左の絵画はグラント・ウッドによる「アメリカン・ゴシック」と題された作品である。1930年という製作年度から察するに、「狂騒の20年代」が齎した旧モラルの崩壊を憂う「ゴシック」な人々の肖像なのであろう。だから、そこから滲み出るのは「家庭的な明るさ」ではない。「ピューリタン的な厳格さ」である。
そして、この絵画のイメージを、舞台を現代に移して描いたのが本作である。
過失により赤子を死なせてしまったシンシアは、精神的にテンパっていた。そんな彼女を励まそうと、夫を含めた友人一行はセスナ機による旅に出る。ところが、エンジン不良で離れ小島に不時着。そこで彼らを待ち受けていたのは、まるで20年代からタイムスリップしたかのような「ゴシック」な生活を送る老夫婦であった。
彼らには2人の息子と1人の娘がいた。夫婦はまるで小児のように扱うが、どうみても五十近くのおっさんおばはんだ。
「こいつら、コレとちゃうか?」
と人差し指を頭に向けてクルクルと回してみせる若者一行は、勝手に家に上がり込むわ、食事の前のお祈りはしないわ、料理は残すわ、煙草を吸うわ、男女が同じ部屋で寝ようとするわ、もう、モラルに欠けることこの上ない。
「神の名の下に制裁を与えなければならない」
と老夫婦たちは、一行を皆殺しにするのであった。
で、精神的にテンパっていたシンシアだけは、かかる状況の下に完全発狂。無事にキ印一家の客人として迎えられるが.....。
極めて後味の悪い作品である。
「ゴシック」な人々がピューリタン的な正当理由の下に「モダン」な人々に制裁を与える、というプロットは面白いが、「ゴシック」たちが完全な気狂いとして描かれているので、そのプロットの面白さが伝わってこない。ただの「気狂い大暴れ」のグロテスク大会で終わってしまっている。
また、彼らがどうして発狂したのかの理由も示されていない。
この辺りをもっと掘り下げて描けば、本作は歴史に残るサイコ・スリラーの傑作になっていたかもしれない。
監督のジョン・ハフは『ヘルハウス』という大傑作をものにしているというのに、いったいどうした?。何があった?。この後に『ハウリング4』なんか監督してるし.....。
やはり名匠と云えども老いさらばえていくものなのか?。
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