を負い中立を援用できない。憲章第42条と第43条第1項による安全保障理事会決定に従って「国際の平和及び安全の維持に貢献する」ことは加盟国の法的義務である。

ただ、憲章第42条の「軍事的制裁措置」の発動には、同43条の安全保障理事会と加盟国の間の「特別協定」の締結が前提とされるところである。しかし、第42条が本来予定する「国際連合軍」なるものは、これまで結成されたことはない。このため、安全保障理事会は、朝鮮戦争の際の1950年に軍事的措置を勧告し、湾岸戦争の際の1990年には軍事的措置をとる権限を与えた。

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○国際連合憲章
(国連広報センターサイトhttp://www.unic.or.jp/know/kensyo.htm)

第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動
第39条
安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。

第40条
事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。

第41条
安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

第43条
国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ1又は2以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。この便益には、通過の権利が含まれる。
前記の協定は、兵力の数及び種類、その出動準備程度及び一般的配置並びに提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
前記の協定は、安全保障理事会の発議によって、なるべくすみやかに交渉する。この協定は、安全保障理事会と加盟国との間又は安全保障理事会と加盟国群との間に締結され、且つ、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。

第44条
安全保障理事会は、兵力を用いることに決定したときは、理事会に代表されていない加盟国に対して第43条に基いて負った義務の履行として兵力を提供するように要請する前に、その加盟国が希望すれば、その加盟国の兵力中の割当部隊の使用に関する安全保障理事会の決定に参加するようにその加盟国を勧誘しなければならない。

第45条
国際連合が緊急の軍事措置をとることができるようにするために、加盟国は、合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供することができるように保持しなければならない。これらの割当部隊の数量及び出動準備程度並びにその合同行動の計画は、第43条に掲げる1又は2以上の特別協定の定める範囲内で、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が決定する。

第46条
兵力使用の計画は、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が作成する。

第47条
国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の軍事的要求、理事会の自由に任された兵力の使用及び指揮、軍備規制並びに可能な軍備縮小に関するすべての問題について理事会に助言及び援助を与えるために、軍事参謀委員会を設ける。
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国の参謀総長又はその代表者で構成する。この委員会に常任委員として代表されていない国際連合加盟国は、委員会の責任の有効な遂行のため委員会の事業へのその国の参加が必要であるときは、委員会によってこれと提携するように勧誘されなければならない。
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の下で、理事会の自由に任された兵力の戦略的指導について責任を負う。この兵力の指揮に関する問題は、後に解決する。
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の許可を得て、且つ、適当な地域的機関と協議した後に、地域的小委員会を設けることができる。

第48条
国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の決定を履行するのに必要な行動は、安全保障理事会が定めるところに従って国際連合加盟国の全部または一部によってとられる。
前記の決定は、国際連合加盟国によって直接に、また、国際連合加盟国が参加している適当な国際機関におけるこの加盟国の行動によって履行される。

第49条
国際連合加盟国は、安全保障理事会が決定した措置を履行するに当って、共同して相互援助を与えなければならない。

第50条
安全保障理事会がある国に対して防止措置又は強制措置をとったときは、他の国でこの措置の履行から生ずる特別の経済問題に自国が当面したと認めるものは、国際連合加盟国であるかどうかを問わず、この問題の解決について安全保障理事会と協議する権利を有する。

第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
                                            弁護士 三木秀夫

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