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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
セブンイレブンの値引制限は「不当」(2009年06月23日)優越的地位の濫用
○約1万2千店舗を抱えるコンビニエンスストア最大手のセブン―イレブン・ジャパンの本部(東京)が、販売期限の迫った弁当などを値引きして売った加盟店に値引きをしないよう強制していたとして、公正取引委員会は22日、独占禁止法違反(不公正な取引方法)で同社に排除措置命令を出した。本部との契約を打ち切られると事実上経営が成り立たなくなる加盟店は、本部からの要請に従わざるを得ない実態がある、と公取委は判断。独禁法の「優越的な地位の乱用」にあたると認定した。 
 
販売期限の迫った弁当などの値引きは「見切り販売」と呼ばれるが、これをしていた加盟店側は「見切り販売をせずに本部の要請通りに弁当などを捨てると、大きな損失が出て経営が圧迫される」と主張。本部側は「安易な見切り販売は中長期的に加盟店の利益にならない。発注精度を高めることがなによりも重要だ」などとして対立していた。 
 
しかし、命令は、見切り販売しないで捨てることになる弁当などが、1店舗あたり年間約530万円(調査した約1100店の平均額)に達している現状も指摘。今後、加盟店側が値引き販売できるようにするための具体的な方法を示した資料(マニュアル)を作ることを求めるなど、加盟店側に立った認定をした。 
 
販売期限の迫った弁当などの販売をめぐっては、指導の強さに違いはあるものの、セブン―イレブン以外のコンビニ各社も同じように「本部が推奨する価格での販売」を加盟店側に求めていることから、影響は業界全体に及ぶ可能性がある。また、本部側は「他店との値引き競争の恐れから見切り販売には慎重な店主が多い」と主張しているが、今回の命令を機に、スーパーや百貨店の閉店間際に見られるような「見切り品」の安売りを始めるコンビニ店も出てきそうだ。 
 
公取委の命令によると、同社は加盟店に対して、弁当やおにぎり、総菜など鮮度が低下しやすい「デイリー品」を本部が推奨する価格で販売するよう指導。デイリー品の廃棄による損失を減らすため販売期限の迫った商品を値引きする「見切り販売」をした加盟34店に対し、本部側の担当者らが「契約違反だ」「このままでは契約の更新ができない」などと言い、見切り販売を制限したとされる。公取委によると、同社の会計方式では「デイリー品」を捨てた分の原価は加盟店側が負担することになるため、値引き販売ができないと加盟店の負担は大きくなるという。そのため、公取委がセブン側に作成を求めている「加盟店が見切り販売をする際のマニュアル」には、「販売期限の何時間前から、何円まで値引きをすれば加盟店が利益を確保できるか」などが具体的に記されることが想定されているという。 一方、命令を受けて記者会見したセブン―イレブンの井阪隆一社長は「(加盟店と本部は)対等の立場にある。公取委とは見解の相違があり、残念だ。命令内容を精査し、慎重に検討したい」と発言。命令に従うか、あるいは不服として審判請求するか、明言しなかった。(asahi.com 2009.6.2)

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○このニュースは、フランチャイズ契約を結んだ加盟店に対して、販売期限の近い弁当やおにぎりを値引き販売する「見切り販売」を不当に制限していたセブンイレブン本部に対して、公正取引委員会が、不当制限の中止と再発防止を求める「排除措置命令」を出したというものである。

○根拠法は、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項〔優越的地位の濫用〕第4号に該当)規定違反であり、同法第20条第1項の規定に基づき、排除措置命令がなされたものである。(新聞などでは一般的に「乱用」という文字が使用されているが、法令での表現は「濫用」である。)
命令書 http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.june/09062201.pdf

○違反行為の他のコンビニ本部でも、加盟店に値引きを制限しているケースが多いと聞こえるなかのこの処分は、今後、コンビニにおいても値引き販売が広がる可能性が出るかもしれない。

同じ食品販売分野でも、スーパーなどでは、閉店ぎりぎりに行くと、値引き商品がたくさんある。2割引きから5割引きまであり、それを狙った主婦が、その時間帯になると現われてくる。当然に顧客は喜ぶし、店側も、そのまま売れ残って廃棄するよりは現金化できるのであるから、顧客・店舗・地球環境の「3方よし」である。

しかし、なぜか、コンビニは違っていた。賞味期限が近付いている商品でも値引きをしているケースは見たことがない。というよりも、一定の時期が来ると、値引きせずに引き揚げ、売ってくれない。もったいないと思うのだが、どうも、コンビニ本部からの指示だとは思っていたが、実際そうであったことが、今回の指摘で明確になった。というよりも、値引き販売によって廃棄経費を削減して利益を増やしたい加盟店側に対して、本部側が「見切り販売をしたら契約解除をする」と強力な圧力をかけて、これを阻止していた実態も明らかになった。

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○優越的地位の濫用
優越的地位の濫用とは、取引上、優越的地位にある業者が、取引先に対して不当に不利益を与える行為をいう。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第19条(不公正な取引方法の禁止)及び一般指定第14号(優越的地位の濫用)に違反する。わかりやすく言えば、取引先との圧倒的な力のある業者が、その力の差を利用して、自社に有利な条件で取引させることで、これを許すと公正な競争を阻害して、行き着くところ消費者に不利益な結果となるためである。今回のセブンイレブンの場合、本部推奨(=強制)価格を維持させたことが優越的地位の濫用にあたるとされた。 

○違反に対する措置(排除措置命令)
公正取引委員会は、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる(排除措置命令)(独占禁止法第7条)。

○優越的地位の濫用となる要件
優越的地位の濫用の要件は以下の通りである。
(1)自己の取引上の地位が相手方に優越していること
これは客観的・数値的要件がるわけではなく、相対的に優越していることで足りるとされている。優越性の有無は、両者間の取引依存度、市場における地位、取引先の変更の可能性、商品や役務の需供関係を総合的に考慮して判断される。
(2)正常な商慣習に照らして不当に濫用すること
(3)公正取引委員会告示「不公正な取引方法」(下記)の5類型に該当すること

○公正取引委員会告示「不公正な取引方法」(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第15号)
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに掲げる行為をすること
@継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること
A継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
B相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること
C@〜Bに該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること
D取引の相手方である会社に対し、当該会社の役員の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、又は自己の承認を受けさせること

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○公取委のガイドライン
公正取引委員会は、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(流通・取引慣行ガイドライン)の第五、「小売業による優越的地位の濫用行為」において、押し付け販売、返品、従業員等の派遣の要請、協賛金等の負担の要請、多頻度小口配送等の要請について、独禁法上問題となる場合を具体的に記載して、判断基準を示している。

「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成十四年四月二十四日公正取引委員会)で、「フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引について」が示されているが、その中で、以下のような見解が示されている。
(1) 優越的地位の濫用について
加盟者に対して取引上優越した地位(注3)にある本部が,加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて,正常な商慣習に照らして不当に加盟者に不利益となるように取引条件を設定し,又は取引の条件若しくは実施について加盟者に不利益を与えていると認められることがあり,そのような場合には,フランチャイズ契約又は本部の行為が一般指定の第一四項(優越的地位の濫用)に該当する。
(注3) フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において,本部が取引上優越した地位にある場合とは,加盟者にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても,これを受け入れざるを得ないような場合であり,その判断に当たっては,加盟者の本部に対する取引依存度(本部による経営指導等への依存度,商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等),本部の市場における地位,加盟者の取引先の変更可能性(初期投資の額,中途解約権の有無及びその内容,違約金の有無及びその金額,契約期間等),本部及び加盟者間の事業規模の格差等を総合的に考慮する。
ア フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において,個別の契約条項や本部の行為が,一般指定の第一四項(優越的地位の濫用)に該当するか否かは,個別具体的なフランチャイズ契約ごとに判断されるが,取引上優越した地位にある本部が加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて,例えば,次のような行為等により,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,本部の取引方法が一般指定の第一四項(優越的地位の濫用)に該当する。
(略)
(見切り販売の制限)
廃棄ロス原価を含む売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること(注4)。
(注4) コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上総利益をロイヤルティの算定の基準としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入せず,その結果,廃棄ロス原価が売上総利益に含まれる方式を採用している。この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,加盟者は,廃棄ロス原価を負担するほか,廃棄ロス原価を含む売上総利益に基づくロイヤルティも負担することとなり,廃棄ロス原価が売上原価に算入され,売上総利益に含まれない方式に比べて,不利益が大きくなりやすい。
(略)

○下請代金支払遅延等防止法(下請法)
これは、優越的地位の濫用防止の見地から、より具体的に規制を制定したものである。

○特殊指定
デパートを対象とした「百貨店業における特定の不公正な取引方法」、新聞業を対象とした「新聞業における特定の不公正な取引方法」等の特殊指定が定められている。

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○フランチャイズ契約について
本来は、フランチャイザー(FC本部)とフランチャイジー(加盟店)は、対等な関係でなければならない。したがって、商品の値下げをするかどうかの判断も、本来は加盟店が自由に決めていいはずである。少なくとも、値下げをしてはならないとは契約書に記載がなかったとの報道もあり、本部からはこの点での強制力がないはずである。それにもかかわらず、値下げをする加盟店に対して、本部が契約解除を予告したり、警告文を送りつけてきたりしたそうで、まさにこの点が優越的地位の濫用とされたものである。

FC業界での、本部の優越的地位の濫用は、他にもあると、ささやかれている。以下はその一例である。今後、これらの点も議論となろう。
(1)24時間営業の強制
(2)本部推奨の取引先以外からの仕入れ禁止
(3)押し込み商品供給(クリスマスケーキ、おもちゃ、くじ引き等)
(4)真夏のおでん販売・・・・

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○最近の優越的地位の濫用に対する措置例(公正取引委員会まとめ)
(1)平成21年(措)第7号 鞄忠に対する件(平成21年6月19日)
納入業者に対し、@ 店舗の閉店又は改装に際し,当該店舗の商品のうち,当該店舗及び他の店舗において販売しないこととした商品を返品している。A 家具商品部で取り扱う商品のうち,定番商品から外れたこと又は店舗を閉店するに当たり当該店舗において売れ残ることが見込まれることを理由として割引販売を行うこととした商品について,当該割引販売に伴う自社の利益の減少に対処するために必要な額を当該商品の納入価格から値引きをさせている。B 店舗の開店,改装又は閉店に際し,その従業員等を,納入業者の商品以外の商品を含む商品の搬入等の作業及び当該店舗における商品の陳列等の作業を行わせるために派遣させている。
(2)平成21年(措)第3号 椛蝌aに対する件(平成21年3月5日)
納入業者に対し、@ 「全従業員訪問販売」等と称する販売企画を実施するに際し,当該販売企画の販売対象となる商品を購入させていた。A 絵画の展示会で販売する絵画を購入させた。B 「全従業員訪問販売」等と称する販売企画を実施するに際し,大和に派遣されている納入業者従業員に,当該大和に派遣されている納入業者従業員を派遣する納入業者が大和に納入する商品以外の商品の販売業務を行わせていた。C 大規模なセールを実施するに際し,大和に派遣されている納入業者従業員に,当該セールを告知するダイレクトメールを配布する作業を行わせていた。
(3)平成20年(措)第16号 潟с}ダ電機に対する件(平成20年6月30日)
納入業者に対し、@ 店舗の新規オープン及び改装オープンに際し,当該納入業者の納入に係る商品であるか否かを問わず当該店舗における商品の陳列,商品の補充,接客等の作業を行わせるために,その従業員等を派遣させている。A 当該納入業者から購入した商品のうち,店舗における展示のために使用したもの及び顧客から返品されたものを「展示処分品」と称して販売するために必要な設定の初期化等の作業のために,その従業員等を派遣
させていた。
(4)平成20年(措)第15号 潟Gコスに対する件(平成20年6月23日)
納入業者に対し、@ 店舗の開店及び閉店に際し,閉店に際して割引販売をすることとした商品及び開店に際して最初に陳列する商品について,当該割引販売前の販売価格に100分の50を乗じる等の方法により算出した額をその納入価格から値引きをさせていた。A 店舗の開店及び閉店に際し,その従業員等を自社の業務のための商品の陳列,補充等の作業を行わせるために派遣させていた。B 店舗の開店に際し,事前に算出根拠,目的等について明確に説明することなく,「即引き」と称して,開店に当たって納入させる特定の商品について,その納入価格を通常の納入価格より低い価格とすることにより,通常の納入価格との差額に相当する経済上の利益を提供させていた。C 店舗の開店に際し,事前に算出根拠,目的等について明確に説明することなく,「協賛金」と称して,金銭の負担をさせていた。
(5)平成20年(措)第11号 潟}ルキョウに対する件(平成20年5月23日)
納入業者に対し、@ メーカー等が定めた賞味期限等とは別に,独自の販売期限を定め,当該販売期限を経過した商品について,当該販売期限を経過したことを理由として返品している。A 商品回転率が低いこと等を理由として,商品の返品又は割引販売を行うこととし,返品することとした商品について当該商品を返品し,又は割引販売を行うこととした商品について当該商品の納入価格から値引きをさせていた。B 「大判」と称するセール等に際し,その従業員等を自社の業務のための商品の陳列,補充等の作業を行わせるために派遣させていた。

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○ 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(抄)
(昭和二十二年四月十四日法律第五十四号)
〔不公正な取引方法の禁止〕
第十九条 事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない。
〔排除措置〕
第二十条 前条の規定に違反する行為があるときは,公正取引委員会は,第八章第二節〔手続〕に規定する手続に従い,当該行為の差止め,契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。

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○平成21年(措)第8号 排除措置命令書
東京都千代田区二番町8番地8
株式会社セブン−イレブン・ジャパン
同代表者 代表取締役 井 阪 隆 一
公正取引委員会は,上記の者に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第1項の規定に基づき,次のとおり命令する。
主 文
1 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,見切り販売(株式会社セブン−イレブン・ジャパンが加盟者(株式会社セブン−イレブン・ジャパンのフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者をいう。以下主文において同じ。)の経営するコンビニエンスストアで販売することを推奨する商品のうちデイリー商品(品質が劣化しやすい食品及び飲料であって,原則として毎日店舗に納品されるものをいう。以下主文において同じ。)に係る別紙1記載の行為をいう。以下主文において同じ。)を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,もって,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならない。
2 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前項の行為を取りやめる旨及び今後,前項の行為と同様の行為を行わない旨を,取締役会において決議しなければならない。
3 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前2項に基づいて採った措置を加盟者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの周知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,今後,第1項の行為と同様の行為を行ってはならない。
5 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。これらの措置の内容については,第1項の行為と同様の行為を行うことのないようにするために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定
(2) 加盟者が行う見切り販売の方法等についての加盟者向け及び従業員向けの資料の作成
(3) 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査
6 (1) 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,第1項から第3項まで及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
(2) 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前項の(3)に基づいて講じた措置の実施内容を,今後3年間,毎年,公正取引委員会に報告しなければならない。
理 由
第1 事実
1 (1) 株式会社セブン−イレブン・ジャパン(以下「セブン−イレブン・ジャパン」という。)は,肩書地に本店を置き,我が国において,「セブン−イレブン」という統一的な商標等の下に,別紙2記載の事業(以下「コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業」という。)を営む者である。
(2)ア セブン−イレブン・ジャパンが自ら経営するコンビニエンスストア(以下「直営店」という。)及びセブン−イレブン・ジャパンのフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者(以下「加盟者」という。)が経営するコンビニエンスストア(以下「加盟店」という。)は,一部の地域を除く全国に所在している。平成20年2月29日現在における店舗数は,直営店が約800店,加盟店が約1万1200店の合計約1万2000店であり,平成19年3月1日から平成20年2月29日までの1年間における売上額は,直営店が約1500億円,加盟店が約2兆4200億円の合計約2兆5700億円であるところ,セブン−イレブン・ジャパンは,店舗数及び売上額のいずれについても,我が国においてコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営む者の中で最大手の事業者である。これに対し,加盟者は,ほとんどすべてが中小の小売業者である。
イ (ア) セブン−イレブン・ジャパンは,加盟者との間で,加盟者が使用することができる商標等に関する統制,加盟店の経営に関する指導及び援助の内容等について規定する加盟店基本契約と称する契約(当該契約に附随する契約を含む。以下「加盟店基本契約」という。)を締結している。加盟店基本契約の形態には,加盟者が自ら用意した店舗で経営を行うAタイプと称するもの(以下「Aタイプ」という。)及びセブン−イレブン・ジャパンが用意した店舗で加盟者が経営を行うCタイプと称するもの(以下「Cタイプ」という。)がある。
(イ) 加盟店基本契約においては,契約期間は15年間とされ,当該契約期間の満了までに,加盟者とセブン−イレブン・ジャパンの間で,契約期間の延長又は契約の更新について合意することができなければ,加盟店基本契約は終了することとされている。加盟店基本契約においては,加盟店基本契約の形態がAタイプの加盟者にあっては,加盟店基本契約の終了後少なくとも1年間は,コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営むセブン−イレブン・ジャパン以外の事業者のフランチャイズ・チェーンに加盟することができず,加盟店基本契約の形態がCタイプの加盟者にあっては,加盟店基本契約の終了後直ちに,店舗をセブン−イレブン・ジャパンに返還することとされている。
ウ セブン−イレブン・ジャパンは,加盟店基本契約に基づき,加盟店で販売することを推奨する商品(以下「推奨商品」という。)及びその仕入先を加盟者に提示している。加盟者が当該仕入先から推奨商品を仕入れる場合はセブン−イレブン・ジャパンのシステムを用いて発注,仕入れ,代金決済等の手続を簡便に行うことができるなどの理由により,加盟店で販売される商品のほとんどすべては推奨商品となっている。
エ セブン−イレブン・ジャパンは,加盟店が所在する地区にオペレーション・フィールド・カウンセラーと称する経営相談員(以下「OFC」という。)を配置し,加盟店基本契約に基づき,OFCを通じて,加盟者に対し,加盟店の経営に関する指導,援助等を行っているところ,加盟者は,それらの内容に従って経営を行っている。
オ 前記アからエまでの事情等により,加盟者にとっては,セブン−イレブン・ジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,加盟者は,セブン−イレブン・ジャパンからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって,セブン−イレブン・ジャパンの取引上の地位は,加盟者に対し優越している。
(3)ア 加盟店基本契約においては,加盟者は,加盟店で販売する商品の販売価格を自らの判断で決定することとされ,商品の販売価格を決定したとき及び決定した販売価格を変更しようとするときは,セブン−イレブン・ジャパンに対し,その旨を通知することとされている。
イ セブン−イレブン・ジャパンは,加盟店基本契約に基づき,推奨商品についての標準的な販売価格(以下「推奨価格」という。)を定めてこれを加盟者に提示しているところ,ほとんどすべての加盟者は,推奨価格を加盟店で販売する商品の販売価格としている。
ウ セブン−イレブン・ジャパンは,推奨商品のうちデイリー商品(品質が劣化しやすい食品及び飲料であって,原則として毎日店舗に納品されるものをいう。以下同じ。)について,メーカー等が定める消費期限又は賞味期限より前に,独自の基準により販売期限を定めているところ,加盟店基本契約等により,加盟者は,当該販売期限を経過したデイリー商品についてはすべて廃棄することとされている。
エ 加盟店で廃棄された商品の原価相当額については,加盟店基本契約に基づき,その全額を加盟者が負担することとされているところ,セブン−イレブン・ジャパンは,セブン−イレブン・ジャパンがコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業における対価として加盟者から収受しているセブン−イレブン・チャージと称するロイヤルティ(以下「ロイヤルティ」という。)の額について,加盟店基本契約に基づき,加盟店で販売された商品の売上額から当該商品の原価相当額を差し引いた額(以下「売上総利益」という。)に一定の率を乗じて算定することとし,ロイヤルティの額が加盟店で廃棄された商品の原価相当額の多寡に左右されない方式を採用している。
オ 加盟者が得る実質的な利益は,売上総利益からロイヤルティの額及び加盟店で廃棄された商品の原価相当額を含む営業費を差し引いたものとなっているところ,平成19年3月1日から平成20年2月29日までの1年間に,加盟店のうち無作為に抽出した約1,100店において廃棄された商品の原価相当額の平均は約530万円となっている。
2 (1) セブン−イレブン・ジャパンは,かねてから,デイリー商品は推奨価格で販売されるべきとの考え方について,OFCを始めとする従業員に対し周知徹底を図ってきているところ,前記1(3)エのとおり,加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で
ア OFCは,加盟者がデイリー商品に係る別紙1記載の行為(以下「見切り販売」という。)を行おうとしていることを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を行わないようにさせる
イ OFCは,加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を再び行わないようにさせる
ウ 加盟者が前記ア又はイにもかかわらず見切り販売を取りやめないときは,OFCの上司に当たるディストリクト・マネジャーと称する従業員らは,当該加盟者に対し,加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして,見切り販売を行わないよう又は再び行わないようにさせる
など,見切り販売を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせている。
(2) 前記(1)の行為によって,セブン−イレブン・ジャパンは,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている。
第2 法令の適用
前記事実によれば,セブン−イレブン・ジャパンは,自己の取引上の地位が加盟者に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,取引の実施について加盟者に不利益を与えているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項第4号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって,セブン−イレブン・ジャパンに対し,独占禁止法第20条第1項の
規定に基づき,主文のとおり命令する。
平成21年6月22日
公正取引委員会 委員長 竹 島 一 彦
委 員 濱 崎 恭 生
委 員 後 藤   晃
委 員 神 垣 清 水
委 員 M 田 道 代
別紙1
株式会社セブン−イレブン・ジャパンが独自の基準により定める販売期限が迫っている商品について,それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為
別紙2
自社のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者に対し,特定の商標等を使用する権利を与えるとともに,当該事業者によるコンビニエンスストアの経営について,統一的な方法で統制,指導及び援助を行い,これらの対価として当該事業者から金銭を収受する事業(自らコンビニエンスストアを経営する事業を併せて営む場合における当該事業を含む。)
                                            弁護士 三木秀夫

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