女囚さそり/けもの部屋 東映 1973年 87分 |
私が初めて観た『さそり』がこれだった。そして、いきなりキモを潰した。脱獄したさそりを追う執念の刑事成田三樹夫。地下鉄の中で彼女を見つけて手錠をかける。ところが、さそりはあろうことか、成田の腕をデバ包丁でブッタ切り、そのまま血みどろの腕をぶらさげて白昼の新宿を逃走するのだ。こんなに強引なオープニングの映画、いまだかつて観たことがない。私はたちまち『さそり』の虜となってしまった。 作品ごとに方法論を変えようと決意していた伊藤監督は、今回はさそりを都市に放ち、底辺で生きる女たちとの交流を描いた。他人の境遇に共鳴できるだけ、さそりは成長したのである。そして、彼女たちの生命が脅かされた時、さそりは不死身の必殺仕置人へと変貌する。ジェイソンやフレディもびっくりの神出鬼没の非情ぶり。さそりは遂に都市伝説と化すのである。 さそりに人としての心を呼び戻したのはユキ(渡辺やよい)というマッチ売りの少女である。もちろん、売春している方のやつだ。工事現場でバカになりアーウーアーウーとしかしゃべれない兄を食わせるために、ユキはマッチ1本20円で陰部を覗かせ、値段が折り合えば客も取る。そして、アーウー兄貴の食欲を充たしつつ、性欲も充たしてあげているのである。やがて、兄貴の子を身ごもるユキ。あまりの悲惨に、さそりはかける言葉も見つからない(まあ、さそりはもともとほとんどしゃべらないのだけれど)。 |
『さそり』には毎回、個性豊かな怪女が登場するが、今回は李礼仙の登場だ。これがまあ、なんともサイケな成金ルックでアッと驚く為五郎。ユキの住む付近一帯を仕切るヤクザの情婦で、さそりとはムショ仲間という設定。ショバ代を払わないユキを捕らえて、陰部にゴルフクラブを突っ込んでゲラゲラ笑うさまに、まだウブだったわたくしは「なんて怖いオバハンだ」と震撼したものでした。精薄女を堕胎させたのも彼女で、さそりの「仕置き」が始まったと知るや、あわてて売春斡旋の罪で自首するのだった。 一方、さそりに片腕を奪われた成田刑事は復讐の鬼と化し、ユキを拷問し、下水道に逃げ込んださそりを火あぶりにする。これにはさすがのさそりも一溜りもないだろうと高笑いする成田刑事。しかし、さそりは死んでいなかった。否。死んだのかも知れないが、ジェイソンのように不死身となって蘇ったのだ。 |
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結局、さそりは自首した李オバハンを追ってムショに潜入、オバハンを発狂させ、そして、成田刑事を殺させて「仕置き」を成就。「その後の行方は知れず」という形で伊藤監督は『さそり』シリーズを完結させる。東映は続編を要請するが、伊藤監督は拒否した。 「正直云って当時はね、僕がやめる時は梶君にもやめて欲しかった、という思いはありましたよ。でも、僕は『さそり』3作で完結したと思っていても、彼女自身はまだ完結しきっていない、モヤモヤしたものがあったのかも知れません。鬼のように片腕を切ったり、墓場で手錠を切ったりという役は、彼女にすればショッキングで、このまま行けば伊藤は私を何処へ連れて行くのだろう?(笑)という思いがあったと思いますよ」 だから梶は、伊藤監督とのコンビを解消し、他の監督と組んで新たな『さそり』に挑んだというのである。しかし、梶も『さそり』は伊藤監督のものだと悟ったのだろう。第4作『701号怨み節』を最後に『さそり』を引退する。 |
『さそり』はその後、多岐川裕美、夏樹陽子主演で1本づつ製作されるが、やはり梶=さそりには及ばなかったと見えて、シリーズ化されることはなかった。 『殺人予告』は、岡本のヘナチョロ演技に眼をつぶれば、とてもよく出来た作品であった。監督池田敏春のレスペクト伊藤俊也が大全開。伊藤『さそり』三部作にオマージュを捧げた、ファン感涙の傑作である。 |