B級映画の帝王、ロジャー・コーマンは、デビュー当時のジョナサン・デミと食事をした際に、彼にこのように忠告したという。
「観客を飽きさせないために、始終カメラを動かすんだ」。
サービス精神満点のコーマンらしい忠告だ。彼はいつも観客を意識していた。観客が喜ぶことだけを考えて映画を作っていた。そういう映画は「B級映画」として軽蔑されがちだが、コーマンはそんなこと屁とも思っていない。映画の王道は「大衆の娯楽」であることを確信していたからだ。賞狙いのつまらない映画ばかり撮ってるバカ(誰とは云わない)には、コーマンの爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。
で、そんなコーマンの最高傑作はといわれれば、ためらいなく本作を推す。とにかく、サービス精神満載で、最初から最後まで飽きることはない。
透視を促進する目薬を開発したレイ・ミランド博士。自らが被験者となり、女の衣服が透けて見えるという恩恵を授かる。しかし、同僚の誤診を発見したためにトラブルに巻き込まれ、共同研究者を過失で殺してしまったことから、警察に追われる羽目となる。当面は見世物小屋の「透視男」として身を隠すが、小屋の主人が素性に気づき、ミランド博士を脅してモグリの診療所を経営する。その評判を聞きつけた同僚の女博士が彼を救い出すも、先立つ路銀がない。そこで、ラスベガスで透視を駆使して一獲千金を画策。しかし、あまりの千里眼に素性がバレてしまう。さあ、その後はお約束のカー・チェイス。娯楽映画のすべてがブチ込まれた80分。
「娯楽映画はこう作れ!」
とのコーマンの喝が随所に響き渡る1本である。
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