憲兵とバラバラ死美人
新東宝 1957年 74分
製作 大蔵貢
監督 並木鏡太郎
出演 中山昭二
若杉嘉津子
天知茂
時代劇専門の職人監督並木鏡太郎の作品であるから、タイトルほどに過激ではない。バラバラ死体は見せないし、幽霊もボンヤリと闇に浮かぶ程度である。
ただ、彼の職人監督としての生真面目さが、今になって見れば失笑を誘う場面が多々ある。例えば、冒頭での歩兵駐屯地の井戸からバラバラ死美人の胴体が発見されるシーン。井戸水を一等兵が口にして、
「ん、臭いな」。
この時点で観客は、井戸に屍体が棄てられていることぐらい気づくのである。しかし、監督は他の一等兵にも水を飲ませて、
「臭いな」。
「これは臭い」。
で、伍長に報告して、
「うん。これは臭い」。
そして、曹長を呼んで来て、
「たしかに臭い。これは何かあるぞ」。
そんなこと、もう観客は知ってるって。早く話を進めて欲しいってのに「これは臭い」だけで1分以上もウロウロしている。その上、まだ、
「これは魚のはらわたの臭いだ」。
とか云ってる。
屍体だって!。
このテンポの悪さ、公開当時は普通だったのだろうか?。否。当時の映画をいろいろ見ているけど、これ、当時としても笑っちゃうようなテンポの悪さだぞ。
要するに、バラバラ屍体が発見されて、それが歩兵駐屯地だったもんだから大騒動になるという物語。実在の事件を脚色したものだそうだが、それほど面白い話ではない。
本作の探偵役はエリート憲兵のウルトラ警備隊長=中山昭二。バラバラ屍体の怨霊との対話を通じて数々の証拠を発見する「心霊探偵」だ。憲兵のクセに妙にモラリストで、下宿先のおかみとプラトニックな仲になったりする。なんともほんわかムードの「憲兵映画」で、猟奇地獄を期待するこちらとしては大いに気抜けするのであった。
↑「臭いな」 「これは臭い」
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