マングラー
THE MANGLER
米 1995年 107分
監督 トビー・フーパー
原作 スティーヴン・キング
脚本 トビー・フーパー
スティーヴン・ブルックス
出演 テッド・レヴィン
ロバート・イングランド
ヴァネッサ・パイク
ダニエル・マトマー
数年前、中古機械ブローカーのじじいと埼玉県の或る工場に行った時のことだ。天井まで10メートルはあろうかという広大な工場の中央に巨大なロール機が4台動いていた。ロールが2本、横に並んでいる、いわゆる「練り機」というやつである。ロールの間に材料を投入し、そこで練るのだ。
私はざっと見渡して、重大なことに気づいた。
なんと、4台ともに非常停止装置がついていないのだ。
私は驚いて、同行したじじいに云った。
「これ、ブレーキがついてないじゃない」。
「そうなんですよ。止まらないんです」。
「止まらないんです」じゃないだろお。非常時に止まらなかったら、巻き込まれた人間はひとたまりもない。
「だからね、労働基準局に刺せば一発で営業停止ですよ、この会社」。
じじいはヤバいことをちゃんと知っており、そのことをネタにして経営者を半ば脅迫し、それで商売をしているようだった。
肌の色の黒い労働者たちは、いつ自分が機械に巻き込まれて死ぬかもしれないことなど知らないままに黙々と働いている.....。
戦慄を覚えた私は1本の映画を思い出した。それがこの『マングラー』である。
この映画に登場するのはロールが縦に並んだ、いわゆる「圧搾機」というやつである。置かれているのはクリーニング工場。シーツの皺をとるプレス用機械だ。
この機械には、先の工場のとは違い、ちゃんとブレーキがついている。しかし、そのブレーキが作動せず、おばちゃんが一人、巻き込まれてしまった.....。
うわあッ、なんてイヤな映画なんだろうッ。
たった今、それが現実に起こるかも知れない現場にいるだけに、私は身も心も震え上がったのであった。
原作はスティーヴン・キングのブラックユーモア風味の短編『人間圧搾機』。機械に悪魔が取り憑いて人を食べ始めました、ってな内容で、そのまま映画化したらギャグにしかならないが、トビー・フーパーの巧みな脚色により、ちゃんとホラーとして成立している。特に「冷蔵庫」のエピソードを挟んで物語に説得力を持たせているあたりはさすがである。
主人公の刑事を好演するのはテッド・レヴィン。『羊たちの沈黙』でバッファロー・ビルに扮していた人である。だから、そのキャラも神経症気味で、この配役は絶妙。
それから、ロバート・イングランドがとんでもない怪演を披露しているが、彼の役は原作には出て来ない。
↑おばちゃんが挟まれた。うひゃあ。
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