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デス・レース2000年
DEATH RACE 2000

米 1975年
製作 ロジャー・コーマン
監督 ポール・バーテル
出演 デビッド・キャラダイン
   シルベスター・スタローン
   シモーヌ・グリフィス
   マリー・ウォロノフ


 十年ほど前、TVゲームの制作に関わっている後輩から「何か面白いゲームのアイデア、ないすか?」と訊かれて、即座に「デス・レース2000年!」と答えたことがある。大陸横断のレースゲームで、人を轢き殺すとボーナス得点。大人よりも子供や老人、身障者の方が得点が高い。面白いじゃないか。
 ところが、人を殺すゲームはダメなんですと。子供に悪影響が出るとかで。たしかに、そう云われれば、シューティング・ゲームの標的はゾンビとか恐竜とか、それからあからさまな悪人だよな、MIBみたいな。現に「ポスタル」という大量殺人ゲームがアメリカで発売中止になったとか。『バトル・ロワイヤル』みたいな面白い小説が選考委員の「倫理観」でもって抹殺されそうになる時代だから無理もない。『デス・レース2000年』は「倫理観」が甘かった頃だからこそ出来た、ほとんど奇跡的な作品と云ってよい。今じゃ作ることは不可能であろう。

 西暦2001年、アメリカは独裁国家になっていた。国民の不満のガス抜きは年に一度のデスレース。優勝者は国民的ヒーローとして奉られる。昨年の優勝者、フランケンシュタインはレザーのつなぎに黒マスク、黒マントをなびかせた謎の怪人。これに対するのがマシンガン・ジョー。シチリアン・マフィアの風貌をした、あからさまのワルである。西部劇から抜け出たようなカラミティ・ジェーンは、長い黒髪にウエスタン・ハットの似合う、小股の切れ上がったいい女。かたや、金髪美女のマチルダ・ザ・ハンはネオ・ナチスの信奉者。ファッションは鉤十字一色で、これはこれでソソるものがある。そして、まるで『ベンハー』のような衣装のネロ・ザ・ヒーロー。以上、5人のレーサーたちが民間人をドカドカ轢き殺しながら競い合うが、レジスタンスの工作により、一人また一人と抹殺されていく.....。
 どうです?。『チキチキマシン猛レース』で育った世代には堪らないでしょ?。


 レーサーたちが個性的なら、轢き殺される方も個性的だ。
 まず、最初の犠牲者は道路工事のおっちゃんだが、道路中央でガガガガガッとやってるところに後ろからマシンが現れて、ザックリと股を裂かれる。股間から血が吹き出る特撮は『椿三十郎』以上の衝撃映像だ。
 この他にも頭部破壊、肛門潰し等の衝撃映像が随所に見られるが、この映画の凄いところは、こうした人体破壊映像をコメディタッチで描いている点である。バックにはコミカルな音楽が流れ、ブピューッといったコミカルな擬音が重なる。人間の命の尊さとは最も無縁の映画と云えよう。
 フランケンシュタインの熱烈なファンの少女は、自ら道の真ん中に立ち、彼の得点に貢献することで命を立つ。一方で、デスレースをおちょくる奴もおり、闘牛士ルックでカラミティ・ジェーンに果敢に挑むも、串刺しにされるバカ。肝試しをして遊ぶ奴らも当然に皆殺しとなる。この他にも、車椅子の老人たちを見捨てて逃げた医者や看護婦たち、間抜けなレジスタンス、やたらとうるさいレポーター、そして大統領に至るまで、ありとあらゆるあらゆる類型の被害者たちが登場する。本当に観ていて厭きない。


 製作はロジャー・コーマン。「B級映画の帝王」の異名を持つアメリカ映画界のドンである。うまい、安い、早いの三拍子、吉野屋のような映画を量産し、娯楽映画の王道を極めたお方。本作の原作を読んでブラックコメディに仕上げることに決めたのは彼である。さすが、心得ていらっしゃる。

 コーマンの決定を受けて監督に抜擢されたのは、ブラックコメディを得意とするポール・バーテル。後に『フライパン殺人』というバカな映画を監督・主演した変なおじさんだ。

 無名時代のシルベスター・スタローンが出演していることも、本作がカルト化した要因の一つだろう。ちなみに、彼のギャラはたったの1000ドル。『ロッキー』でブレイクする数ケ月前のことだった。
 コーマン御大曰く、
「あれはいい買い物だった」。


備考

 本作はトム・クルーズにより『DEATH RACE 3000』としてリメイクが企画されているそうだが、『スパイ大作戦』の例がある。「オレってカッコええやろ?」節フルスロットルの、まったく別の映画になることは間違いない。


関連人物

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